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陛下の専属様  作者: 月詠 桔梗鑾
第4章
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涙の独白

これで4章ラスト...

一話に纏めているのでたぶん、ものすごく長いです


残酷描写(とても軽い)が入ります

読むのに支障はないと思いますが、想像を膨らませ過ぎないよう注意してください←



では、どうぞ



「君のことを、愛しているよ」



その声は遠く闇へと消えていった

漸くこの世界から消えゆくことができるのだと僅かな理性が歓喜している




願わくばどうか...この声を




――――――――――

――――




私には、聡明な父と優秀な母、そして可愛い妹が居た


父と母の出会いは政略的なものだったらしいが、決して不仲な関係ではなく周囲から見ても微笑ましい仲慎ましい関係だった




だが、強いて言えば私の母は特殊な人だった

どちらかというと母方の家系に、だが...



それは父ですら知らない事

私がそれを母から聞いたのは、私がいつか母方の家系に養子として出されるからだそうだ




別に悲しいわけじゃない

その話を聞いて、私は見捨てられたわけではなく、むしろ期待されているのだとわかったから



こちらには妹が居る

その子が居る限り私があちらに行っても支障はない



母方の家系は魔女の血を引く一族だった

その血が私にも流れていると知った時どれ程嬉しく思ったか



誇りに思った



母も、その血を誇れと言った




魔女の血を引いている母は、召喚士の位を王から頂戴していた

無論私もその血を受け継いでいるので周囲より遥かに強く、なにより精霊と言葉を交わすことが可能だった





私もいつか召喚士として立派に役目を果たし、母と共に国を護るのだと信じて疑わなかった



けれど...そんな幸せも、欲に目がくらんだ馬鹿な貴族の手によって終わりを告げる



父が、地主の民から重税を強いて懐を温めていると何者かが王に進言した

王は常日頃の父の誠実なところを知っているから、その報告を信じることはしなかった



だが、どこからともなく証拠が溢れだす

ついには民までもが父が悪いのだと言いのけた



後に分かったことだが、つい最近まで父によく似た人物が誰構わず取り立てをしていたらしい



色彩の魔法だと、気づいた時には遅かった



王も無視できず、我が一族は重い罪を受けた

濡れ衣でありながら...父は一切弁解をしなかった



父は、極刑を強いられた

最後に見た父の姿は....凛々しい聡明な父ではなく、光のない目をした哀れな人形のようだった



母は言った

「貴女は既に養子に出た身。罪には問われない...だけど、この子は違う。可愛い私のもう一人の娘、上手に生きなさい、そして誰にも文句を言わせないくらい強い召喚士になりなさい」




突き放されたわけではない

だって、母は泣いていた



苦しそうに、堪えきれない涙を腕に抱え眠る妹に落としながら

そんな母を見て私が、一緒に行きたいなどと言えるはずもない




「大丈夫、私は....ここでちゃんと生きていきます。だから、どうか...どうかご無事で在って下さい!」



去りゆく母の背を見ながら私は音も立てずに涙を流す

これが最後だ、泣くのはこれが最後




その日は、皮肉にも暖かな風が吹く晴天の春のことだった



母方の家に養子に出されてから沢山の知識を手に入れた

私は先祖がえりというもので、特に召喚士としての資質があったのか精霊との意思疎通能力は他の召喚士に比べ優れていた



この時、齢は13歳

13歳から王宮で働くことが認められるため、期を満たした私は直ぐに召喚士として王宮に召し上げられた



王の謁見の時

最初に、王は私に頭を下げた



そして言った、力強い声で...たった一言


―――――すまなかった




周囲にいた臣下も、誰一人としてそんな王の行動を咎めることはせず、それどころか一斉に頭を下げられた




やはり父の罪は濡れ衣だった

他の貴族が自身の私腹を肥やすための巧みな、嘘



民の抗議でさえ、色彩の魔法によって騙されていたのだとわかった




その時、漸く私は理解した


「――――――全て、大切なものはこの掌から零れ落ちてしまいました。もう、戻りません。返して、いただけますでしょうか?王もご承知の事と思いました、父が聡明であると。我が領地の領民は生活水準が他の領地より遥かに富んでいたことを.....私の家族が、何を問われることは無い無実だったということを!」




