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Kの短編集「SF的箱庭プラス」

目立ちたがり屋とタイムマシン

作者: K
掲載日:2026/03/08


 男には不満があった。

 何かすごいことをして世間をあっと驚かせたい。しかし、特にこれといって人より秀でた才能があるわけでもなく、ごくごく普通のサラリーマン生活を送っていた。


 ある日、男は隣家から謎の振動が時々聞こえてくるのに気付いた。

 不思議に思った彼は窓から室内を覗いた。


 一階の部屋に何やら機械のようなものが置かれている。次の瞬間、その姿が光の球に包まれて、その姿が消えるのを目撃した。


 驚いて男は、苦情を入れるフリをして隣家の主人を尋ねた。

 隣家の主人は白髪に長い髭を持った高齢の老人だった。


「時々あなたの家の方から振動が聞こえるんですが、何をやっているんですか?」


「いやはや、申し訳ない。ちょっとした実験をしておりましてな。深夜には実験を控えるから目を瞑って欲しい」


「さっき窓から覗いたら何か機械が消えるのを目撃しました。実験というのは合法的なものなんですよね?」


 老人は髭を撫でながら、少し考え込んでいた。


「君は口が硬いかい?」


「そもそも喋る相手がいません」


「聞いたところによるとIT機器製作の会社に勤めているとか」


「ええ。だから気になりましてね」


「分かった。実は発明に行き詰まっていて助けを借りたい気分なのだよ。入りたまえ」


 老人は男を自室に招き入れた。

 部屋には安楽椅子のようなものがあった。椅子の部分の正面にはスイッチや計器やレバーが取り付けられたダッシュボードのようなものがあり、囲まれ感がある。


「これは一体なんです?」


「タイムマシンだよ」


 男はこの隣人は何を言っているのかと頭を疑った。


「実際に目にするのが早い」


 老人はタイムマシンに乗り込み、レバーを引いた。

 その姿が光の球に包まれ、消えた。その数秒後、再びタイムマシンは同じ場所に現れた。


「とまあこういう発明なのだよ」


 男は驚きで口を開けていたが、どうやらこれはとんでもない研究らしい。と、同時に今まで夢のままで終わっていた自分の欲望を満たすにはちょうどいいという考えが頭に湧き上がってきた。


「短時間、時空を越えることは可能になったのだが、そこから先が難しい。どうか君の知識を発明に生かしてもらえないか?」


「いいでしょう。面白いそうだ」


 その日から男は隣人、博士のもとでタイムマシンの開発に協力を始めた。


 何度もトライエラーを繰り返し、博士と男は平日も休日も休みなく開発を行った。

 博士が風邪をひいてダウンしているときは男が看病もしてやった。


 男の原動力は世間に認められ有名になることだった。博士が男と同じような野望を口にしたことは一度もなかったが、タイムマシンの開発にかける情熱は博士も男も同じだった。


 徐々に問題が解決していき、そうして五年がすぎた。



 タイムマシンがついに完成した。

 これで自分はタイムマシン製作に関わった人物として博士と共に、歴史に刻まれ、永遠にその名は忘れられることはないだろう。ノーベル賞も夢じゃない。


 しかし博士はそんな男の期待を打ち砕く一言を発した。


「タイムマシンは世間に公開しない。我々だけの秘密だ」


 男は驚愕した。


「なぜです!? せっかく造ったのに公表しないなんてもったいない! 世紀の大発明、人類にとって夢の発明なんですよ!」


「タイムマシンがあることが知れたら、大国間でタイムマシンをめぐる争いが起きるかも知れない。第三次世界大戦の引き金になるかも知れないのだよ。だから、この発明は我々だけの秘密として、我々だけで楽しむべきなんだ」


「そんな・・」


 今までのタイムマシン開発に費やした日々はなんだったのか。

 五年もの日々。嫌なことがあってもこの目標があったからこそ頑張れたのだ。それを今更、秘密にして公表しないなんてあり得ない。


 男は決意した。

 翌日の深夜、博士の家に忍び込みカメラ片手にタイムマシンに乗った。


 操作は発明している時に博士から教わって知っていた。行きたい時間と座標を設定してレバーを引く。タイムマシンの周りに光の球が現れた。


 そこに博士がやってきた。タイムマシンの騒音に気付いて様子を見にきたのだ。

 博士はタイムマシンに乗っている男の姿を見て、真っ青になった。


「何をする気だ!」


「今から白亜紀に行ってくるんですよ。タイムマシンのことは世間に公表します。でも、ただ公表するだけじゃあ誰も信じない。証拠に恐竜の写真を撮ろうと思うんです。戻ってきて写真をタイムマシン発表の時に見せれば人々も信じないわけにはいかないでしょう。僕は博士とは違って野心的な人物なんです。何がなんでも歴史を名前を刻み込みますよ、絶対に!」


 博士は止めようとしたがタイムマシンは男をのせたまま部屋から消失した。過去へと旅立ったのだ。

 呆然とした博士一人が残された。


 

 数日後、博士は高校生になる孫娘から連絡があり、ニュースを見るように勧められた。

 

「おじいちゃん、とんでもないニュースがあったんだけどもう聞いた? タイムトラベラーが存在したらしいの!」


 博士は自宅のテレビでニュースをつけた。

 アナウンサーがその驚くべきニュースを語気強めに伝えていた。


「アメリカのモンタナ州にある白亜紀の地層から人のものと思われる化石が発見されました。人と思われる化石はティラノサウルスの化石の腹部付近から発見され、捕食されたものと思われます。手にはカメラと思われるものも持っており、古生物学会はこの化石について、衝撃の発見であり、可能性としてタイムトラベラーの可能性にも言及しています」


 博士は脱力して、悲しげにため息をついた。


「よかったじゃないか・・、これで君のことは永遠に人類史に刻まれたよ」


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