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擬人化大戰 ――アマデウス・プリティ――  作者: ゆうきまる
エピソード 01 走り屋伝説☆
4/9

03

 彼女は取り巻きを多く引き連れ、まるで死者の女王のようだった。銀色の長い髪を両サイドでふたつにまとめ、小麦色の肌を包むのはピンクのキャミソールとデニム地のホットパンツ。スラリとした生足には下にビーチサンダルを履いただけという、一見するとどう考えてもバカンスをエンジョイしているギャル以外の何物でもなかった。

 だが、少女の腕に握られているガソリン式の大型チェーンソー。唸りをあげるエンジンがミスマッチを通り越し、恐怖すら感じさせる光景となっている。

「やぁぁぁっと、見つけたぁ!」

 開口一番、嬉々としてチェーンソーのスロットルトリガーを繰り返しオンオフし、威嚇的に駆動音を轟かす。

「あんたがどの神様のお人形か知らないけど、出会ったからには遠慮なくブッ潰させてもらうわよ!」

 問答無用で一方的に宣言し、少女は走り出す。

「何者だ、お前は?」

 突如、現れた闖入者に困惑の表情で問いかけるV8。鬼気迫る相手の形相に剣を構えて応対した。

「さっそく、やる気になってくれたってわけ? うれしいわ、ゾクゾクする!」

 嬉々とした声を上げ、持ち上げたチェーンソーを力任せに叩きつけようとする。

 刃と刃がぶつかり合い、派手に火花が散った。

「あたしはミカ! ミカ・ロースト! 【ゾンビーメイデン】、小麦肌のミカ(ミカ・ロースト)だ!」

「ゾンビーメイデン? だとすると、お前は冥府神の擬人化姫アマデウス・プリティなのか!」

 敵の独白に驚くもわずかな単語から正体を突き止める。

「そうね! あんな小汚いおっさんの言いなりなるのは癪だけど、好きに暴れられるのなら、それもいいわ」

 みずからの主神に対して、この言い草である。多神教の神様はある程度、おおらかでなければやっていられないという証左であろう。もっとも、彼女たちは使命に従い、出逢えばこうして干戈かんかを交えている。ある意味、神への忠誠という点ではこれ以上ないほど、真摯と言えるのかもしれない。

「お前はすでに他の擬人化姫アマデウス・プリティと交戦したのか?」

 V8が剣戟を繰り広げながら短く問うた。

「なぜ、そんなことを気にする?」

 連続する打ち合いも徐々に優劣が明確となりつつある。誕生間もないV8は出力が安定せず、顔にはわずかだが疲労の色が見え隠れしていた。さらには能力以上に格差が大きい【眷属】の存在である。

 先んじて、亡者たちを尖兵に送り込んだミカと個人で奮闘するしかないV8。使える手駒を有効に用いた結果がいまの状況である。さらには有意義な方法すら、用意周到に伏せられていた。

「そろそろ限界が近いようね。だったら!」

 組み合う手応えの弱さを鋭敏に感じ取り、ミカ・ローストが何事かを企むように微笑した。

「な? まさか!」

 同時にV8の近くでいましがたまで微動だにしていなかった死者の残骸。それが不意に少女の足元へ絡みつく。

「切って捨てる……。それだけじゃ、こいつらは止められないのよ!」

 V8の焦った様子を見て、ついほくそ笑むミカ・ロースト。その間にも、片手片足だけのむくろや上半身だけの肉片、さらには首のない死体までゾロゾロと動き出し、少女の体にまとわりついた。ついにV8は全身を拘束され、身じろぎひとつ取れなくなる。

「初戦にしてはうまくいったわね。感謝するわ。お礼に一撃で倒してあげる」

 思いがけない返答。互いに初陣であったというのに、V8にしてみれば結果はこうも無惨であった。何が違う?

 パワーか、経験か、能力か?

 すべて違う。二人の力量は双方、遜色ない。差があるとすれば、おのれの力を正確に把握し、戦場の環境を活かす狡猾なやり方を構築することができたかどうかだ。

 目覚めたばかりのV8には到底、不可能。

 ならば、彼女が採るべき最善の策は、この場から生きて【逃げる】ことだった。それを選べなかった時点でこの展開は必定。

「もう会えないのね。寂しいわ……」

 別れの言葉を口にして、ミカが大きくチェーンソーを振り上げる。

「なんてね。そんなわけないでしょ!」

 スロットルトリガーを引き絞り、高速回転する凶刃でV8を正面から袈裟斬けさぎりにした。途端に胸から血があふれる。斬られた勢いで、少女の身体がまとわりついたゾンビもろともスクラップの山に倒れ込んでいった

 衝撃でうず高く積まれたガラクタがバランスを失い、雪崩を打って崩れ落ちる。

 あっという間にV8の姿が金属のゴミの中に埋もれてしまった。ぞして、天が涙を流すように雨粒がポツリポツリと落ち始める。

 決着はついた。だが、相手の生死は確認できない。判然としない状況にミカの表情がふと曇る。この展開は彼女にとって、あまり良くないのだ。これ以上の長居は無用。見切りをつけて、女の子はジャンクヤードをあとにする。数多くいたゾンビたちもいつの間にかすっかりいなくなってしまった。

 雨音がすべてをかき消すように地上を濡らす。そこにはもうだれの姿もなかった。残されたのは動かない何百台もの車だけ……。


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