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擬人化大戰 ――アマデウス・プリティ――  作者: ゆうきまる
エピソード 02 ジャングル・クイーン
7/9

01

 サバンナの大地を風が渡る。

 草食動物たちが草をみ、水辺を求めて移動をする大型獣。獰猛な捕食者である猫科の動物たちも降り注ぐ陽光のもとでは惰眠をむさぼるのみ。

 草原を見下ろす高台に透けるような白い肌の少女がいた。

 白く輝く獅子の毛皮を頭に被り、しみひとつないきれいな肌をわずかに包んでいるのは純白のビキニ。腰にはファーのベルトを付け、うしろに垂らした部分はまるで長い尻尾のようだった。足元には滑り止めの同じく白いサポーター。そのかたわらには一頭のホワイトライオンが控えていた。

「なにか来る。ひどく嫌な匂いを風が運んできた……」

 女の子は、ほんのわずか眉間にシワを寄せて異変を察した。ホワイトライオンも時を同じくして、低く唸り声を上げる。

 彼女の正体は医療神アスクレピオスの擬人化姫アマデウス・プリティ、【百獣の女王】ルッキオーネ。片手に象の牙が装着された長槍。柄の反対側にはもう一本、刃が黒い直刀が地面へ突き刺すように付いていた。

「行こう、レオシルバー。きっと、敵が来たんだ。あいつらをこの大地アルズィで好きにさせるものか」

 ホワイトライオンがいまにも飛び出さんとして、頭を低くしている。その背中にルッキオーネがまたがると、レオシルバーは臆する気配もなしに崖へと駆け出した。

 急傾斜の足場を軽やかに舞い降りていく。草原が近づくと、大きく跳躍。

 軽やかに原初の大地を駆けていくひとりと一頭。その視界に地平線の彼方から立ち上る大きな土煙が現れた。

「これは……。死の香りがどんどん強くなってる。一体、なんだ?」

 大地に生まれ、大地に還るのがサバンナンの掟。そのことわりをあざけるような謎の存在。ルッキオーネの心に一抹の不安と戦いの予兆が訪れる。



 大地を蠢く人の群れ。だが、その中に生きているものはひとりとして存在していない。

 先頭付近に広い木製の台座が確認できた。

 下では数多の亡者たちが両手で台を支えながら走り続けている。中には足がもつれて転倒し、他のゾンビたちに踏み潰されるものもいた。それでもすぐに周りから代役が補充され、行進に滞りは一切ない。

「あーーーっ。やっぱ、あっついわねえ!」

 死者たちが支える台座の上。

 だらしなく足を投げ出し、行儀悪くピンクのキャミソールの襟ぐりをつかんで、みずから風を胸元へ送り込もうとしている少女。

 擬人化姫アマデウス・プリティ、【ゾンビーメイデン】ミカ・ローストがサバンナに姿を現す。

「上着なんて付けていられないわよ。どうせ、だれも見ていないんだから、へーき、へーき」

 そういってキャミソールを両手で一気に捲し上げる。大胆にもあらわとなった上半身には、ビビットカラーのチューブトップビキニが付けられていた。

「は? だからって、見せるわけ無いでしょ」

 隣で女王ファラーオに仕える奴隷よろしく大きな羽扇で彼女に風を送っていたゾンビ。そいつに向かい、いたずらっぽくミカは微笑む。

 そして、今度は下半身に履いているデニム地のショートパンツに手をかける。刹那……。

「ん?」

 なにかの異変を感じて、顔を上に向けた。

 陽光をさえぎる小さな影。それは見る間に大きくなり、すぐにハッキリとした人の形へ変化した。

 あわてて近くに置いてあるチェーンソーへ手を伸ばすミカ。本能的に危険を察し、大きく後方へ飛び退った。

 次の瞬間、閃光のように上空から台座へ飛び降りてくるルッキオーネ。

 着地の衝撃で粉々に砕けた木製の台座。勢いで吹き飛ぶ奴隷代わりのゾンビと、まとめて潰れる運び手の亡者たち。

 さっそうと現れた【百獣の女王】は片膝立ちの姿勢からスッと立ち上がり、眼前の敵をまっすぐに見据えた。

「へぇ……。あんたがこの場所の擬人化姫アマデウス・プリティってわけ? 探す手間が省けて逆にありがたいわね」

 相手の強襲にひるむ気配は微塵もなく、むしろ嬉しそうにミカが語りかけた。

「お前は……何者?」

 異形の集団を従えた謎の存在。その正体を短く問う。

「決まっているわ。あんたのお仲間よ。あたしはミカ。【ゾンビーメイデン】、ミカ・ローストよ」

 決まり文句のようにみずからを名乗った少女。それを聞いた瞬間、ルッキオーネが得心したかのようにつぶやく。

「……そうか、お前が冥府神の擬人化姫アマデウス・プリティか。わが神聖なる大地アルズィを侵すことは決して許されない。覚悟しろ!」

 手にした長槍、黒い刃を持つ【ブラックマンバ】の剣先を敵に向かって構える。相手のやる気に満更でもない喜色を浮かべながら、ミカが小気味良く応じた。

「いいわねえ、そのやる気! 心が震えるようだわ! 存分に楽しみましょうよ!」

 表情に狂気の色をにじませながらガソリン式のチェーンソーを起動し、スロットルトリガーを二度、三度と押し込みながら爆音を掻き鳴らす。

 威嚇的なそのアピールに、しかしルッキオーネがどこか醒めた調子で彼女を値踏みする。

「心が震える? 死者であるお前に、そんな感情の浮き沈みが本当にあるのか? これ見よがしに肌を晒しているが、汗ひとつかいていないお前の身体に熱が籠もるとでも?」

 医師が患者を診るときに、まずは相手の表情、全身を観察することで異常や症状を判断する『視診』。まさに医療神アスクレピオスの擬人化姫アマデウス・プリティとしての力をいかんなく発揮する。

「……ふん。見た目はただの痴女のくせして、存外に理知的なのね。ま、その冷静さがいつまでつづくか楽しみだけど」

 さして露出度に違いのない相手を安易に侮蔑する。口撃は互いに痛み分けといったところであるか? ならば、あとは実際に刃を交えて互いの攻撃で敵を討つだけだった。

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