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婚約破棄された【付与の勇者】、のんびり辺境開拓してます〜文字を書き込むだけのお手軽魔法付与スキルがチートすぎて、魔の森だって超余裕で開拓できる〜

作者: 茨木野

「ヨーコ……悪いけど、僕たちの婚約は解消させてもらいたい」

「…………」


 私の名前は、【富士見ふじみ 陽子ようこ】。年齢は27。

 

 4年前、日本でOLをしていた私は、この異世界に勇者として召喚された。

 身長は165センチ。平凡な日本人だ。


 そんな私を異世界に召喚した張本人……この国の王子【ムノーア=フォン=ゲータ・ニィガ】から……婚約破棄を突きつけられた。

 ……ああ、始まった。茶番だ。


「えっと……」


 いきなりすぎて、何を言っているのか。


 いや、理解はしている。ただ、馬鹿馬鹿しいだけだ。

 すると……。


「ああん、ヨーコさん、察しが悪すぎですよぉ」

「セコケチ……」


 ムノーアの隣には、胸だけが無駄におおきな、白い服に身を包んだ女……聖女【セコケチ】がいる。


「ヨーコさんみたいな雑用付与術士は、もう要らないってことなんですぅ。ねー♡ 勇者さまぁ~♡」


 と、セコケチは、ムノーアの腕に絡みつき、ねっとりとした視線を送る。


 そもそも、この世界に勇者として召喚されたのは、私だった。魔王がいて、魔族と魔物が人間界に侵略してきた。


 現地人で対処に失敗し、王家の秘伝【勇者召喚の儀式】を執り行った。

 その結果、私が呼び出された。

 古くからのしきたりに従い、召喚主であるムノーアを引き連れ、魔王討伐のたびに出た。


 そう、本来なら、勇者は私で、王子はその付き添い……だったはずだが。


「そうだね。セコケチ。悪いね、ヨーコ。勇者を倒したのはこの僕、ムノーア。勇者が二人居たら……みんな困惑するだろう?」


 ……つい、こないだ。

 魔王は倒した。ただし、公式の記録上……彼が言うとおり、魔王にとどめを刺したのは、ムノーアということになっている。


 彼は、ただの付き添いでしかなかった。だが、旅をするうちに調子に乗り、前に出て戦うようになり、周りから感謝されるのが快感になったらしい。


『世界はこの僕! 勇者ムノーアが救う……!』

と、いつの間にか勇者を自称しだしたのである。

「そのとおりですよぉ。てゆーかぁ……女が勇者って、やっぱり変でしたよねぇ~」


 とセコケチ。……女が勇者では、都合が悪い。そういうことなのだろう。


 事実としてこの世界に勇者として呼ばれたのは、私なのだが。

 ムノーアは単に自称してるだけだ。

 ……もう、どうでもいいけれど。


「というわけだ、ヨーコ。君には申し訳ないのだけど、勇者の座は譲ってもらう」

「…………」


 手柄は譲ってもいい。

 別に私は、異世界での地位も名誉も欲しくはない。


「……わかりました。勇者を名乗りたいのでしたら、どうぞご自由に。そのかわり……ちゃんと私を、現実に返してください」


 それだけが、私の唯一の要求だ。

 ここへ、勇者召喚されたとき、私はこのムノーアから言われたのだ。


 魔王を倒したら、返すことができる、と。


「ああ、それは無理」

「………………無理、ですか」

「うむ」

「いや……話が違いますね。魔王を倒したら帰すと……」

「いや、言ったかなそんなこと……」

「……本気ですか、それ」


 この人はちゃんと、役割が終わったら勇者は元の世界に帰すと言ったはずだ。


「嘘ではない。勇者は、役割が終わったら、元の世界に帰れるのではないかなぁ? と言っただけだ。帰すことを保証した訳ではない」

「…………」


 ……馬鹿だった。

 いや、違う。四年前の私には、この男の本性を見抜くだけの材料がなかった。


 いきなり異世界に放り込まれ、正常な判断を期待する方が無理だ。

 単なる、こちらの確認不足。それだけのこと。


「……それで、婚約破棄というのは?」

「ああ、古来より召喚主は、呼び出した存在と結まれねばならぬというしきたりがあってね」

「……それで、婚約と」


 知らない間に、婚約が結ばれていたらしい。


「……なら、あなたのやってることって、しきたりを破ることになりませんか?」

「うん? どうしてそうなる? だって……勇者は召喚されなかったことになるのだからな?」


 ……何を、言っているんだ?


