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無名の魔法をかけて  作者: 灰色うさぎ88
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番外編 逆転物語

今回はフィシリア達が屋敷に来る前の話です。

それで良ければどうぞ!


まだ屋敷が静かだった頃。

執事のエドガーと、当主のルナティナだけで日々が回っていた時代。廊下を歩く音も、時計の針の音も、すべてがよく響く。


そんなある朝、ルナティナは思いついたように顔を上げた。


「エドガー。今日はちょっと、立場を入れ替えてみない?」


エドガーは一瞬、紅茶を注ぐ手を止める。

「お嬢様。まさかとは思いますが、私をお嬢様に?」

「そうそう!で、私が執事!」


「……屋敷に退屈が訪れると、こうなるのですね」

そう呟きつつも、エドガーはわずかに口角を上げた。


黒い燕尾服に身を包み、銀の盆を手にした姿は……見慣れない。というか、本人もまだ慣れていない。


「では……エドガー様、朝食の準備が整っております」

いつもより少し低い声で、ルナティナがお辞儀をする。


「はい」

エドガーは腕を組み、どこか芝居がかった調子で応じた。

その表情が真顔すぎて、ルナティナは思わず吹き出す。


「ちょっと!真面目にやらないで!」

「お嬢様が始めたのですよ」

「たしかに。納得した」


数分後。

ルナティナはトレイに紅茶を乗せ、ゆっくりと運んできた。

「お待たせしました、エドガー様。本日の紅茶です」

ルナティナはぎこちなく紅茶を注ぐが、途中でカップを少し傾けすぎてしまう。

「あっ……」

「おっと、危ないですね。執事さん、手が震えていますよ」

「し、仕方ないでしょ!普段やってもらってるんだから!」


屋敷中に二人の声が響く。

普段は凛とした空気の廊下も、その日は少し柔らかく揺れた。やがて遊びも終わり、紅茶の香りが落ち着いたころ。


エドガーは優雅に立ち上がり、ルナティナの手を取って言う。

「“慣れないことをする”というのは、立場を知る上で良いことです」

「やっぱりエドガーって真面目!今日はもう少し砕けてもいいんじゃない?」

「お嬢様がそうおっしゃるなら」


そう言って、エドガーはほんの少しだけ笑った。

滅多に見せない柔らかい笑顔に、ルナティナは思わずぽかんとする。


「あー!笑った!なんかズルくない?笑顔で勝負してくるとか!」

「執事が動揺してどうするのです」

「うわぁーん!私の方がお嬢様っぽくなってる気がしてきた!」


――その日、屋敷では二人の奇妙な逆転劇が話題になった。

ルナティナは途中でメイドたちに「エドガー様の真似が可愛いです」と笑われ、

エドガーは「執事役が板につきすぎ」と言われ、どちらも引き分け。


夜、服を脱ぎながらルナティナは呟いた。

「やっぱり、エドガーってすごい!偉い!」

「お互い様ですよ。今日、あなたが見せた気遣いも悪くなかった」

「それ褒め言葉?ありがとう。なら、明日は本物の執事に紅茶入れてもらおうっと」

「……もちろんです。お嬢様」


二人の笑い声が夜の屋敷に響いた。

その夜の夢の中でも、ルナティナは少しだけ背筋を伸ばしていた。


ここまで読んでくださりありがとうございます。


お嬢様と執事の関係がよく分かる話になったかなと思います。今よりも少し堅苦しいですが、それでもルナティナがエドガーを振り回すという感じの話です。

こうゆう関係いいですよね。めっちゃ好き好き大好き。


ここまで読んでくださりありがとうございました。

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