星空の下で
長めです。それで良ければどうぞ。
朝の空気は、少しだけ甘い匂いがした。
冬特有の冷たさに混じって、どこか落ち着かないざわめきが屋敷に満ちている。
廊下を歩いているだけで分かる。
いつもより足音が多い。物を運ぶ気配。
控えめなのに、確実に“何か”が始まっている。
リオンは足を止め、壁際に立てかけられた箱を見る。
赤と緑。金の縁取り。
……分かりやすすぎる。
「……皆さん」
声をかけると、少しだけ間があって振り向く影。
「おや」
「おはようございます」
「……これは?」
視線は、抱えられたリースや布地に向く。
「何でしょうね」
即答だった。そして、少し早口。
「季節の装飾です」
「そうそう」
「気分転換ですよ」
「屋敷が寒々しいからな」
口々に言うが、誰一人として目を合わせない。
深くは追及しない。それが彼の癖だ。
視線を逸らすと、今度は別の場所が目に入る。
応接室の机いっぱいに広げられた小さな飾り。
星。雪の結晶。細工の細かさが異常だ。
「これは……?」
少し間。
「主人です」
「ですよね」
納得してしまった自分がいる。
「色の配置が違うでしょう」
「同じ形でも全部意味があるらしい」
「……意味」
「ええ」
リオンは飾りを一つ手に取る。
軽いのに、やけに丁寧に作られている。
「……こだわりすぎでは?」
「いつものことだ」
「妥協を知らない」
「でも楽しいらしい」
誰かがそう言った。
リオンは、小さく息を吐く。
窓の外を見る。
まだ雪は降っていないが、空は重たい。
ふと、言葉が漏れる。
「屋敷が明るくなるのは……悪くないですね」
誰も返事をしなかった。
その沈黙が、少しだけ長かった。
「……では、仕事に戻ります」
そう言って立ち去ろうとすると、背後から声。
「リオンさん」
振り返る。
「今日は……」
言葉が止まる。
「……いえ、何でもありません」
誤魔化すのが、あまりにも下手だった。
いつも通りの口調ではない。
「気にしないでください」
その場を離れながら、リオンは胸の奥に残る違和感を抱える。
ただのクリスマス準備。
そう言われれば、そうなのだろう。
けれど。
この落ち着かなさ。この妙な視線の外し方。
「……何か、ありますね」
小さく呟き、誰にも聞こえないように笑った。
気づいてはいけないことに、
ほんの少しだけ、気づいてしまった、クリスマスの朝だった。
三日後。
クリスマスが過ぎ去った屋敷は、不思議な静けさに包まれていた。賑やかだった装飾は片付けられたはずなのに、空気だけがまだ名残を抱えている。
廊下の隅に残る、取り外し忘れられた小さなオーナメント。
窓辺に垂れたままのイルミネーションのコード。
すべてが「終わったはずの祭り」を、ささやくように主張していた。
12月28日。
特別な日だと、リオン自身は思っていない。
朝もいつも通りだった。
少し早く起きて、屋敷の空気を確かめるように歩く。
庭へ向かう。冬の庭は静かで、雪はまだ積もっていない。
だが空気は澄み、息を吸うだけで胸が冷える。
「……もう年末ですね」
誰にともなく呟く。
その瞬間。
背後から、ぱち、と音がした。
振り返ると、庭の一角に――灯り。
小さな、だが確かな光が灯っている。一本、また一本。
イルミネーション。
クリスマスの時より控えめで、けれど丁寧に配置されている。
「……これは」
さらに近づくと、灯りの中心に人影。
真剣な顔で、最後の位置を調整している。
「……ルナティナさん?」
声をかけると、びくりと肩が跳ねた。
「えっ」
「……見てしまいました」
「ち、違っ」
「いえ」
言葉を遮って、柔らかく微笑む。
「綺麗です」
その一言で、動きが止まる。
「……まだ、完成じゃないんだけど」
「十分すぎるほどです」
「……そう?」
少し照れたように、視線を逸らす。
「クリスマス終わったのに、って思う?」
「いいえ」
即答だった。
「むしろ……」
少しだけ言葉を探す。
「今日の方が、落ち着いて見えます」
ルナティナは、少し驚いた顔をしたあと、ふっと笑った。
「そっか。なら、正解だね」
「正解?」
「うん」
それ以上は語られない。
そこへ、足音。
後ろから、4人の影が現れる。
「……皆さん」
リオンは、ゆっくり振り返る。
「これは……」
答えは、すぐには返ってこなかった。
代わりに。
「誕生日」
その一言が、静かに落ちた。
「……僕の、ですか?」
「今日だろ」
リオンは、一瞬言葉を失った。
「……覚えていたのですか」
「当たり前だ」
「忘れる理由がない」
「むしろ、忘れる方が難しい」
イルミネーションの光が、ゆっくり瞬く。
「……ありがとうございます」
その声は、思ったより小さかった。
ルナティナが、そっと一歩前に出る。
「誕生日、おめでとう」
それだけ。余計な言葉はない。
それなのに。胸の奥が、静かに熱くなった。
「……今日は、いい日ですね」
