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無名の魔法をかけて  作者: 灰色うさぎ88
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後日談

今回は後日談ですね。多分、過去一長い?かも。

休みながら読んでください。それで良ければどうぞ。


屋敷の中は静まり返っていた。

陽が傾き、窓辺に柔らかな橙の光が差し込んでいる。

廊下を歩くたび、靴音がひとつだけ響いた。


主人の目が覚めたらしい。


報せを受けて、僕は静かに足を速めた。

リオンの様子も確認しておく必要がある。

あの男の瞳に残るものが、単なる後悔だけであることを願って。


部屋の扉をノックすると、すぐにエドガーさんが姿を見せた。

「お嬢様が目を覚まされました」

「そうですか」

短く答えて部屋に入ると、ルナティナがぼんやりと天井を見上げていた。


「……あ、フィシリア!」

「ご気分はいかがですか」

「うん、頭がちょっと、くらくらするけど、平気!」


彼女はまだ状況をよく理解していない。

寝起きの無防備な笑顔に、思わず息を整える。

あれほどのことを経験しても、変わらない。


エドガーが穏やかな声で言う。

「お嬢様、リオン様が目を覚まされております。ご挨拶を」

「わかった」


その返事の軽さに、僕とエドガーさんは同時にため息をついた。横を歩く旅人は、いつも通りの調子で笑っている。

「全く、寝顔は天使だったのにな」


「……あれで何も覚えていないのが恐ろしいですね」

「だな」


やがてリオンの部屋に着く主人。

扉の向こうで、静かに息をつく気配があった。


「リオンさん!」

ルナティナが駆け寄る声がして、僕は壁際に立ったまま様子を見た。その目に宿るのは、もはや狂気ではない。むしろ……安堵、そして少しの罪悪感。


「助けてくれて、ありがとうございました」

「い、いえ……むしろ助けられたのは、僕の方で」

――やはり、彼女はいつも通りだ。

緊張感という言葉を知らないのか。


だが、僕の心をかすめたのは、別の感情だった。

あれほど危険な状況でも……あの方は笑えるのか。


そのとき、エドガーさんが口を開いた。

「さて――お嬢様」

「え?」

「今回の件、軽く済むと思われましたか?」

「うん?」


ああ、始まった。

僕は静かに腕を組み、成り行きを見守ることにした。


旅人がにやにやと笑いながら、懐から何かを取り出した。

「馬車での録音な。ちょっと聞いてみようか」

「え、なにそれ? なんで録音してるの?意味あること?」


ルナティナが慌てるより早く、旅人が口真似を始める。

「『リオンさん、本当に、お兄ちゃんも―――』」


確実に、主人には兄がいることがわかった。

主人は兄がここにいる旅人さんなのではと考えがよぎった。


部屋に沈黙が落ちた。

「ゆ、言ってない!絶対言ってない!!!」


「言ってましたよ」

リオンが困ったように笑って目を逸らす。

「しかも、僕の前では酷く、ご飯もありますし、お風呂もありますとも」


旅人が爆笑した。

「くっは!やべぇ、腹いてぇ!」


僕は紅茶を口に含みながら、冷静に言った。

「……つまり、現場での油断と不用意な発言。

加えて公私混同。すべて問題です」


「ひぃぃっ!?」

ルナティナが悲鳴を上げた。


エドガーも重々しくうなずく。

「お嬢様、寝言といえど、状況が状況です。

反省の機会を設けましょう」


「え、えぇぇ!?寝言でも!?!?」

「当然です」


僕は少し視線を逸らした。

――主人、この人はいつも人を巻き込む。

けれど、それは悪意ではなく、本気で誰かを救おうとする無鉄砲さだ。


リオンが静かに言った。

「僕の方こそ、無茶をしました。

でも……ルナティナさんがいてくれて、救われたんです」


その一言に、ルナティナの肩がぴくりと動いた。

顔を上げ、ほんの少しだけ微笑む。

「よかったです……本当に」

「ほんと?ありがとう」


旅人が場を和ませるように言った。

「まぁまぁ、反省は後でまとめてだな。今回はそれでいいだろ」


エドガーはため息をつく。

ルナティナはこくりとうなずいた。

「……ごめん」


空気がやわらぐ。

――これで少しは落ち着くだろう、と思った矢先。


旅人がまた顔を寄せる。

「で、お風呂ありますってのはどういう意味だったんだ?」

「覚えてないけど!?」


エドガーさんは静かに言った。

「お嬢様、後ほど執務室へお越しください」


その言葉に、ルナティナは床に崩れ落ちるように項垂れた。僕は口元にわずかに笑みを浮かべる。


「……お嬢様。いえ、ルナティナ様」

エドガーさんの声が、冷気でも混じっているかのようにぴしっと空気を凍らせた。


「勝手な行動、無断の外出、挙句の果てに敵地への単独潜入――」

「わあ、、、そんなに並べなくても……」

ルナティナは椅子にちょこんと座り、視線を泳がせた。

目の前には、腕を組んでいる旅人。後ろにはフィシリア。

逃げ場は、ない。


「無事だったからいいものの、少しでも判断を誤っていれば――」

「異議ありっ!」


その場にいた三人が、一瞬固まった。

ルナティナは勢いよく立ち上がる。


「わたし、ただ助けたかっただけだよ!その思い!

