発覚その1
「お前にも話しておこう、ニーナ嬢はかの有名な紅蓮の魔女コルデロ・ルゼラの護り人であったソレイユ・コルデリアの血を引く人間だ」
そう言って陛下は説明をした
驚きはしなかった、だってあまりにも似ていたから
「陛下、一つこの機会ですので知っておきたいことがあるのですが...よろしいでしょうか」
知っておきたい事
言い方的に、前から気になっていたが聞くチャンスがなくて聞くに聞けなかった内容なのだろう
「なんだ」
「では、この場を借りて....ニーナ様」
ロードさんはニーナ嬢を見て問う
彼女もまた、なんでしょう...と上品な笑みを返す
「ニーナ様の御名前、ニーナ・コルデリアと紅蓮の魔女コルデロ・ルゼラ...双方の名、少々疑問がありまして」
実に面白い質問だと思った
双方の名の関係性に気づくとは、なかなか耳がいい
私は彼らにばれないようこっそりと口角を上げた
誰も気づきはしなないが
「ええ、宰相殿も薄々お気づきのはず。そちらの国王陛下に至っては既に承知済みのようですが...我々護り人は魔女との繋がりを示すためにその名に魔女様の名を頂戴しているのですよ」
そう言って一度話を切り、深く息を吸う
「これ以上はこちらにも護り人としての守秘義務が御座います故、ご容赦を...」
深く頭を下げる彼女を見て、追及することはしなかった
目の前での行われていた会話について、私は静観していた
思うところはいくつかある
そうだ
今更なのだ、気づくのが遅すぎた
視線の先は...ロードさん
(そもそも最初の時点で可笑しいことに気付くべきだったのだ。普通、生まれ持っての魔法である色彩の魔法をそんなに簡単に見破れるはずがないのだ...)
色彩の魔法は自身の髪、肌、瞳、体格なのどに変化を付けることのできる魔法。他の人間と違って解除するまではずっとその姿のままで入れるという優れものだ
但し体格にいたっては骨格まではゆがめることは出来なので、できる範囲での体格変化となるが...
一瞬で私の瞳に銀の影を見たと言った彼
魔女の十八番の魔法の一つを、たった一瞬とはいえ見たとはどういうことだろう
考えればすぐに分かることだ
辻褄も合う、あの時のアネッサ姉さまの台詞も...頷けるのだ
「難しい顔をして、何か気がかりなことでもあったのか」
思考を阻むように陛下が私に声をかける
陛下だけじゃない、ロードさんもニーナ嬢も私を見ていた
何度が声をかけてくれたのだろうか
すっかり自分の世界に入っていたのだと、後悔する
そして、それと同時に歓喜した
流石にこの場で表情に出すと言ったことはしないが、多分300年の苦しみを多少なりとも和らげてくれるだろう大発見だ
これは、今すぐにでもニーナ嬢と二人っきりで話がしたい
「あ...いいえ、本当に何でもないのです。職務怠慢ですね、申し訳ありません」
「今日はもう下がっていいぞ。なに、仕事といっても後数時間で終わる。シドとロードが居るからお前が居なくてもなんら支障はないだろう」
陛下、それは遠まわしに私に役立たずと言っている様にしか聞こえないのですが....
まあ陛下の優しい心遣いだとポジティブに考えて置くとします
「では、私も今日はここで失礼しても?」
「何か用でもあったのか、時間を取らせてしまったな」
「いいえ...なに、少し彼女とお話がしたいと思ったのですよ。それに、国王陛下の頼みを前にその他の予定など無いに等しいですからね。少々彼女とお話ししたいのですが、宜しいでしょうか」
さらりとうまいことを言う
これ、陛下が女でニーナ嬢が男だったら完全な口説き文句だ
ニーナ嬢の言葉にフッと鼻で笑い飛ばしながら、頷いた
流石陛下、あれしきの言葉ではなんとも思わないらしい
「ただし、あいつも体調がどうにも思わしくない様に見えた。お前は平気か?」
珍しく私を気遣う陛下
ぎょっとするも、別に体調が悪いわけではなくただ考え事に没頭していたからで...そんな理由に罪悪感らしきものが芽生え、平気ですと小さく答えた
「そうか、ならば共に下がっていい。ニーナ嬢も、もし時間が長引くようであったら部屋を一つ用意させよう、いつでも申せ」
ひらひらと書類の束を揺らし下がるよう指示する
ここに居ても、疑問は解決しないか...