「魔王を倒したのは、この世界の勇者であるこの僕だ」

「てゆーことはぁ~……。別の世界から勇者はそもそも呼び出されなかったってことでぇ~。よってぇ、ムノーア様とヨーコさんの婚約はそもそも無し。別の人と婚約しても、なーんにも問題ないわけでーす」


 ……なんだ、それは。

 そっちの都合で勝手に呼び出し、魔王を倒させたくせに?

 その功績を全部、無かったことに……?


「……随分な言い草ですね」

「そんなことはない。君は言ったじゃあないか。勇者の座は譲ると。それはつまり、君が勇者としてやったことは、全部僕のものでいいということに他ならないだろ?」


 ……この男の理論は、もはや理論ですらない。ただの願望だ。

 理解しようとすること自体が、時間の無駄だ。

 そのうえ、嘘までつかれていたとは……。


「でもまあ、僕も悪魔ではない」


 ……もう十二分すぎるくらい、悪魔の所業をしてると思うけど。


「君のこれまでの頑張りをたたえ、君に領地をあげようと思う」

「……領地?」


「うむ。【デッドエンド】という領地だ。この国の外れにある、緑豊かな土地だ。君にはそこを治める領主、および貴族の地位を上げよう。今日から君はヨーコ・フジミ=フォン=デッドエンド辺境伯を名乗るといい」

「うわぁ~。良かったですねぇ、ヨーコさぁん。貴族ですって貴族ぅ~。平民じゃ絶対に貴族になれないんですよぉ~」


 ……嬉しくも、なんともない。四年こっちにいたが、デッドエンドなんて地名、聞いたこともない。


「君は今日から貴族になれるんだ。嬉しいだろう? これで……今回の件は黙っててもらえるね?」


 ……なるほど。これが口止め料か。

 私の四年間の功績は、この『デッドエンド』という聞いたこともない辺境の土地一つで清算されるらしい。


「………………」


 私の、四年間は、ほんと一体なんだったんだろう……。

 現実での生活も奪われ、異世界での頑張りも……奪われ。


 すべてを奪われ、何もなくなった私だけが……こんな異世界に放り出された。ゼロになった……。


 ……いや、OL時代の激務の方が、まだマシだったかもしれない。残業代は、出た。


「…………」


 さて、どうしよう。

 こんな理不尽な目にあって、怒る?

 ……怒る気力も湧かない。ただ、疲れた。


 私には勇者の力がある。この力を使って、この世界をめちゃくちゃにすることもできなくはない。

 でも、それをすればどうなるか……。結末は知っている。


 ついこないだ、倒したばかりだからだ。

 そう……魔王無き世界において、暴力を振りかざす勇者なんて、第二の魔王でしかない。


 復讐は報復を生む。無意味だ。……もう、関わりたくない。

 じゃあ恩賞を蹴って、他国に逃げる?


