そんなつもりはないけどね、と女二人は言う。②
シンプルに先取り夏風邪ひいてました。皆様もお気を付けを。
「ヤクモ! 肉喰いな! 肉!」
「そんなバランスの悪い食べ方、ダメだよ……八雲君……もっと栄養バランス考えないと……!」
俺の皿にどんどんと焼かれたものが積まれていく。
いや、あんたらが食べな?
二人の鯖折り指折りから解放された俺だったが、結局挟まれてめっちゃ食わされている。
俺がヘンデルとグレーテルだったのか? そして、君達魔女?
お菓子の家ではなくBBQのイエーに入れられている。
このイエー、何かヘンデル、なんつって。
「ヤクモ、肉をしっかり食べないとこの女みたいにじとーっとなっちゃうって!」
「八雲君、野菜も食べないと、この女みたいに余計なところに脂肪が集まってバカになっちゃうわよ」
やめて! 二人とも! 喧嘩しないで! それでも喧嘩するなら俺を挟まないでやって!
「うめぇよ、これ、おばちゃん」
おい、普通に食ってんじゃねえよ、トラ。
「ぷはー! でしょ、アハハハ!」
おい、普通に飲んでんじゃねえよ、母さん。
ジュージュー肉が焼けて熱いんだけど、それ以上に女子二人に挟まれて汗をかいてる俺に比べ、実に快適そうな二人が腹立つ。
「ヤクモ……アタシが焼いた肉おいしいわよ……!」
「八雲君、あなたの為に焼いた野菜、食べてくれるよね……!」
前門のきらら、後門の朝霞……! く……! こ、こうなったら!
「いただきまああああす!」
ひとまず、食うしかねえ! 俺はきららの差し出したバカでかい肉を右頬に、朝霞の焼いたカボチャを左頬に詰め込み、かみしめる。
「ヤクモ、ハムスターみたい」
「かわいい」
だろ。俺、かわいい、だろ? だから、もうやめてよ! やくものHPはもうゼロよ! カボチャと肉のコラージュ? マリトッツォ? マリアージュ? とにかくソレがそんな感じで非常にアレだ!
俺はそんなアレを必死で呑み込むと、すぐに次の作戦へと移る!
「よっしゃ! 今度は俺が肉を焼くよ! 二人ともがっつり食べてくれ!」
攻撃は最大の防御と漫画で誰かが言っていた! そんな気がする! なので、俺は食べさせられる側からたべさせる側への移行をはかる。急いで、トングを持ち、一気に肉と野菜を並べ始める! そして、スマイル!
「な!」
せりあがる肉カボチャを抑えながら、必死に微笑む俺。頼む、二人とも……!
「二人とも、俺の焼いたバーベキュー、食べてくれるよな?」
俺の全力上目遣い懇願! が届いたのか、きららは髪をいじり始め、朝霞は口元を抑え、食べさせる攻撃を中止する。
「ま、まあ……ヤクモがそういうんなら食べてもいいけど」
「八雲君が焼いてくれるの? あ、ありがとう……え、えへへ」
よっしゃあああああああああ! 踏みとどまってくれたあ!
逆に考えてよかった! あげちゃってよかった! 急いでどんどんと焼けた具材を置いていく。反撃の隙を与えない! 俺が置いていく具材をニコニコ顔でほおばる二人! うむ、かわいい!
「八雲ぉ~、俺も~」
「あたしも、あたしも~!」
お前らは働け!
バカ幼馴染とバカ母を無視し、次々と焼けたそばから置いていく俺。おいしそうに食べる二人。
きららは大きく口を開けてもしゃもしゃ食べ、めっちゃ笑顔の大型犬。かわいい。
一方、口は大きく開けられないものの、素早い朝霞。口に入れてはいっぱい噛んでてえらい! そして、はにかみ笑顔のハムスター。かわいい。
ああ、これが食べてもらう側の喜びなのか……!
たのしいなあ……。
と、思っていた時期がワタシにもありました。
「ねえ、それはアタシの為にヤクモが焼いてくれた肉なんだけど……!」
「そんなこと八雲君、一言も言ってないよね、ね、八雲君? だから、わたしが食べてもいいハズ。ね、八雲君」
俺への肉の与え合いから肉の奪い合いへと変わる二人。
なんでなの! なんでそうなるの!? そして、この二人、ガチでよく食う!
俺の焼きが追いつかない、だと……!
「八雲ぉ~、もっと肉くれ~」
「あたしも、あたしも~」
って、お前らもたべてんのかい! いや焼けよ、お前らは!
