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擬人化大戰 ――アマデウス・プリティ――  作者: ゆうきまる
エピソード 01 走り屋伝説☆
6/9

05

 広い庭を抜けて、敷地の奥まった場所にたどり着くと、そこには奇妙な建物があった。

 周囲を白く塗装された金属の壁で囲み、大きく開かれた部屋の入口からは怪しい機材がいくつも並べられているのが見えた。

「ここが、【ラジエーション・オータム】か……」

 威圧感を覚えた軽トラのマックが緊張した面持ちでつぶやく。

「そうか、お前はハニービーに合うのは初めてだったな」

「ああ……。彼女が【モーターズ】専門のお医者さん、ってことくらいしか知らないよ」

「【彼女】、ねえ……」

 含みをもたせたボルトのつぶやき。

 その時、入口上部の壁に濃ゆい紫のシャドウを付けた丸い両目が浮き上がった。

「だれよぅ、こんな時間にやってきて……。あら? ボルトちゃんじゃない。どうしたの、また釘でも踏んでパンクしちゃった?」

 やさしい物言いで語りかけてくる謎の存在。うん、やさしいんだが……なぜだか声が野太い。

「や、やあ、ドクター……。夜おそくに悪いね」

 怪しさ満載の存在におずおずと挨拶するボルト。

「いいわよぉ。かわいいボルトちゃんのためだから、わたしも頑張っちゃうわ。おや、そっちの子は初めて見る車種ね? よろしく、【ハニービー】こと、ドクターオータムよ」

 マックの存在に気づいたハニービーがほがらかに自己紹介をする。同時に片目をバチッと閉じてウインク。多分、くちびると手があれば、投げキッスのひとつでも飛ばしていただろう。呼びかけられたマックは返事をするどころか、その場で固まっている。

「ドクター。今日来たのは、自分のためじゃないんだよ。彼女をすぐに直してほしいんだ」

 代わりに、ボルトが軽トラの荷台に積まれている女の子へ注意をうながす。その言葉にハニービーがまぶたを半分閉じて、まじまじとV8を凝視した。まあ、実際には各所に設置されている定点カメラでモニターしているのだろうが……。

「この子は【人間】の女の子かい? 驚いたわね。資料では見たことがあるけど、まだ生きている個体なんて初めてだよ。でもねえ、わたしは【モーターズ】の医師なのよ。人間は専門外だわ」

 少女の姿にやんわりと断りを入れる。

「ちがうよ、ハニービー。彼女はおれたち【モーターズ】の擬人化姫アマデウス・プリティなんだ!」

 だが、ボルトがすぐにV8の正体をハニービーに伝えた。その情報にドクターオータムが大きく目を見開く。

擬人化姫アマデウス・プリティ? 噂には聞いているわねぇ……。神々の戦いの執行代理人、種族の代表者。だとすると、この子も見た目がちがうだけで中身は【モーターズ】なのかしら?」

 俄然、興味を掻き立てられた彼女? が、ついみずからの仮説を口にする。ならば話は早い。

「わかったわ。ラジエーションルームにその子を入れなさい。あとは部屋の外でまっててちょうだいね」

 二台に指示を出したあと、部屋の明かりがにわかに灯る。ボルトたちがV8を載せたまま、室内に入った。白い壁に覆われた部屋の中には大型の機械が端に鎮座している。あとは中央に大型リフトが一基のみというシンプルな構成。

 マックが天井から降りてきたハニービーのマニュピレーターに助けられながらV8をリフトの上へ移した。

 その後、二台がふたたび廊下に出ると、静かに両開きのスライドドアが閉じる。扉の表面には、二枚の板を合わせることで巨大なくちびるが完成するよう、模様が描かれていた。上部の瞳と一体でハニービーの顔が出来上がるという塩梅である。まあ、チーク代わりに両頬の部分でラジオハザードマークが示されているのは、あまり笑えない冗句であるのかもしれない。

「あら? あらあらあらあら? 驚いたわね、本当にこの子の中身は【モーターズ】だわ。一体全体、どういう機構と原理でこの形態を実現できているのかしら。ある意味、科学への冒涜よ」

 神の御業にケチを付けながら、擬人化姫アマデウス・プリティの正体に興味津々のご様子。

「まあ、仕掛け自体はとんでもない代物だわね……。でも、改良の余地はまだまだありそうよ。まずはこの、ひび割れて使い物にならなくなったガスケットを交換して……。ああ、そうだわ! 同時にボアアップもほどこして、出力レンジを大きくしておきましょ。それがいいわ。バブルも五バブルで燃焼効率を高めて、ツインカムでシリンダーの回転をスムーズに……。でも、やっぱりNAのままだとピークパワーが物足りないわねぇ。あれ、やっちゃう?」

 V8を修理するだけでは飽き足らずに、どんどん改造方面へのめり込んでいくハニービー。室外にまで漏れ聞こえてくるその声にモーターズの二台も不安そうな面持ちでV8の復活を待ちつづける。

「お、おい……。本当にこのまま任せておいていいのか? なんだかすごいことになってるようだけど……」

 ついついこらえきれずにマックが不安を口にする。だが、ボルトはまっすぐにいまも閉ざされている部屋の扉を見据えながら、躊躇せずにこう答えた。

「ハニービー……。ドクターオータムは【モーターズ】の進化のために車両の形を捨て、いまの姿に自分を改造したんだ。その知識と技術はすでに【神業】と呼ばれている。だからきっとV8は大丈夫さ。元気になってもう一度、【モーターズ】のために戦ってくれる……。その時には、おれも一緒に戦うんだ。彼女の隣で」

 覚悟が少年を男に変える。

 男には、やらねばならないことがある。

 ボルトは男になったのだ。

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