誰かが言った。
リオンは、灯りを見つめながら、小さく頷いた。
「ええ。とても」
祝われることに慣れていない一人の男は、確かにその夜、居場所を受け取っていた。
夜へと切り替わる。
庭のイルミネーションは、少しだけ数が増えていた。
増えているのに、全体は落ち着いて見える。
……明らかに、調整されている。
「……増えてません?」
「気のせいだよ?」
即答だった。
ルナティナは腕を組み、満足そうに頷いている。
星形の飾りが一つ、風で揺れた。
「ここ、左右対称。いや、やっぱ、ほんの一ミリずれてる」
「一ミリは誤差だよね?」
「誤差の定義が広すぎませんか?」
「誕生日だから許す」
得意げに言い切る。
「今日は12月28日」
「ちゃんと覚えてるよ」
小さな箱。はい、と差し出された。
「……開けても?」
「どうぞどうぞ〜!」
中に入っていたのは、シンプルな容器。
装飾は控えめで、色も落ち着いている。
「ハンドクリーム」
「正解!匂い、嗅いでみて」
言われるまま、少しだけ。
……柔らかい。
甘すぎず、残らない。
「……控えめですね」
「でしょ!」
「仕事の邪魔にならない」
「強すぎるの嫌いそうだなって」
「……よくご存知で」
「伊達に見てないからね」
胸の奥が、少しだけ詰まる。
「……ありがとうございます」
「まだあるよ」
指を立てて制する。
「え?」
「もう一つ」
今度は、少し間を置いて。
ルナティナは、リオンの手首を取る。
そこに嵌められている、銀色の腕輪。
「覚えてる?」
「……ええ」
忘れるはずがない。
「行動制御。従属の腕輪。私が命じれば、逆らえない」
軽く言うが、その意味は重い。
「……外す、のですか?」
「うん。今日で終わり。誕生日プレゼント」
一瞬、言葉が出なかった。
「……なぜ」
「だって」
少しだけ視線を逸らす。
「今はもう大丈夫でしょ」
リオンは、静かに息を吸う。
「……信じてくださるのですか」
「うん。信じるよ。だから、外すの」
指が、留め具にかかる。かちり、と小さな音。
腕輪が外れた。
何も起きない。世界も、自分も。
「……自由、ですね」
「そう」
「代わりに」
にやっと笑う。
「裏切ったら怒る。その時は全力で」
「それはそれで怖いですね」
「でしょ」
ふっと、空気が緩む。
リオンは、しばらく黙ったまま自分の手首を見つめていた。
「……お願いがあります」
「主役だから、いいよ?」
「やっぱり、外さないでください」
即答ではなかった。けれど、迷いも少ない。
ルナティナは、少しだけ目を見開く。
「それってさ、私に縛られたいって意味じゃない?」
「分かっています」
静かな声。
「これは、もう命令の枷ではありません」
「僕が選んで、身につけるものです」
「……ふーん?デザインいいから?」
少し考える仕草。
「じゃあ、プレゼント三つ目ね」
「え?」
「選択の自由付き・腕輪継続使用権」
「長いですね」
「今考えたから」
くすっと笑う。
「……いいよ。つけてて、効果なくしてあげるよ」
「ただし」
人差し指を立てる。
「私を倒そうとしたら、即没収!」
「……肝に銘じます」
少しだけ、口元が緩む。
「……毎年、こうしているのですか」
「なにが?」
「誕生日の人に」
「必ず、何かを?」
「うん。誕生日の人には必ず。
今日はリオンさんだっただけ。約束みたいなもの」
「……僕も、その一人ですか」
リオンは、手に残るハンドクリームの感触を確かめる。腕輪もまだそこにある。けれど意味は変わった。
彼女はくるりと背を向けて、歩き出す。
「さ、戻ろ。寒いし。覗いてる気配するし」
「……気配、でしたか」
「後視線もある」
「……はい」
その背中を見つめながら、リオンは小さく微笑んだ。
光は派手じゃなくていい。こうして、静かに灯っていれば。
12月28日は、
彼にとって、確かに特別な一日になった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
雑談しかしてません。読みたい方だけ見てください。
クリスマスはどうしたと思う方もいるでしょう!
33話ぐらいにやったな〜と、クリスマス編楽しみにしてた方はいるのでしょうか?彼らや彼女達はケーキ食べたりしてワイワイしてましたよ。
これ、無理やりクリスマス終わらせたのが丸わかりですかね?これで二話出すの勿体ないなって思ったので続けて書いてます。
誕生日を迎えたキャラが三人目ですね。全員の誕生日を迎えるまで、この小説が終わることはないでしょう!
終わる時はネタが尽きた時、ですかね?
誕生日と繋げたら、ロディの話をリメイクしたいですね。アレは少し、私でも気になってます。
本当は変えたくないんですけど…。
年末かぁ〜早いですね。十月ぐらいから加速した気がします。
ここまでにしときますかね。
ここまで読んでくださりありがとうございました。




