発覚その2
「私達の一族には、先代より口頭でのみ語り継がれる魔女様との繋がりを伝えられます。これを私達は継承の儀といい、それを行うことにより名を受け継ぐのです」
護り人の選考は全て他の魔女が行う
尤も、そんなに頻繁に魔女が変わることが無いので、護り人も変わらない
人には寿命というものがあるので、選考により決定した人間の一族が代々魔女を護るという仕組み
「貴女は南の....何代目なのですか」
300年の月日が流れ、既に何度代替わりが行われたのか素直に気になった
「私で6代目です」
平均して皆60代前後で替わっているということね
彼女は推測20代中盤から、30代前半と見た
「そうでしたか」
私の声が静かに響く
お互い、どちらから話すか迷っているのだ
チラリと彼女を見る
伏せている目、睫毛までも薄く紅の色がのっている
こんなにも、はっきりと途絶えることなく容姿がそっくりなんて...まるで他の血を一滴も混ぜていないみないじゃない
ふと、そんなことを想った
「―――――名前の、由来ですが」
唐突に彼女が口を開いた
私は何を言うでもなく静かに耳を傾ける
「私の名、ニーナ・コルデリアは紅蓮の魔女コルデロ・ルゼラ様との絆を表すため、名の一部を頂きそれを姓としました。コルデロ様は我らが始祖ニコル様にその名をお与えになった」
ニコル...私が知っている護り人
ルーゼ姉さんと、時には主従関係で結ばれ、時には家族として、時には友人として互いに支え合っていた
今のニーナ嬢と同じ、深紅に艶めく髪と韓紅色の瞳をした女性
「そして、今回の彼。彼は今でこそ姓は違えど本来は北の出身だと聞きました。貴女の主でもある時の魔女様の護り人も確か北国の血を引く人間だったとか....」
そう、私に愛情を沢山くれたアッシュと名乗るその男はアネッサ姉さまが選んだ護り人
アッシュは北の血を引いていた
どういった経緯で私の護り人となったのかそれは定かではない
その理由も、アネッサ姉さまをはじめとした他の魔女も教えてくれることは無かった
「唯一、真名を明かすことが無かった時の魔女様。それは今現在も存在しているから...そして、その伝説にも思われる存在の護り人も生きている。――――そう、ロード・ランウェイと名乗るこの国の宰相も」
ロードさんはアッシュの子孫だ
だから私を見破れた
私と一番繋がりのある彼の子孫だから...
北国へ行ったとき、なぜ彼があれほど迷いなく道を進むことができたのか
それは其処で生まれ育ったからだ
アネッサ姉さまが陛下を間違って入れてしまったとき
その理由に彼女は、懐かしい気配を感じたからだといった。その気配はロードさんのもので間違いはない。常日頃から陛下の傍にロードさんの気配が陛下にも移りアネッサ姉さまはその微かな気配にすら気づき入れてしまった。
宰相という立場上、ほぼ毎日のように付き添っている。更に、あの塔へ来る前陛下が直前までロードさんと会っていたのだろう。
彼はアッシュの子孫だから、私が彼女ニーナ嬢に感じた感覚と全くもって同じだろう。本人ではないけれど、かすかな気配から誤認してしまう・・・
「何か聞かされてはいないのですか?」
「――――いいえ」
彼女の目が怖かった
あの時私を睨んだように、今もまた睨んでいる
多分無意識だ
無意識のうちに、時の魔女という存在に憎悪を彼女は抱いている
(けれど、私はここ300年誰とも接触はしてこなかった)
それは言い切れる
私は時折街に出ていたくらいでその大半を森で過ごしていたのだ
彼女や彼女の一族とあったことなど無い
ならばなぜ、そんなにも時の魔女を憎むのか
無性に腹立たしくなった
意味も解らぬまま、そんなに敵意剥き出しで睨まれている
そして何より
私の自尊心を大いに傷つけられた気がした
今ではこのような、なりで俗世に出ているけれど....
私の魔女としての本能が叫ぶ
目の前にいる人間は、それは人間でしかないのだと
(我にそのような汚らわしい眼差しで感情をぶつけるな)
傲慢だろうか
違うな、そもそも魔女は決して良き存在なわけではない
そこまで考えてスッと冷静になる
既に冷たくなった紅茶を飲みほして彼女を、睨んだ
それは....紛れもなく敵意
一変した私に警戒心を募らせる彼女
だが、ここは密室
周囲には誰もいない
「なんです、急に」
やや強張った声でその韓紅の瞳を細くした
まさかさっきまでは懐かしいと感じていた人間に、こんな感情を抱くとは思わなかった
「――――あまり、そのような目で語らないで欲しいのですよ」
「は?」
分からない、といった表情
無意識なところが本当に厄介だ
「ニーナさんは、時の魔女になぜそのような薄汚い感情を抱いているのです。咋な態度に、私が気づかないとお思いですか?甚だ可笑しい話です―――――先程から何度か感じていた違和感。貴女の根底にどんな闇があるのかはわかりませんが、これ以上は侮辱とみなすわよ」
私の双眼が、一点を睨む
それは怯えをなした韓紅の瞳
「あ....その、瞳はっ」
彼女が驚いたように口を開いたと同時に扉がノックされた
バッと私も彼女もその音のした扉のほうを向いた
(すっかり集中していて人の気配に気づけなかった)
それに、なんとタイミングのいいことか
扉の向こうにはリリーと、この話で先程話題にも上ったロードさんだった
「申し訳ありません、ですが急ぎとのことでしたので...宰相様をお通ししても構いませんか?」
(急ぎ?)
「ええ、話は丁度今終わったところだから、入れて差し上げて」
私の判断に何か物言いたげな表情をするニーナ嬢
けれどこの件は終わったのだと、無言で圧した
リリーに促されロードさんが入ってくる
一度、認知していしまえば、あとはどう足掻こうにも彼の面影が離れなくなる
どことなく目が似ている
そう思い、私は微笑まずにはいられなかった
その横でニーナ嬢が、怯えたような目で私を見ていたことも...掌を膝の上で命一杯握りしめていたことも私には何ら見えはしなかった
と、いうことであっさりとした回でしたね。ロードも主役メンバーの一人ですから。今後どんどん話に乗せていきたいと思いますよ。
アッシュ、忘れてしまった人は3章のOPをご覧下さい
ここまでよんでくださってありがとうございました