私は、怒っていたのだ

何もかも戻ることのないその幸せだった時間に対し憤りを感じていたのだ



目の前にいる人間たちが私達に罪を突きつけた

悪だ、悪だ悪だ....返せ、私の絆




だが王は言った。お前は既に養子の身でありこの事件に一切の関わりは無いと...だからこの件はこれをもって全て解決をしたとみなすと




可笑しい

そんな、そんなに苦しそうに言い、悲しみの表情を私に向けておいて



周囲の臣下も皆、自分のせいではないと言いたげな表情をする



無情な世界だとつくづく思った

13歳、子どもと大人の中間で...私は大人になるしかなかった




笑え笑え

なんと滑稽な姿だろうか、私は何と力がない




「我等が尊き国王陛下。お初に御目文字仕ります...ティクス家が息女、フィアナ・ヴァンシー・ティクスと申します。国の更なる発展と未来永劫の輝きの為、未熟ではありますが召喚士として使えることとなりました」



深く、頭を下げた

悔しかった....憎かった



「お前には、我が息子の護衛として今後働いてもらおう」




だがら



「承知、致しました」




だから、復讐してやろう

幼い私の心に復讐の二文字が出来上がった瞬間だ




―――――

―――




私が仕えた第二殿下は実に活発な人だった

どこに行くにも必ず帰ってくれば体中土だらけ、泥だらけ



王となるには優しすぎて、自由な人

彼だけは、守ろうと思った



だって彼には、オルダンテ殿下には一転の曇りもなく素直でまっさらな心を未だ持ち続けている人間だったから




そんな優しい彼を守りながら裏では、父を死に追いやった貴族を根絶やしにしていった

同じ罪を着せ、拷問は全て私が取り行った



爪を剥ぎ

皮膚を削ぎ

その目を抉り

両手を切り落とし

両足の血を抜き取った




決して、気を失わせはしなかった

許してほしいと懇願する者もいた....が、父は死んだのだ



ならば逆説を唱えようと思ったのだ


「死にたくて仕方がなくなるまで、生きていることを後悔するまで...逃げられると思わないで下さい」




私の拷問方法に異論を唱える者はいなかった

ただ単に、彼らは私のその力を恐れていたのだと思っていた




本当は、異論を唱える臣下をオルダンテ殿下が裏で処理していたことを...私は最後の最後まで知ることは無い



王の血筋がそうさせるのだろうか

やはり第二殿下は、ただ優しく活発な人間ではなかったのだ



全ては私の知らないところで、ことが済んでいたのだ




掃討し終えた後、私は直ぐにオルダンテ殿下の元へ向かい職を辞することを伝えた




私の掌から零れ落ちた沢山の命

手に残るものなど何もない



しかし、オルダンテ殿下は...私の光だった



「君がしがらみから解放される時をずっとまっていた。やっと僕を見てくれた....職を辞すもなにも今日から漸く僕の護衛をするのだろう?仕事を、やる前から放棄するのは駄目だろ」





そういって笑ってくれた

光だ、真っ白な私とは違う、母に似た強さを持つオルダンテ殿下




「謹んで、お受けいたします」



この人を一生をかけて守ろう

復讐の二文字を消し、新たに守ると塗り替えてくれた彼を....私は愛しいと感じるようになった



この時、私は16歳

オルダンテ殿下は20歳


幸せだった

清算をし終えた、この世界を私は好きになり、隣に居る殿下を愛した




だから油断していたのだ

ふと、気づかぬうちに闇は足元から私の体にしがみ付いてきていたことに....



――――――

―――



母と妹と別れて3年の月日が流れた

妹も、もう14歳だろうか...