とか、言い出すと朝霞が『ご、ごめんなさい……』とか言って曇りだしそうだし、それにきららも油断できない。この女、めちゃくちゃワイルドで男らしい面もあるが防御力が弱い! ちょっと詰められると、あとでしくしく泣く。それで俺が何十回慰めることになったことか!
だから、今俺だけに焼かせるんじゃねえよ、は禁句! 急な女子二人悪天候行きは俺にダメージが大きすぎる……!
「ねえねえ、きららちゃん。あんまお肉ばっかり食べてるとそのバカでかいどすけべな胸以外にも脂肪がいっちゃうんじゃないかなあ?」
「男はみんなバカでかいどすけべな胸が好きだからいいんだよ……! 大きい肉が好きなの。だから、わたしはもっともっと大きくなっていいの。バスケやってるから太らないし……!」
ひぃいいいいい! なんか、燃えてる! た、太陽!? 二つの星が火を放っている!
バチバチ火花を散らしながらにらみ合っている! そして、ちらっと『お前は胸が大きい方がいいのか、小さい方がいいのか』って見てくるのやめて!
「きららちゃん、バスケやるんだあ……胸にバスケットボールあるから邪魔じゃない、かな?」
「まあ、ちょっと小さい子には分かんないかもだけど、確かにちょっと邪魔だけどね。それでもハンデとして十分かなって思ってる。もしかして、ひかりもバスケやるの? 胸が小さいから動きやすそうでいいね……!」
二人がそのままバスケに移行したぁああああああ! よかった、我が家にバスケットゴールあって!
「懐かしいなあぁ、きららがここでバスケやるの見るのぉ」
「そうか? アイツ、留学前日までここにバスケしに来てたぞ」
アイツは本当に毎日のようにバスケをしにきてた。それはきららなりの気遣い。
『これは、アタシの為のバスケットゴールだから! な、ヤクモ!』
クソ兄貴とクソ親父の置いてったものを、きららの思い出で塗りつぶそうとしてくれた。
まあ、そう教えてくれたのは、
「八雲~、おかわり~」
今、酔いまくっているこの母親だが。くそ、感謝の思いを抱きにくい顔しやがって!
『思い出を捨てることは出来るけどさあ。どうせならそんなんをぶっつぶすくらいいっぱい楽しい思い出作った方がいいって!』
悔しいが、母さんの言葉は俺に沁みついている。だから、俺は朝霞とこんな風になれた。
だから、
「八雲~、あ、トラか。まあいいや、トラ! 冷蔵庫から酒もってこい!」
「う、ういっすぅ~!」
頼むから尊敬できる状態でいて! 俺の親友パシらせないで!
いや、まあ、トラはいいか。アイツにはもっと働かせねば。そう気持ちを切り替え俺は缶ジュースを開けながら、バスケットゴールの方を見る。二人が食ったばかりなのにめっちゃ軽快な動きでバスケをしている。きららは相変わらずめっちゃ鋭い動きに、高いジャンプ力。アメリカでもバスケをしてたんだろう。素人だがめっちゃうまいと分かる。
だけど。
「おお~、朝霞ちゃんも、結構やるじゃん」
母さんの言う通り。朝霞もきらら相手にかなり頑張っている。ブランクはあるはずだけど、その割には身体は動いているし、何よりあのきららの速いドリブルに反応できている。それはきっと朝霞のバスケ部としての努力の証なんだろう。そして、ものすごくいい笑顔。
だけど……。
「八雲、ジュースがもったいない」
母さんの言葉で我に返る。缶を強く握りしめてたみたいで手に真っ黒い炭酸が零れていた。ベタベタして気持ち悪い。
「朝霞ちゃん、今、楽しそうじゃん。戻れはしないんだよ。アタシもあんたも、朝霞ちゃんも」
ジュウと鉄板の焼ける音がする。焦げた肉を取り除く母さん。俺は、近くにあったウェットティッシュで手をぬぐう。
ベタベタが取れるようにごしごしと。
このバーベキューセットも昔からあった。家族四人で何度も使ったバーベキューセット。だけど、もうその日はこない。
アイツが全部ぶっ壊したから。
だから、
俺はぬぐった手を口元に当てて叫ぶ。
「頑張れっ! 負けんな!」
二人にエールを送る。遠いアメリカで一人頑張ってた幼馴染に、苦しんで苦しんで戦い続けた元太陽に、称賛と応援のエールを。今の俺にはそれしか出来ないから。
二人は俺の声に反応してこっちを見て、そして、にやりと笑う。戦う女の笑み。それはめちゃくちゃかっこいい。二人とも、めっちゃかっけえ!
