いいもの?
今回は〜前回の後書きで話した事が書かれています。
台詞が多めです。誰が誰だが、貴方は当てられますかね?それで良ければどうぞ。
夜。
屋敷の一室には、男五人だけが集まっていた。
暖炉の火は静かに揺れ、外では雪が降っている。
その静寂を壊しているのは、明らかに三人だった。
「ふぅ……あったまるな」
ロディは椅子に深く座り、どこか詩的な表情をしている。エドガーは姿勢を保とうとしているが、微妙に肩が揺れている。トリスはすでに笑いの沸点が壊れていた。
「なぁ、いいもの見つけたんだけどさ」
テーブルの上に置かれたのは、派手な包みの菓子箱。
「……それは」
フィシリアが一瞬だけ眉をひそめる。
「甘いやつ」
「冬限定」
「あと、面白そう」
説明になっていない。
「その箱、裏を見ましたか」
「見たぞ」
「ちゃんと読んだ?」
「読んだ」
「……酔うって書いてありますが」
沈黙。
「酒じゃない」
「菓子だ」
「だから大丈夫」
論理が崩壊している。
「……もう酔ってますよね」
「まだいける」
「むしろ、ここから」
「なにがですか」
箱は開けられた。
甘い香りが、暖炉の熱に溶けて広がる。
「一個だけなら」
最初に手を伸ばしたのはトリスだった。
「……うま」
次にロディ。
「これは……」
最後にエドガー。
「……想像以上に」
数分後。
空気が変わった。
「フィシリア」
「なんですか」
「お前、硬いな」
「通常運転です」
「もっと肩の力抜けよ」
「抜いています」
「嘘だな」
距離が近い。やたらと近い。
「……リオンさん」
フィシリアは静かに助けを求める。
「えっと……」
リオンは苦笑しつつも、菓子を一つ手に取っていた。
「これ、そんなに強くはなさそうですし」
「リオンさん????」
「少しくらいなら」
最悪の選択だった。
「……甘いですね」
「だろ?」
「……あ」
リオンの声が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
「フィシリアくんも」
「いりません」
「ほら」
沈黙の末、フィシリアも受け取った。
「……」
数十秒後。
「フィシリア?」
「これは……予想以上ですね」
考えることが雪のように溶けていく。
暖炉の火が、ぱち、と音を立てた。
外の雪は音を吸い込んで、屋敷の中だけが妙に賑やかだ。
少し間があって、テーブルを指で叩く音。トリスが手を叩く。
「お題を出そう。三つ」
この時点で、誰も止めなかった。止められる雰囲気ではなかった。
「一つ目、ルナティナについて」
一瞬、空気が揺れた。だが誰も否定しない。
「二つ目、どうやって屋敷に来たか。過去込みな」
「三つ目、ルナティナって、結局どういう人か」
沈黙。
そして、なぜか全員が頷いた。
「……では」
咳払い。
「私からですかね」
姿勢を正そうとして、少し失敗する。
「最初の印象は」
少し考える。
「正直に言えば、危うい方だと思いました」
「ほう」
「無鉄砲で、真っ直ぐで、周囲を巻き込む力が強すぎる」
「ですが」
言葉が、少し柔らぐ。
「放っておけない。そういう方です」
「重いな」
「事実です」
次。
「俺か」
ロディは天井を見上げる。
「ルナはな」
「……いや」
「ルナティナは」
一瞬、言い直した。
「風みたいだ。突然吹いて、気づいたら景色が変わってる」
「怖いか?」
「怖い」
「でも、嫌じゃない」
誰も突っ込まない。
「次、どうやって屋敷に来たか」
トリスが笑う。
「オレはさ、気づいたらいた」
「説明になってません」
「でも、本当だ。声をかけられて、気づいたら扉が開いてた」
「選択肢なんてなかったな」
「……私も似たようなものです」
フィシリアが低く言う。
「合理的な理由があったはずなのに」
「今となっては、正確に説明できない。ただ、
来るべき場所だった。そんな感覚だけが残っています」
「感覚派だな」
「今だけです」
「僕は」
リオンが、少しだけ間を置く。
「誘われました。とても穏やかに」
「断る理由が見つからなかった……それだけです」
