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無名の魔法をかけて  作者: 灰色うさぎ88
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商品

今回も続きです。長めです。それで良ければどうぞ。


トリスの意識が戻ってから、

屋敷に帰るまでの道のりは驚くほど静かだった。

ただ、三人の足音だけが薄暗い森に溶けていく。


……主人は、痛みをごまかしている。


歩き方。呼吸の深さ。指先の震え。

戦闘直後の反動が確実に出ているのに、

本人は気付かれまいとして前だけを向いていた。

無理をしている……


声に出す代わりに、歩幅を主人の少し後ろに合わせて見守る。


隣では、トリスがふらつきながら歩いていた。

光を取り戻したばかりの身体はまだ安定しないのか、時折よろめいて肩が揺れる。


「……なぁ」


トリスが声をかけるたび、主人の肩がぴょこっと揺れる。

緊張と安心のあいだで落ち着かないのがよく分かった。


「何?疲れたなら言いなよ」


「疲れてねぇよ。けど……お前、痛くねぇのか?」


主人は一瞬だけ目をそらした。


「痛いけど歩けるから。大丈夫」


……大丈夫、という言葉ほど当てにならないものはない。

僕はそう思いながらも、口を挟まなかった。


主従関係において、主人が命令していない時は、僕はただ支えるだけだ。


ただ――本当は、抱えて連れて帰りたい


そんなことを言っても、主人は絶対に拒否するだろう。

トリスはトリスで、主人の歩き方に焦りを覚えている様子だ。

彼の視線は何度もルナティナさんの足元へ向かっていた。


「……本当に、屋敷まで歩く気か?」


「歩くよ。置いていけないでしょ、二人とも」



……主人は、こういう方でした


誰かを置いていけない。

傷つけたくない。

自分が立ち続けることで周りを支えようとする。


僕はずっとそれを見てきた。

だから、ここでも変わらないのが嬉しかった。


屋敷が見えてきたころ――

主人の呼吸が、ほんのわずかに荒くなった。


「主人」


小さく声をかけると、主人は振り返らずに返す。


「……なに?」


「無理をされていますね」


「……うん。でも、もうすぐ着くから」


その強さが、僕は好きだった。

けれど。


「階段があります。そこで転ばれるくらいなら――僕が支えます」


主人がふっと立ち止まった。

振り返った顔は少しだけ疲れていて、でもそれでも負けずに笑っていた。


「……ありがと。じゃあ、少しだけ」


僕はそっと主人の肘を支えた。

触れた瞬間、思ったより体温が高い。

戦いの熱がまだ残っている。


トリスが横目でこちらを見て、ぼそっと言う。


「……お前、気づいてたのかよ」


「主の状態に気づけない者は、僕には務まりませんので」

「はぁ……負けたわ」


そう呟いて、トリスは自分もふらっとよろけ、壁に手をつく。

その手を僕が支えると、彼は気まずそうに眉を寄せた。


「……悪い」


「無理をしないでください」

「お前、なんでそんな落ち着いてんだ……」


主人が笑う。

「フィシリアだからでしょ」


「……はぁ、そっかよ」


三人で、ふらつきながら屋敷の前に辿り着く。

主人が深呼吸して言う。


「トリス、ちゃんと休んで。ここなら大丈夫だから」


トリスは少し目を伏せ、ぽつりと呟いた。


「お前に助けられて、屋敷まで連れてこられて……

 これで何も言うなって方が無理だろ」


不器用な照れを隠しきれない声だった。


主人は──

その声を聞いた瞬間、ふっと柔らかく笑った。


「なら……次は、感謝を言ってよ」


沈黙。そして。

「……帰ってきたわ。……ありがと」


主人の肩がほんの少し震えた。

僕はその横顔を、静かに見守った。


――ああ。主人は、こういう瞬間のために生きている方だ


心の底から、そう思った。


屋敷の玄関。

フィシリアはルナティナをしっかり支えながら屋敷へと連れて帰った。


「フィシリア、戻ってもいいよ。よくやった」

ルナティナは頭を撫でた。