だって、あんな顔してたら放っておけない」


「感情で動くのは立派ですが、命を懸ける理由にはなりません」


「命を懸けたつもりはない!」


「ルナティナ」

旅人が口を開いた。

「人を助けたいなら、まず自分を守れ」


「それは、正論!」


ルナティナは腕を組み、ふいっと横を向いた。

頬はほんのり赤い。怒られてるのに、どこか納得していない。


そんな彼女の姿に、フィシリアは小さくため息をついた。

「……貴方という人は、本当に」


「え?褒めた?ありがとう」

「褒めてない」

「褒めたよね?」

「褒めてない」


ロディとエドガーの視線が揃って頭を抱えた。


怒られ続けるルナティナを、リオンは静かに見つめていた。

本当に……この人は、怖いほどまっすぐだ。

あの夜、自分を救った少女が、今は叱られている。

その光景に、胸が少し痛んだ。


「……僕からも、ひとつだけいいですか」

不意にリオンが口を開いた。部屋の空気が一瞬止まる。


「彼女が助けてくれなければ、僕はきっと今ここにいません。確かに危険だった。でも――その衝動が僕を救ったんです」


エドガーが目を細める。

「それでも、命を懸けていい理由にはなりません」

「はい、理解しています。でも……彼女の優しさを罰として数えるのは、少し違う気がします」


ルナティナはぽかんと口を開けて、

「……リオンさん、それ、今助けてくれたってこと?」

「助け合いです。僕も、あの日あなたに助けてもらいましたから」


旅人は苦笑し、

エドガーも咳払いひとつして、わずかに口元を緩めた。


「……リオン様の言葉、考慮に値します。お嬢様、今回は……譴責のみとしましょう」

「よっしゃ!!!」

「ただし、罰として――明日の書類整理を全部お願いします」

「え、えぇぇ!?!?まぁ、まだ、別にいっか」


旅人の兄が笑い転げ、フィシリアは紅茶を口に含みながら小さく笑った。リオンもつられて微笑み、呟く。


「……やっぱり、笑ってる方が似合いますね」



ルナティナが部屋を出ると、扉の向こうに重い沈黙が残った。

柔らかな笑い声が消え、残ったのは僅かな靴音だけ。


「……さて、ここからが本題だ」

旅人が肩を回しながら言った。


エドガーが扉に鍵をかけ、静かに告げる。

「お嬢様にはお引き取りいただきました。――では、リオン様」


その声の響きが変わった。

穏やかでも冷たくもない、ただ事実を突きつける音。

リオンはわずかに視線を落とし、手を縛られたまま椅子に座っていた。


「お前の口から、真実を聞こうじゃないか」

旅人の声が低く落ちる。


「目的は何だった?」


「……加護を、奪うことでした」

リオンは静かに答えた。

「月の加護は、あの国にとって脅威なんです。手に入れれば、どんな魔術も凌駕できる」


「つまり、彼女を利用するつもりだったと」

エドガーの声に、リオンは小さくうなずいた。


その瞬間――フィシリアの足元で、淡い光が広がる。


「心の奥に偽りがあれば、この光が反応します」

淡々とした声。

「試しても?」


「構いません」


光は……静かに明滅して、やがて消えた。


「……嘘はないようですね」

フィシリアが魔法陣を閉じる。


ロディは腕を組んだまま、リオンの顔を見下ろす。

「で、今はどうするつもりだ?」


「僕は……罪を償いたい。

でも、できることなら、もう一度、あの人に会って謝りたい」


「甘いな」

ロディの低い声が響いた。

「それで済むと思うなよ。ルナティナは命を張ってお前を止めたんだ」


リオンは苦笑するように、俯いた。

「……わかってます。

 だけど、あの時……助けてくれた彼女の笑顔が、頭から離れなくて」


「それは、恋か悔悟どちらですか?」

エドガーが皮肉めいた口調で言う。

「どちらにせよ、興味深い反応ですね」


フィシリアは小さく息を吐いた。

「……ですが、彼の言葉に虚はありません。

少なくとも、今この瞬間は」


「よし。あいつの前では言うなよ。面倒くさいことになる」

「わかってます」


エドガーが軽くうなずく。

「では、監視の下にしばらく滞在を。

 お嬢様には療養のため保護中と伝えておきましょう」


フィシリアが静かに扉を開けた。

冷たい空気が流れ込む中、リオンの瞳にわずかに光が宿る。


「……あの人は、本当に不思議な方ですね」


ロディが苦笑して言う。

「お前、あいつの正体を知らねぇだろ。まあ、知っても信じねぇだろうが」


そして、扉が静かに閉じられた。


ここまで読んでくださりありがとうございます。


正直話すことはないかな。長い文読んだ後に長い文書きたくないので、予告だけ。

皆さんトリック・オア・トリート。

飲み物ください。お菓子恵んでください!


ここまで読んでくださりありがとうございました。

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