 ……否だ。どうせ、逃がすつもりはないのだろう。

 辺境伯なんて地位は、監視用の首輪だ。


「……わかりました」


 結局、私は、この王子と聖女の言葉に従うしかなかった。

 ……まあ、せめてもの救いは、この人達の顔をもう見なくていいことだけだ。


 縁もゆかりもない土地で静かに暮らせるなら、別に他国だろうとこの国だろうと、どっちでもかまわない。


 それに……どうせ、私がNOと言っても、なんらかの手段を講じて辺境に閉じ込めるつもりだったろうし。


 こうして私、富士見 陽子は、異世界で魔王を倒したけれど、現実に戻れず、辺境の地で領主をすることになった。


    ☆


 富士見 陽子。27歳。

 異世界に勇者として召喚され、魔王討伐を強いられる。


 召喚主であるムノーア王子とともに、旅に出る。道中、ムノーアは私に変わって勇者を自称しだす。


 ……セコケチなどを仲間に入れ、四年かけて、魔王討伐に成功。……しかも、倒したのは、実質私だ。


 自称勇者は、魔王にとどめを刺そうとしたが、失敗。結局私が彼に変わって、魔王の心臓を破壊したのだ。


 ……でも、彼曰く、

『君が魔王にとどめを刺せたのは、それまで勇者であるこの僕が弱らせたからだよ!』


……とのこと。


「はぁ……」


 辺境にある、デッドエンドという土地へ向かう馬車の中。

 私は……一人ため息をつくしかなかった。


「これからどうなるんだろう……私……」


 待ち受けるのは、デッドエンドという、聞いたこともない田舎の領地だ。

 一応、地図はもらっている。


 思った通り、ゲータ・ニィガの北端に存在する田舎だ。

 隣には奈落の森(アビス・ウッド)という、物騒な名前の森がある。


 どう見ても、危険な土地だ。ここの人達は暮らせていけてるんだろうか。


 ……一番心配しないといけないのは、自分のことだろうけど。

 考えるのも、億劫だ。


「はぁ……」

「お嬢さん、ついたよ」


 馬車が止まる。私は荷台から降ろされる。

 御者さんがボリボリと、頭をかきながら、私に言う。


「その……あれだぜお嬢さん」


 20代くらいの、若い御者だ。彼は言う。


「逃げてもいいんだぜ? なんだったらこのまま隣国まで乗せてってやんよ」

「…………」


 いい人だな。多分私を哀れんでくれてるんだろう。


「ありがとう。でも……領主を任された以上、投げ出す訳にはいきませんので」

「でも、でもよぉ~……ここに人住んでるって噂は聞かないぜ?」


 でしょうね、と同意しかけた。彼女の提案通り逃げるのが一番かもしれない。でも……。


「噂は、噂でしょう? この目できちんと見た訳じゃあない」

「そっか……。わかったよ。頑張ってな。おれぁ……胡桃くるみ商会のマリカ。マリカ・ウォールナットってんだ。何か足りないものがあったら、言ってな。格安で仕入れてきてやんよ」


 マリカ……。え、女の人……?


「んだよ」

「あ、いえ……。ありがとう、マリカさん。何かあれば、ぜひ」

「おうよ。んじゃな」


 と、そのときだった。


「マリカさん、武器は……ありますか?」

「え? なんだよいきなり」

「魔物が来ます」

「! まじかよ! って、なんでわかったんだい? もしかしてスキルとか?」


 私は、こくんとうなずく。


「私には、魔物の位置を探知してくれる、魔道具があるので」

「魔道具……?」


 私の腰には、小さな鈴が取り付けてある。

 鈴は今なお、リリリリイィイイン……と鳴り続けていた。


「【索敵】……? 変わった文字が描かれてるね」


 ……そう、この鈴は私お手製の魔道具である。

 独学で学んだ付与術で作ったものだ。


「それより、武器は?」

「あ、えっと……魔法銃が。でも一丁しかねえよ」

「そう。ちょっと貸して」


 私はマリカから魔法銃を借りる。

 ハンドガンタイプの銃だ。魔力弾を六発打ち出せる。

 これでは多分威力が足りない。


「って! 来た! き、来たぜ! う、うわぁああああああ! ぶ、赤熊ブラッディ・ベアだ……!」


 やはり、大物だった。赤い毛皮のおおきなクマである。

 赤熊ブラッディ・ベアがこちらへ襲いかかってきた。奈落の森(アビス・ウッド)と呼ばれるだけある。


 ドスドスドスドス……!


「ひぃい! おしまいだぁ……!」


 パキィイイイイイイイイイン!