珍しく家に呼び出されて、私は驚きの内容を耳にする



「母が...死んだ?」




それは母の訃報

召喚士となった私を見ることなく、母は死んでいった


死因は分からないそうだ

跡形もなく周囲に肉片をばらまき無残に散っていたそうだ



その夥しい程の血が母のものだとわかり、精霊が嘆いていたことから母と推測したそうだ



形さえ残らなかった母

ふと、妹が無事かどうか心配になった



唯一の家族

もう、私には彼女しかいない



祈るような思いで彼女を探した

勿論精霊にも協力してもらった、そして見つけた



だから私は彼女に使者を送り、私が与えた家に住まわせた

私は養子に出た身




だから彼女を遠くから守ろう

どんな禍からも、守ろう




そう誓った

そして、母が死んだとされる場所に行くことをオルダンテ殿下に伝えた

彼はとても悲しい表情をしながら、でも了承してくれた




「真相を、掴んで再び戻ってまいります。」



何故か一瞬もう二度と会えなくなってしまうのではないかと思ってしまった


不吉な予感に寒気を感じるも、だが進むしか道は無い



そんな時、殿下は言ってくれた

私が....一番欲しいと望んだ言葉を




「君のことを...愛しているよ」


その日私達は婚約し、将来を約束し合った

―――――――――――

――――




数か月の時が立ち

結婚を目前に控え、私は母の死んだ地へ行くことを決意する



門前で抱擁を交わし、優しく口づけをした



これが....殿下と私の最後の逢瀬


―――――――

―――



私は母の死んだ場所で、衝撃の真実を知る

そして...その真実を誰かに伝えることができないまま、意識は常世へ奪われる




≪嗚呼、なんて忌々しい血。まだ、途絶えぬか....汚らわしい魔女の血が≫




闇に呑まれる、その間際

聞こえたのは....憎悪をたぎらせる、魔女を恨んだ声だった





その後、私は王宮で意識を操られた状態で愛した男の兄の手で殺される

それが二度目の死



ジル様、どうかお許し下さい

貴方の手を、私の血で穢してしまうことを....



―――――――――

――――



そして私は今、再び死を迎えた

一瞬でわかった



最後の理性が訴えた

この人が、私のことを抱きかかえるこの女性が...私の万物の母であると



姿は普通の少女なのに、なぜか崇拝してしまう


少女の作った木の檻で自由の効かない身はただただ佇む



プツンと、音がした

何かが切れる音だった



その大量の魔力を消費し続けるこの黒猫の姿

その器に等しい体と、魂が切り離されたのだ



漸く、自由になることができる

体が猫から人の姿へと変わる



霞む意識の中....嗚呼、幻影だろうか



「ナ....フィ..!!...フィアナ!」



叫びながら近づいてくる、愛しい彼が居た気がした


願わくばどうか...この声を



「わたしの...ひ、かり...いとし、い...―――――」



届いて欲しい

私の人生、ろくなものではなかった




でも、でもね

私にも確かに心から愛する人に出会ったのです



この気持ちを、彼に伝えて下さい

魔女様.....時の魔女様



ゆっくりと瞼が落ちる

私をその腕に抱いて、泣いている貴方


ほろりと私の頬を何かが伝った

それは、彼の涙か...



それとも―――――






「君のことを....愛しているよ」



「私もです、オルダンテ殿下」




もんのすごく長かったでしょう。読みごたえがあったと言ってもらえれば幸いです(・_・;)


今回の話、端折りもありました

流石に1話で彼女の視点を書くのは大変でしたから



今回この章において一番かわいそうな役だったフィアナ嬢

今後、彼女は沢山の鍵と共に再び登場するでしょう...


嘘ははついてはいけません

優しい嘘と、私利私欲のための嘘は価値が違います



時に嘘は必要です

生きる上で、その嘘というスキルはなければならないでしょう


ただし、それは誰を思っての嘘

私利私欲のための嘘は、後々己を追いやるでしょう。その重さは人により比例しますが....



4章これにて完結

ここまで読んでくださってありがとうございました。


5章も頑張ります!

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