問い
今回も、ルナティナ視点です。それで良ければどうぞ。
……あれから、どれだけの季節が過ぎたのだろう。
ミレイナの旅立った背中を、私はまだ、あの夕焼けの色と一緒に覚えている。
ルナティナは窓辺に座り、過去に救ったミレイナのことを思い返していた。その時、背後から穏やかな声が響く。
「……ルナティナさん、ミレイナという少女のことをご存知ですか?」
振り返ると、リオンが静かに立っていた。落ち着いた表情のまま、でも瞳には確かな優しさが宿っている。
ルナティナは少し驚き、目を丸くする。
「えっ?どうして知っているのですか、リオンさん……」
リオンはゆっくりと歩み寄り、肩の力を抜いて言った。
「彼女のことを知っているのは、君のおかげです。ですから、もしよろしければ、詳しくお話を聞かせてもらえますか?」
ルナティナは小さく息をつき、微笑む。
「ふふ……そっか。じゃあ、リオンさん、知りたいのですね? なら、教えますよ」
リオンはそのまま穏やかに頷く。
「はい……もし差し支えなければ。ですが、無理に話していただく必要はありません」
ルナティナは少し首をかしげ、興味津々の瞳でリオンを見た。
「無理なんてしませんよ、リオンさん。知りたいのは、あなたのためでしょ?だったら、聞いてくれて当然です!」
リオンは微笑むように、静かに答える。
「……そうですね。ありがとうございます、ルナティナさん」
ルナティナは少し考え込み、指先で窓枠を撫でながら言った。
「じゃあ、リオンさん、ミレイナに逢いたいのですか? 後、この屋敷からも去りますか?」
リオンは一瞬だけ目を伏せ、そして柔らかく笑った。
「……そうですね。逢いたいと思っています。そして、この屋敷は」
小さく間を置いて、穏やかに続けた。
「――冗談ですよ。そんな簡単に、ルナティナさんのそばを離れたりしません」
ルナティナは驚いたように目を見開き、すぐに頬を膨らませる。
「もうっ……びっくりさせないでください!本気かと思いましたよ!」
リオンは苦笑を浮かべながら、穏やかに首を振る。
「申し訳ありません。少しだけ、あなたの反応が見たくなりまして」
「そういう冗談は心臓に悪いです!」
「気をつけますね……ですが、そうやって怒ってくれるのは、少し嬉しいですよ」
ルナティナは呆れたようにため息をつき、それでも口元に笑みを戻した。
「……ほんと、リオンさんって人は。なら、もう少しそばにいてくださいね」
リオンは静かに頷き、優しく微笑む。
「もちろんです。どれだけ季節が過ぎても、あなたの隣に」
二人の間に、沈黙が落ちる。
それはまるで、向日葵のようであたたかく、やさしく心を包んでいた。
――その時だった。
「……あれ?」
ルナティナが眉をひそめる。
部屋の中の空気が、微かにざらつく。光の粒子のようなものが漂い、次第にそれが形を持ち始めた。
「ルナティナさん?」
リオンが静かに問いかける。
「魔力の流れが、変わった。外から――誰かが干渉してる」
立ち上がり、窓の外へと視線を向ける。
「まさか」
ルナティナの声が低くなる。
次の瞬間、空気が弾けた。
光の粒が舞い、誰かの笑い声がその中に混じる。
「おやぁ?やはり気づかれましたか。さすがはお得意様」
胡散臭く、特徴的で耳に残る声。
現れたのは――トリス。
いつものように胡散臭い笑みを浮かべていた。
「……トリス」
ルナティナの声が低く響く。
「おやおや、その目。怒ってます?怖いですねぇ。私はただ、真実を見せに来ただけなのに」
リオンがそっと一歩前に出る。
「彼女に、何をしたのですか?」
トリスは口元に笑みを浮かべ、指先で空をなぞる。
光が揺らぎ、そこに小さな影が浮かんだ。
その姿を見た瞬間――ルナティナの心臓が跳ねた。
「……ミレイナ?」
彼女がいた。
瞳は虚ろで、光の糸がその手足を絡め取っている。
「……彼女をどうする気?」
「どうもこうも。借りてるだけですよ、心をね。少しばかり、世界の裏側を覗いてもらってるだけです」
トリスの声は穏やかで、けれど確かに冷たい。
ルナティナの瞳が鋭く光る。
「最低だね……あんた、暗闇に落ちたいの?」
トリスは笑った。
「暗闇?私は光の魔法使いですよ。むしろ
――あなたの影を照らして差し上げましょうか」
彼が手をかざす。
詠唱が静かに、しかし、ぞっとするほど美しく響いた。
「真実よ、虚ろを映せ。飾るは鏡の眼――」
ルナティナとリオンの足元に、見覚えのない光の紋章が広がった。
「リオンさん、離れて」
「いいえ。僕はあなたの傍にいます」
急いで詠唱を始まる。
「影よ、舞い散れ。光よ、刃となれ。
闇と月の狭間に咲く花よ──夜蓮」
リオンもつられて詠唱を始める。
「氷よ、静かに舞え。透き通る刃となり、
仲間を包め──氷冴」
――真実と幻が交わる、始まりの光がそこにあった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
たった二言、言います。誤字ありそー。
ここまで読んでくださりありがとうございました。




