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擬人化大戰 ――アマデウス・プリティ――  作者: ゆうきまる
エピソード 02 ジャングル・クイーン
9/15

08

 灼熱の太陽の下、ふたりはいまなお対峙していた。繰り返される攻防のなか、互いの優劣が次第にハッキリとしてくる。

 それぞれが持つ得物のリーチによって中距離では長槍を持つルッキオーネ、近距離においてはチェーンソーを構えるミカが有利となる。では、さらに近接戦闘となる至近距離での戦いとなると?

 これはもうルッキオーネが圧倒していた。

 ミカの内側へ滑るように入り込み、腕や脚をタイミングよく畳んで肘と膝で相手にダメージを加える。そして、一気に引いては長槍を縦横無尽に操り、敵の自由を許さない。

 おそらく、眼の前の存在が【ゾンビーメイデン】以外であれば決着はもう付いていただろう。

「……イライラする。小賢しさも小回りの良さも何もかもイライラするのよ!」

 ミカの全身は連続した殴打や刃物による切り傷でボロボロだった。それでも立ち続けていられたのは、彼女が冥府神の【擬人化姫アマデウス・プリティ】であったからだろう。どれだけの負傷もどれほどの疲労も少女には関係ない。意識がある限り、戦いつづけ抗いつづける。それでもいまはちょっとだけ心が折れた。

 不意に後方へ二、三歩、後ずさる。無意識うちに敵と距離を図ろうとしたのだ。互いの武器のレンジ外。仕切り直しのための一瞬の遅緩。

 その、『油断』をルッキオーネは待っていた。

「そこだ! いけ、ブラックマンバ!」

 大きく槍を振りかぶり、ななめ下からフルスイングする。どう考えても刃の先端が相手に届くわけはない。そのように見えた瞬間、ブラックマンバの刀身に幾筋もの分割線が現れた。

「なによ! それは……」

 意識の外側から放たれようとしている敵の攻撃。あっけにとられたミカが即応できずにいると、ルッキオーネの武器が変形した。黒い刃がいくつものパーツに分裂し、大きく延びる。間をつなぐのは細く長い一本の鋼線。

 蛇腹刀。ここまで隠し続けた必殺の一撃を眼前の強敵に撃ち放していく。弧を描くブラックマンバ。その先端がチェーンソーから片手を離していたミカの脇から背中へと抜け、後方から少女の首筋に深く食い込む。そして、フックを掛けるように柄を引いたルッキオーネの動きによって、脇の下の太い動脈をも同時に切り裂く。

「ああああああああっ!」

 衝撃に大きく叫び声を上げるミカ・ロースト。ふたつの太い血管からはどす黒い体液が流れ出し、彼女の身体を伝って地面へとこぼれ落ちていく。

「痛みがないとしても、大量の血液を失って、なおも意識を保っていられるか? 見ものだわ」

 ブラックマンバをもとに戻し、うろたえながら上半身を震わせている相手に対し、なおも気を抜くことなく注意を払う。

「……ふ、ふふ、ふふふふふふふふ!」

 絶望から、触れたように奇妙な声を漏らす冥府神の擬人化姫。だが、油断は禁物である。なおを視線は変わらず、傷だらけの少女へ向けられていた。

「よかった、よかったわあ……。これであたしの勝ちぃ!」

「な? なにを、一体?」

 意図せず聞かされた衝撃の独白。

 何を根拠に敵が勝利を確信しているのか、まるで見当がつかない。

 【ゾンビーメイデン】の身体から、なおもあふれてくる漆黒の体液。どす黒い血溜まりが彼女の足元から一筋の線となって長く延びていた。

「!」

 それを見たルッキオーネが視線をあわてて落とす。自身のすぐ近くにまでいつの間にか迫ってきている少女の血。

「これは……?」

 異変を感じた。だが、どうするのが正しい反応であるのかわからない。すると……。

 突如、液体が泡立った。ボコボコとした気泡がふたつ、みっつと浮かんでくる。そこから死者の顔が浮かんできた。理解不可能な現象に思わず立ちすくむ。

「おどろいた? おどろいたわよねえ! これがあたしの能力、【バブルヘッド・リビングデッド】よ! 覚悟しなさい!」

 ミカ・ローストが声を大にして自身の力を喧伝する。そして、ルッキオーネの足元で薄く広がった血溜まりから死者の手が伸びてきた。

 危ない! そう感じたときにはもう遅い。

 ゾンビの腕が女の子の生足に絡みつく。どうにか振りほどこうと試みた次の瞬間、別の亡者の両手が彼女の反対側の足首をガッチリとつかんでいた。

「……こ、このぉ」

 あっという間に下半身の自由を奪われてしまったルッキオーネ。立ち往生する様を睨めながら、ふたたびチェーンソーを両手に構えたミカ・ローストがゆっくりと近づいてゆく。

「どいつもこいつも単純なのよねえ。一対一でかたを付けろなんて、どこにもそんなルールはないのよ。数は力。その力がないやつから消えていくだけ……」

 先程までの醜態はどこに消えたのか、訳知り顔でバトルロイヤルの極意を語るミカ。生き残りたければ味方を増やし、多勢を持って少数を征するべき。至極、当たり前の結論なのだ。

 血まみれの姿のまま、凄みを見せる【ゾンビーメイデン】。なぜ彼女はこうまで無防備な格好のまま、いくつもの死線をくぐり抜けているのか、いまならば分かる。まずは相手を油断させる。さらにはダメージを受けたことが明確となり、相手を油断させる。もうひとつ、普通であれば致命傷となるほどの深手を負うことで、相手の油断を誘う。この三つだ。大事なことなので三回言った。

「これで終わりか……。ちょっと、名残惜しいわね」

 複数体のゾンビたちにより、がんじがらめとなったルッキオーネ。もはや腕の一本も自由には動かせない。そんな彼女の無様な状態を眼の前にし、ミカが少しばかり寂しそうにひとりごちる。

「なんてね! そんなわけないでしょ!」

 手のひらを返したような言動。思いっきり両腕でチェーンソーを振り上げ、回転する刃先を敵に叩きつけようとする。だが……。

 横合いから白い影が飛び込んでくる。そいつはミカの腕に牙を突き立て、勢いのままに少女を引きずり倒した。

 あらがう少女をまったく苦にせず、さらに後方へと敵を引っ張っていく。

「レオシルバー!」

 自身のピンチに駆けつけてくれた存在。その名をルッキオーネが叫ぶ。

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