「ああー、今、ヤクモがアタシの応援してくれたからめっちゃやる気出たわ」
ん?
「あはは、何勘違いしてるの? 八雲君は今、わたしの応援したの。だから、わたしのほうがめっちゃやる気が出た」
うん、二人とも、あんまかっこよくないかも。
そして、かなり長い戦いの末……勝ったのはきらら。
「ご、ごめんね、八雲君。応援してくれたのに負けちゃった」
謝る朝霞。なぜ? ていうか、俺は平等に応援してたよ。と、言う間もなく朝霞が俺の胸に顔をうずめてくる。
「ご、ごめんねえー、やくもくーん」
めっちゃ棒読みなんだが。
そして、頭をこすりつけてくる朝霞。これは慰め待ちという奴なんだろうか。だが、流石にまだお付き合いをしていない男子が頭をなでるのもなんですし、かといって抱きしめるのもちがいますし……と、もごもごしちゃう俺。そんな俺をニヤニヤしながら見るトラと母さん。こっちみんな!
そんな俺を助けてくれたのは……
「こ、こら! この悪だくみ女! 負けたのに! そんな風にしてヤクモに抱き着いてるんじゃないわよ!」
きららだった!
「ヤクモ、勝者へのハグは?」
そんなん知らん。お前味方でもないな。すごいパワーで引っ張てくるきららだったが、それ以上にどこにそんな力があるのというハグ力で朝霞が抱き着いていた。やめて! 俺のHP(Hな気持ちを抑えるパワー)はゼロよ! ということで俺は慌てて離れた。
そして、いつの間にか母さんとトラがバーベキューを食べつくしており、バーベキューはお開きとなった。
「ヤクモさあ……」
一緒にバーベキューセットを運んでくれてるきららが俺に話しかけてくる。バーベキューセットを片付けるのは勝者の特権らしい。なんでだよ。そして、それに悔しそうに朝霞は従ってた。なんでだよ。そんな勝者きららが俺をじっと見つめる。男女のくせに美人である。
「ん?」
「あの子のこ……いや、彼女は出来た?」
ぐぬう! コイツめ、またそんなことを聞いてきやがって、嫌がらせのように俺に聞いてくるこの女!
「あー、いいや! その顔で分かった! まだできてないんだな!」
「く……! なぜわかった!」
「あはは! こちとら、何年幼馴染やってると思ってんのさ! でも、うん……なら、まだ負けないぞ! 間に合ってよかった! あはは!」
何を言っているんだ、コイツは。とは言わない。俺はそんなに鈍感系ではない。
というか、むしろ敏感すぎて勘違い野郎系モブだ。だから、分かる。
きららは俺に好意を抱いてくれている。
だけど、それもまた本当に純粋な好意なのかは分からない。
コイツは、兄貴のことが好きだったし、俺を知らずとはいえ傷つけた罪の意識もある。
ずっと一緒にいたから、いたけど、本当に好きなのかは分からない。
まあ、そんなこと言うと本当に俺だって分からない。
好きってなんなのか。
誰も答えなんか持ってない。
だから、決めるしかない。
自分で。
自分の好きを。
俺の、朝霞へのおもいが何か、ちゃんと自分の言葉にしないといけない。
きららとも伝え合わなければいけない。
だから、
「きら……」
「きららちゃんは、間に合ったと思ってるんだあ、ふ~ん、ふぅううううん」
朝霞が、いた。
背後にいた。
声出そうになったし、漏らしそうになった。
「きゃああああああああああああああああああああ! ちょ、ちょっと、アタシとヤクモについてこないでよ! びっくりするし!」
きららの叫びもだいぶびっくりしたけどね。もう俺、心臓バクバクです。
「うん? でも、別に一緒にそれを運ぶのは譲っただけで別についていくのは自由だよね。『おかあさん』にも持って行ってって言われたものをもってきてるし、ね、八雲君?」
はい、そうですね。
頷くことしかできない俺。
「一緒に荷物持つ権利は譲るつもりないけどね」
「じゃあ、隣はゆずるつもりないけどね」
ぷりぷり怒りながら笑うきらら。
にちゃあと笑う朝霞。
三人とも夕日に照らされバーベキューで焼けた顔をさらにオレンジに染めながら、家へと急いだ。
「おおーい! 八雲ぉ~! おばちゃんが花火やろうって!」
「ちょっと湿気てるけどいけるっしょ! うわ、爆発した! あはははは!」
ちょっともう! こっちがセンチな感じでしめかけてるんですけど!?
ていうか、そんな花火やっちゃいけません! しっけてるのが爆発する悪い例をこっちでごらんなさい!
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