私は深く頭を下げた
同じようにニーナ嬢も頭を下げていた
「お気遣い痛み入ります。それでは、本日はこれにて失礼させていただきます」
「有り難きお言葉に御座います。それでは御前失礼致します」
最初に言ったのは私
続いてニーナ嬢
双方の言葉に、ちらりと目を向けるもすぐに書類に目を落としていた
その様子にロードさんが苦笑しながら、また明日と言ってくれた
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部屋に戻ると、リリーが出迎えてくれた
北から戻ってきたときは本当にどうしてくれようかと思う程彼女は私に過保護なほど接してきた
この数週間に何があったかは知りたくもない
「どれ程、どれ程お待ちしていたことか!!嗚呼、なぜ私を共に連れて行って下さらなかったのかと、魔女様が御出立なされた後、後悔の念が押し寄せてまいりました!よくお戻りで!!」
あまりの再会に言葉を失うとはことことを言うのかと実感した
そんなリリーを、今から二人だけで話があるから...と、退室を促した
出来る女官とは事の事言うのか、既にここ一帯の人払いは済ませてありますと言って彼女は一礼し出ていった
(だから、ここへ来る途中から人の気配が不自然なくらいなかったのか。と、いうかどこから今さっきの情報を手に入れたのか気になる)
まああまり深く突っ込むべきではないだろうと判断しニーナ嬢を部屋へ入れた
「随分、静かですね」
部屋に入り、近くのソファに腰掛けるとテーブルの上には既に二つのカップに注がれた紅茶と数種類のお菓子が並べられていた
「私付の女官が、いつの間にか手をまわしていたようですね....人払いはしない方がよかったですか?」
私の質問に彼女は首を横に振ってむしろその方がいいと答えた
暫しの沈黙が訪れる
沈黙を破ったのは、彼女だった
「本当に...彼の魔女、時の魔女様の分血なのですか」
「如何にも。この身には時の魔女の血が流れています」
嘘は言っていない
否定をしなかっただけで...
カチャンとカップとそれを置く皿とが互いに音を立てた
「―――――ボソッ、まさか本当にあの魔女の分血が居たなんて」
「えっ?」
小さな音によって彼女の声がかき消されてしまった
私は彼女が何を呟いたのか、それを聞き取ることができなかった
そこに重要な事が秘められていたことに気づくことは無く....
「いいえ。なんでもないんですよ」
笑って言う彼女を見てこれ以上聞く気にはなれず、逆に今度は私が質問をした
「貴女の名前について...あの場で、あえて最後までは言わなかったようですが。もしかして彼の事を想っての行動でしたか?」
するとニーナ嬢が手を止めた
静かなるは肯定とみなそう
「やはり、分血とはいえ魔女。私も驚きました、彼自身は何も知らないようでしたが....」
彼女が彼にあった数年前も私と同じで最初は気づかなかったそうだ
そして何年か会ううちに、ふと疑問を持ちそして気付いた
「彼もまた、貴方と直接的ではないにしろ切れない縁で結ばれているということでしょう」
そう言いニーナ嬢は再びカップを手にし、少し生暖かくなった紅茶を一口含んだ
(切れない、縁)
「どうにも胡散臭い気配が彼の周辺を漂っているせいでしょうね。私もきっかけがなければ気付くことは無かったでしょう...」
私もまた、カップを手にし紅茶を飲む
ほんのり香るハーブが高まる感情抑えてくれる
「護り人と、魔女の名には少なからず繋がりがある....分血の貴女も魔女としての名をお持ちで?」
「はい、ありますよ――――とても大切な真名です」
(ミアン・レテシェフォードという純血の魔女の真名を...ね)
日が傾き始める
そして私は、新たな真実を手に入れた
はい、今回は寸止めです←
もうお気づきの方もいらっしゃるかとは思いますが、こそっと月詠に教えて頂ければ嬉しいです(苦笑(
じらしにじらした今回の話ですが、次の話では今まで張っていた伏線を一つ回収し、話の展開を変えるつもりです。今後、ミアンがどう変化し、周囲がどういった行動を起こすのか、またどのような変化をもたらしていくのか....よろしければおつきあいください。
長々失礼しました
ここまで読んでくださってありがとうございました