番外編 逆転物語
今回はフィシリア達が屋敷に来る前の話です。
それで良ければどうぞ!
まだ屋敷が静かだった頃。
執事のエドガーと、当主のルナティナだけで日々が回っていた時代。廊下を歩く音も、時計の針の音も、すべてがよく響く。
そんなある朝、ルナティナは思いついたように顔を上げた。
「エドガー。今日はちょっと、立場を入れ替えてみない?」
エドガーは一瞬、紅茶を注ぐ手を止める。
「お嬢様。まさかとは思いますが、私をお嬢様に?」
「そうそう!で、私が執事!」
「……屋敷に退屈が訪れると、こうなるのですね」
そう呟きつつも、エドガーはわずかに口角を上げた。
黒い燕尾服に身を包み、銀の盆を手にした姿は……見慣れない。というか、本人もまだ慣れていない。
「では……エドガー様、朝食の準備が整っております」
いつもより少し低い声で、ルナティナがお辞儀をする。
「はい」
エドガーは腕を組み、どこか芝居がかった調子で応じた。
その表情が真顔すぎて、ルナティナは思わず吹き出す。
「ちょっと!真面目にやらないで!」
「お嬢様が始めたのですよ」
「たしかに。納得した」
数分後。
ルナティナはトレイに紅茶を乗せ、ゆっくりと運んできた。
「お待たせしました、エドガー様。本日の紅茶です」
ルナティナはぎこちなく紅茶を注ぐが、途中でカップを少し傾けすぎてしまう。
「あっ……」
「おっと、危ないですね。執事さん、手が震えていますよ」
「し、仕方ないでしょ!普段やってもらってるんだから!」
屋敷中に二人の声が響く。
普段は凛とした空気の廊下も、その日は少し柔らかく揺れた。やがて遊びも終わり、紅茶の香りが落ち着いたころ。
エドガーは優雅に立ち上がり、ルナティナの手を取って言う。
「“慣れないことをする”というのは、立場を知る上で良いことです」
「やっぱりエドガーって真面目!今日はもう少し砕けてもいいんじゃない?」
「お嬢様がそうおっしゃるなら」
そう言って、エドガーはほんの少しだけ笑った。
滅多に見せない柔らかい笑顔に、ルナティナは思わずぽかんとする。
「あー!笑った!なんかズルくない?笑顔で勝負してくるとか!」
「執事が動揺してどうするのです」
「うわぁーん!私の方がお嬢様っぽくなってる気がしてきた!」
――その日、屋敷では二人の奇妙な逆転劇が話題になった。
ルナティナは途中でメイドたちに「エドガー様の真似が可愛いです」と笑われ、
エドガーは「執事役が板につきすぎ」と言われ、どちらも引き分け。
夜、服を脱ぎながらルナティナは呟いた。
「やっぱり、エドガーってすごい!偉い!」
「お互い様ですよ。今日、あなたが見せた気遣いも悪くなかった」
「それ褒め言葉?ありがとう。なら、明日は本物の執事に紅茶入れてもらおうっと」
「……もちろんです。お嬢様」
二人の笑い声が夜の屋敷に響いた。
その夜の夢の中でも、ルナティナは少しだけ背筋を伸ばしていた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
お嬢様と執事の関係がよく分かる話になったかなと思います。今よりも少し堅苦しいですが、それでもルナティナがエドガーを振り回すという感じの話です。
こうゆう関係いいですよね。めっちゃ好き好き大好き。
ここまで読んでくださりありがとうございました。