「最後。三つ目だな、ルナティナって、結局どういう人か」
全員が、少し黙る。
「面倒な人」
「危険な人」
「優しい人」
「強い人」
「弱い人」
言葉が、ばらばらに落ちる。
「全部だろ」
誰かが言う。
「一言で言えるわけない」
「それなのに」
「中心にいる」
「不思議だよな〜」
暖炉の火が、また鳴った。
「……酔ってるな」
フィシリアが呟く。
「今さらだろ」
「ここまで来たら」
「最後までだ」
夜はまだ長い。雪は静かに降り続け、
男五人の男子会は、思った以上に深いところまで潜っていった。そして、この男子会は確実に、ろくな方向へ進まない。
翌朝。
屋敷の廊下に、いつもより遅い朝日が差し込んでいた。
……静かすぎる。
その理由はすぐに判明する。
応接室の扉を開けた瞬間、ルナティナは固まった。
ソファ。
床。
ラグ。
とにかく、転がる男五人。
「……なにこれ」
まず目に入ったのは、ロディ。
ソファの背もたれに半分身体を預け、片手で額を押さえている。
「……頭が割れる」
次。エドガー。
椅子にきちんと座っているのに、姿勢が崩れているという異常事態。
「……申し訳……ございません……」
声に力がない。
床にはトリス。完全に行き倒れ。
「……水……」
さらに。
フィシリアとリオンは並んでテーブルに突っ伏している。
「……気分が悪いです」
「……胃が……」
ルナティナは、しばらく無言だった。
数秒。いや、十秒。
「どうしたら」
一歩踏み出す。
「こうなるのよっ!」
ツッコミが炸裂した。
「ちょっと!飲めない人いたよね!?なんで全滅してるの!?」
「……菓子」
「は?」
「……酔う菓子でした……」
フィシリアが弱々しく告げる。
「誰が持ってきたの!」
沈黙。
その中で、トリスが親指を立てた。
「……ノリ」
「ノリで持ってくるな!」
「しかも食べるな!」
「全員食べるな!」
ルナティナは額を押さえる。
「エドガー!」
「はい……」
「あなたが止める側でしょ!」
「……面目……ございません……」
頭を下げようとして、途中で諦める。
「ロディ!」
「……妹よ……」
「語りかけないで!」
「今なら……世界の真理が……」
「聞きたくない!」
リオンがゆっくり顔を上げる。
「……ルナティナさん……」
「なに?」
「笑わないでください……」
「笑ってない!怒ってる!」
「……でも……」
視線が合って、ルナティナは少し息を詰まらせた。
「……いや、いいや」
深呼吸。
「はい、全員!水!布!窓開ける!」
バタバタと動きながら、なおも口は止まらない。
「男子会って何話したらこうなるの!」
「夜にお菓子で酔うって何!しかも五人揃って!」
「……楽しかったです……」
フィシリアの一言に、全員が頷いた。
「楽しいで済む問題じゃない!」
そう言いながら、ルナティナはロディの額に冷たい布を置いて、フィシリアの前に水を置いた。
「……ありがとう」
「主人ありがとうございます」
「はいはい」
エドガーにも、水を差し出す。
「……ご迷惑を……」
「迷惑って自覚あるなら次から止めて!」
トリスには、毛布をかける。
「……優しい……」
「ノーコメント。……今だけだよ」
最後にリオン。
「……大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないのはあなた達でしょ!」
言い切ってから、ふっと息を吐く。
部屋を見渡す。情けなくて、面倒で。それでも。
小さく笑ってしまった。ほんと、手のかかる人達!
外では、雪がきらきらと光っている。
この朝だけは、妙に賑やかだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
そういえば、前回で80話目、だったらしいですね!
なんてこった〜。これは第二回目の男子会、かもしれませんね〜お楽しみいただけたでしょうか?
それと、長期休みに入ったので投稿頻度が増えますよ。
書くことがありません!
ここまで読んでくださりありがとうございました。