「な! ? み、見えない壁が……阻んでいる? なんじゃこりゃ……!」

「私の作った、結界の魔道具が発動してる」

「結界魔道具! ? なんだそりゃ!」


 私のブレスレット型魔道具の効果だ。

表面には【結界】【自動展開】【敵接近五メートル】と文字が書かれている。


「なんだ、この文字……見たことねえ……」

「……異世界の文字だから」

「異世界の……? 異世界の文字には、こんな……魔法を発生させる力があるのか?」


「……ううん。これが、私の、勇者としての力。【仲間に役割を与える】力」

「役割……?」


 疑問に思ったことはないだろうか。勇者が、どんな職業かと。


 剣士は剣を扱う人。

 魔法を使う人は魔法使い。

では、勇者は? 何を扱い、何を使うものなのか。


 漫画やアニメ、小説の中には、明確に定義されていない。唯一、魔王を倒すもの、としか共通認識がない。


 私もそうだった。だが……こっちに来て、私は理解した。

 勇者とは、仲間を束ねて、魔王を撃つ者。


 仲間を引き連れ、仲間に役割を与え、仲間とともに魔王を倒す。それが、勇者という職業であり、勇者の力。


勇者わたしの力は仲間ありきの能力なの」

「そ、それと……道具に役割を与える能力と、どう関係が?」

「道具もまた相棒、と認識すれば、強くし、役割を与えることができるの」


 私の力は、一言で言えば【強化付与】。

 仲間を強くし、仲間に力を付与する。

その仲間というのは、人間に限らない。


 所有してる物、愛着のある物にも適用される。


「これで終わり」


 右手の先に魔力を集中。

 マリカから借りた魔法銃に、【威力百倍】【爆裂】、と【日本語で書き込む】。それにより、役割を付与する。

 そして……赤熊ブラッディ・ベアめがけて、ぶっ放す。


 凄まじい爆音と閃光が、辺りを支配した。

 ……魔法銃から放たれた一撃は、赤熊を……木っ端みじんにした。


「な、なんて……威力……」


 今の反動で、魔法銃が木っ端みじんになってしまった。

 私は壊れた銃に【自動修復】を書いてあげる。


 すると、銃は元通りになった。


「はい、ありがとう」

「あ、ああ……」

「それじゃ……」


 私はマリカと別れようとする。


「ちょい待った……! あんた……えっと……あんた名前……」

「私? 陽子。富士見 陽子」

「ヨーコ……うん、決めた! おれ、あんたの仲間になるよ!」


「……どういう意味です?」

「だってあんた、やべえ付与術使うじゃん?」

「そうでしょうか」


「そうだよ! いいかいあんた、あんたの作ったこの魔法銃、とんでもない価値がある! 威力を上げ、自動で修復し、しかも爆裂の魔法まで使える! こんなすげえ魔道具を、あんたは一瞬で作っちまった……! やばすぎる!」


「はぁ……それで?」


「あんたの腕は、金を生む。おれら商人のなかでは、そういうとても腕の立つ人間のことを、【黄金の手】の持ち主っていうんだ」

「黄金の手……」


 別に、私の腕はピカピカに輝いてるわけではない。単なる慣用句だろう。


「あんたは、一瞬で超ハイスペックな魔道具を作る。あんたのその手なら、いくらでも金を生み出せる。おれはあんたのその腕をみこんで、あんたの仲間になる」

「…………」

「あんたもここで暮らしてく以上、日用品や、食料は必要だろう? おれがそれを提供する。あんたは、魔道具を代わりに作ってくれりゃ、代金はとらねえ。どうだ?」


 ……まあ、たしかに、生活していくためには、物資の調達ルートは必要だ。

 こんなへんぴなところに、他の商人が来てくれるわけもない。


 商人の彼女が仲間になるのは、合理的だ。


「……わかりました。よろしくお願いします」

「おう! よろしくな!」


 こうして、私の辺境での生活が始まった。

 一方で、私を追放したムノーアや、セコケチは……後から気付く。


 彼らが強かったのは、勇者である私の『仲間』だったから。


 その繋がりを自ら断ち切ったのだ。当然、彼らも弱体化していることに……まだ気づかずにいる。


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ほ、星すら付けれない…
続き気になりました
魔王倒したのに、左遷される闇。セコイチなんて何で仲間にしたのか?
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