変わらぬ日
今回は真面目なルナティナが見れるかも?
それではどうぞ。
今日は、いつもと同じ朝だった。
窓から差し込む光も、廊下の足音も、屋敷の空気も、昨日と何一つ変わらない。
だから私は、何の疑問も持たずにベッドを降りた。
「……あ」
カレンダーに目が止まる。1月26。一日の始まり。
それだけだった。
誕生日。
そういえば、今日だった気がする。
「……ふーん」
思ったより、心は動かなかった。
特別な日、という感じはしない。
戦いが止まるわけでもないし、屋敷が静かになるわけでもない。誰かが突然いなくなる日でもない。
ただ、日付が一つ進んだだけ。
「別に……いつも通りでいいか」
独り言みたいに呟いて、私は部屋を出た。
食堂では、みんながいた。
でも、様子はいつも通り……に見えた。
視線が合うと、すぐ逸らされる。
妙に静か。トリスは落ち着きがなく、ロディはやたらと咳払いをしている。
「……なに?」
「なんでもない」
「今日はいい天気ですね」
「寒いな」
「……」
絶対、何かある。
でも私は、深く考えなかった。
誕生日だからって、世界が変わるわけじゃない。
私はそういうの、あんまり気にしない。
はずだった。
昼を過ぎた頃。
「来て」
呼ばれて、応接室の扉を開けた瞬間。
視界が一気に、色づいた。
飾り付け。
花。
テーブルいっぱいの料理。
そして、並んで立つ五人。
一瞬、頭が追いつかなかった。
「……なに、これ」
一斉に、
「お誕生日おめでとうございます」
胸の奥が、ぎゅっと掴まれた。
「……今日、私の誕生日だって……知ってた?」
「当然です」
当然。
その言葉が、胸に落ちる。
「……私さ」
声が、少し揺れた。
「ただの日だと思ってた」
誰も遮らなかった。
「誕生日って、別に……変わらない日で」
「やることもあるし」
「私が生きてる日が一日増えただけで……」
そこまで言って、止まった。
「でも」
視界が滲む。
「祝われると……こんなに……」
言葉が続かなかった。
「嬉しい」
その瞬間、空気が一気に緩んだ。
「ほら、お嬢様」
「やっぱり喜ぶじゃないですか」
「顔に出てます」
「わかりやすいな」
「主人、笑ってる」
私は、思い切り息を吸って、笑った。
「うん。嬉しい……私、誕生日嫌いじゃないかも」
そう言うと、誰かが小さく笑った。
正直に言うと。誕生日って、祝われるのは得意じゃない。
嬉しいけど、どう反応していいか分からなくなる。
だから私は、いつも通りでいようとした。
でも。
応接室の机の上に並んだ包みを見た瞬間、
さすがに無理だと思った。
「……なにこれ」
「逃げ場はありませんね」
エドガーがそう呟く。
逃げ場ってなに。
私は一つ、深呼吸してから、一番近くの包みを手に取った。
包み方が、もうエドガーだった。
無駄がない。
角がきっちり揃っている。
中に入っていたのは、革張りの小さなケース。
開くと、中には万年筆。
派手じゃない。
でも、持った瞬間に分かる。
「……書きやすそう」
「お嬢様は、言葉を残す方ですから」
「記録も、決断も、消えるものではないほうがよろしいかと」
私はペンを軽く握る。
「……ありがとう。大切に使う」
エドガーは静かに頷いた。
次に差し出されたのは、少し不揃いな包み。
「分かりやすいね」
「うるさい」
中身は、本。
でも一冊じゃない。
薄い本が数冊、紐でまとめられている。
「旅記」 「詩集」 「短編」
「全部、気に入りそうなのを選んだ」
「気に入らなかったら、貸し出しでいい」
私は一冊めくる。
「……これ、好き、だろ」
それから、紙袋。
中には焼き菓子。
「読む時、腹減るだろ」
「分かってるね〜」
「ありがとう、お兄」
そう言うと、ロディは少し照れたように目を逸らした。
彼は少し緊張した顔で包みを差し出した。
「……こちらを」
「うん」
中身は、柔らかい布。
広げると、ストールだった。
落ち着いた色合いで、触り心地がいい。
「寒い時にルナティナさんは、無理をなさいますから」
私は肩にかけてみる。
「……あったかい」
「似合ってます」
もう一つ、小さな箱。
中には、香り袋。
「強くない香りです。邪魔にならないように」
「……ありがとう。すごくリオンさんらしい」
リオンさんは、ほっとしたように微笑んだ。
一見、そっけない包み。開けると、中には地図。
でも、普通の地図じゃない。
書き込みがある。
「……これ」
「主人が歩いた場所。危険だった地点」
「次通るなら注意すべき場所」
私はしばらく黙って見ていた。
「……私のため?」
「それ以外に何がありますか」
「……ありがとう」
「役に立ててください」
短いけど、ちゃんと伝わった。
最後。
嫌な予感しかしない。
包みを開けると、中から出てきたのは……。
「なにこれ」
「便利道具セット。応急修理。即席調理」
「あと、暇つぶし」
中には、実用的な道具と、なぜかカードゲーム。
使えるね。
「真面目なのかふざけてるのか分かんない」
「両方だ」
私は思わず笑った。
「……ありがとう」
全部、違う。
全部、ちゃんと私を見て選ばれている。
「……ねぇ」
私は包みを抱えて言った。
「私、誕生日ってただの日だと思ってた」
誰も遮らなかった。
「でも、こういうの、貰うとさ」
胸が、少し熱い。
「……悪くないね」
「主人が笑えば成功」
私は、ちゃんと笑った。
今日は、受け取る日。
それでいい。
「ありがとう。みんな」
胸の奥が、あったかい。
変わらない日だと思っていた。でも、違った。
今日も日常で、
今日も続いていく日々で、
その中で、私はちゃんと大切にされていた。
その言葉は、きっと本物だった。
この日も、また一日。でも、確かに特別な一日だった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
リオンの誕生日から一話やって、ルナティナの誕生日になってしまいました。
そうです、投稿サボりまくってます。待たせてます。
待ってくれた方々ありがとうございます!
日が経つのが早い!
一週間の内に一話ぐらいになりそう。出来たら二、三話かなぁ。
学校始まって、色々してたら時間が経ってました……
ここまで読んでくださりありがとうございました。