屋敷に入る、エドガーに目配せする。


「トリスのことは任せた。お願い〜!エドガー」


「承知しました、お嬢様。安静にしておくよう手配いたします。後で部屋来てくださいね?」


やっべ!これ怒られるやつ!まぁ、とりまいいや。

ルナティナはにこりと微笑むと、そのまま駆け出した。

少しきついけど、そんなことよりミレイナ。


向かうのは――まだ眠るミレイナの部屋。


廊下を軽やかに走り抜け、扉の前でそっと息を整える。

ルナティナはそっと扉を開けた。

まだ薄暗い室内で、ミレイナは白いシーツの上ですやすやと眠っている。


トリスに操られていた影響か、顔は少しだけ疲れて見えた。ルナティナはベッドのそばに腰を下ろす。


「……ほんと、心配させるんだから」


そっとミレイナの髪を撫でる。魔力の乱れはもうない。けれど、無事とは言い切れない、そんな不安が心の奥に残っていた。


しばらくして――

ミレイナのまつげがかすかに震えた。


「……ん……ルナティナ…様……?」


ゆっくり目を開け、ぼんやりと焦点が合う。

その瞬間、涙がにじむ。


「あの……私……また……迷惑を」


ルナティナは即座に言葉をかぶせた。


「迷惑とかじゃない。私がそう思うから。でも、勝手に一人で突っ走るのはだめ。操られて笑ってるの、見てるこっちは心臓止まりそうだったんだから」


ミレイナは唇を震わせる。


「……ごめんなさい……私……怖くて……」

「怖いなら言ってよ。私に頼って?」


ミレイナは涙をこぼしながら小さくうなずく。


「……はい……ルナティナ様……怒ってるんですか……?」

「怒ってない。無事で……ほんっとよかった」


ミレイナは泣き笑いでルナティナの手を握る。


「……大好きです、ルナティナ様……」


ルナティナはその手をぎゅっと握り返した。


涙をこぼしながらルナティナの手を握っていたミレイナが、

次の瞬間――ぐっと身を起こした。


そして。

バッ……!

そのままルナティナに抱きついた。

胸元に顔をうずめ、震える声で言う。


「っ、怖かったんです……あの時……自分が自分じゃなくなって…でも、ルナティナ様が……来てくれたから」


ルナティナは一瞬だけ驚いて目を見開いた。

ミレイナがこうして甘えてくるのは珍しい。


むしろ──昔を知っている自分にだけ、

彼女は時々こうして子どもみたいな顔を見せる。


ミレイナ、昔から変わんない。

強いのに、肝心なときはすぐ泣くんだから


そっと抱き返す。


「……うん。泣いていいよ。

 だって、ミレイナを一番最初に拾ったんだもん。

 昔から……ずっと、私が知ってるミレイナでしょ?」


その言葉に、ミレイナの肩がぴくっと震える。


「……はい……ルナティナ様だけです

私の全部、知っているのは……」


ミレイナはルナティナの服をぎゅっと掴んだまま、続けて呟く。


「旅立った後も……ずっとずっと……ルナティナ様のこと、思ってました。また会えたのが……嬉しくて……」


ルナティナは苦笑しながら、彼女の頭を軽くポンポンした。


「……ほんとに昔から泣き虫なんだから」


ミレイナの涙がゆっくりと止まっていく。ミレイナがようやく落ち着き、ルナティナの胸元に顔を埋めたまま小さく鼻をすする。


「……こうして触れていると、安心します……

 やっぱり……好きです、ルナティナ様……」


「はいはい。落ち着いて?」

と、ちょっと呆れながらも抱き返したままの二人。


そのときだった。


――ガラッ。


部屋の扉が、わずかに開いた。


「お嬢様、そろそろ……お茶の……用……意……」


エドガーの言葉が、ぴたりと固まる。


「………………(目をそらす)」


「いや、待って!?やめてくれない?その視線!」


異様に静かだった。

「お嬢様……ごゆっくり。お茶は……後ほどに致します……」


扉がそっと閉じられる。


次の瞬間――別方向からそっと顔を出す影が。


「あれ?ルナティナさんとミレイナって……そんな……近い……?」


顔がほんのり赤い。

驚きつつも、気まずそうに微笑んで消えるリオンさん。さらに後ろからフィシリアが。見るなよ!!


「……主人。

 女性同士のスキンシップにしては……濃度が高いのでは?」


「全員見るな!!!」


ミレイナは逆に堂々としている。


「事実ですから。私はルナティナ様が大好きです」


全く!この子は!

ガチャ


今度は何!?

「あーお転――じゃない、ルナ。

 俺は見てない、見てない……気にすんな」


いや、見てる。視線逸らしてるけど、絶対見てる。

もう鍵閉めるぞ!


人が去り、二人きりになる。

ミレイナはようやく腕をゆっくり放す。


「……ねぇ、ミレイナ」


ミレイナが顔を上げる。


「またこの屋敷を離れる?それとも……残る?」


部屋の空気が、すっと静まる。

ミレイナは迷ったように、胸元を握る。


「……ルナティナ様の

 そばにいたい気持ちはあります。

 でも……私の家は……弱い結界しかなくて」


ルナティナはふっと笑う。


「去るならさ、家の結界、前より何倍も丈夫にしてあげる。安心して帰れるくらいに」


ミレイナは驚いたように目を見開く。


「……そんな……私のために……?」


「当たり前でしょ?拾った子なんだから。心配くらいする」


ミレイナの瞳が揺れる。選ぶのは、彼女自身。


「ルナティナ様は……私に、残ってほしいんですか……?」


その問いかけに、ルナティナは一瞬言葉を失う。

ルナティナは、ほんの一瞬目を伏せた。


そして――ゆっくり顔を上げて、素直に言った。


「もちろん、残ってほしいよ。

 だって、ミレイナがここにいた方が……私も安心するから」


ミレイナの肩が小さく震える。

期待と不安が混ざったような瞳。


だけど、ルナティナは続けた。


「でもさ……家族と暮らしたいでしょ?

 ミレイナは優しいから、絶対、本当は気にしてるはず」


ミレイナは、そっと拳を握る。


「……家族のことは、大切です。ルナティナ様も……大切で……」


言葉が少しずつ震え始める。


「離れたら……また、あんな風に……操られたり、傷ついたら……誰も気づいてくれないかもしれないって……少し、怖いんです……」


ルナティナはミレイナの肩にそっと手を置いた。


「じゃあさ、行きたい時に帰ればいいし、残りたい時に残ればいい。ミレイナはもう、ここに帰ってきていい人なんだから」


ミレイナの目が、うるんで大きく見開かれる。


「……そんな……そんな風に言ってもらえるなんて……」


「ただし。もし家に帰るって言うなら、絶対に結界は強くしてあげる。ミレイナを守れるくらい……いや、それ以上に」


「……ルナティナ様……大好きです……」


「ミレイナ、大丈夫?」

私がそっと声をかけると、彼女はゆっくり私の方を向いた。


「ルナティナ様。あの……」

言葉を探すみたいに、ぎゅっと手を胸元で重ねる。


この子は、強い。

でも、強がるのが癖になってるだけだ。

だから私は、一歩だけ近づいて、安心させるみたいに微笑んだ。


「無理に言わなくていいよ。どうしたいかだけ、聞きたい」


しばらく黙っていたミレイナは、

ようやく視線を落として──


「帰りたいです。ひとりでは、怖いです……」


その瞬間、ああ、やっぱりって分かった。

この子は帰る勇気はあるけど、帰り道が怖いんだ。

無理もない。だったら一緒に向かうまでだ。


「もちろん。一緒に行こう。結界も見る」


ミレイナの目が少し揺れて、ぱっと潤んだ。

「ありがとうございます。あの場所、また壊れたらと思うと」


「大丈夫。私たちの屋敷と違って、あなたの家はあなた自身のの居場所で、ミレイナが居るべき場所なのだから」


そう言うと、ミレイナはようやく安堵したように笑った。


エドガーが後ろで静かに一礼する。

「お嬢様、準備が整い次第、馬車を出します。ミレイナさんはしばし休息を」


頷きながら、ミレイナの手をそっと離す。

トリスのことも気になるけど、

私はミレイナを家へ送り届けることを先に決めた。


ここまで読んでくださりありがとうございます。


もう、テスト前なので勉強してました。

なんか、引き伸ばし感凄い感じがします。すみません。

ここまでにしときます。


ここまで読んでくださりありがとうございました。

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