後日談
今回は後日談ですね。多分、過去一長い?かも。
休みながら読んでください。それで良ければどうぞ。
屋敷の中は静まり返っていた。
陽が傾き、窓辺に柔らかな橙の光が差し込んでいる。
廊下を歩くたび、靴音がひとつだけ響いた。
主人の目が覚めたらしい。
報せを受けて、僕は静かに足を速めた。
リオンの様子も確認しておく必要がある。
あの男の瞳に残るものが、単なる後悔だけであることを願って。
部屋の扉をノックすると、すぐにエドガーさんが姿を見せた。
「お嬢様が目を覚まされました」
「そうですか」
短く答えて部屋に入ると、ルナティナがぼんやりと天井を見上げていた。
「……あ、フィシリア!」
「ご気分はいかがですか」
「うん、頭がちょっと、くらくらするけど、平気!」
彼女はまだ状況をよく理解していない。
寝起きの無防備な笑顔に、思わず息を整える。
あれほどのことを経験しても、変わらない。
エドガーが穏やかな声で言う。
「お嬢様、リオン様が目を覚まされております。ご挨拶を」
「わかった」
その返事の軽さに、僕とエドガーさんは同時にため息をついた。横を歩く旅人は、いつも通りの調子で笑っている。
「全く、寝顔は天使だったのにな」
「……あれで何も覚えていないのが恐ろしいですね」
「だな」
やがてリオンの部屋に着く主人。
扉の向こうで、静かに息をつく気配があった。
「リオンさん!」
ルナティナが駆け寄る声がして、僕は壁際に立ったまま様子を見た。その目に宿るのは、もはや狂気ではない。むしろ……安堵、そして少しの罪悪感。
「助けてくれて、ありがとうございました」
「い、いえ……むしろ助けられたのは、僕の方で」
――やはり、彼女はいつも通りだ。
緊張感という言葉を知らないのか。
だが、僕の心をかすめたのは、別の感情だった。
あれほど危険な状況でも……あの方は笑えるのか。
そのとき、エドガーさんが口を開いた。
「さて――お嬢様」
「え?」
「今回の件、軽く済むと思われましたか?」
「うん?」
ああ、始まった。
僕は静かに腕を組み、成り行きを見守ることにした。
旅人がにやにやと笑いながら、懐から何かを取り出した。
「馬車での録音な。ちょっと聞いてみようか」
「え、なにそれ? なんで録音してるの?意味あること?」
ルナティナが慌てるより早く、旅人が口真似を始める。
「『リオンさん、本当に、お兄ちゃんも―――』」
確実に、主人には兄がいることがわかった。
主人は兄がここにいる旅人さんなのではと考えがよぎった。
部屋に沈黙が落ちた。
「ゆ、言ってない!絶対言ってない!!!」
「言ってましたよ」
リオンが困ったように笑って目を逸らす。
「しかも、僕の前では酷く、ご飯もありますし、お風呂もありますとも」
旅人が爆笑した。
「くっは!やべぇ、腹いてぇ!」
僕は紅茶を口に含みながら、冷静に言った。
「……つまり、現場での油断と不用意な発言。
加えて公私混同。すべて問題です」
「ひぃぃっ!?」
ルナティナが悲鳴を上げた。
エドガーも重々しくうなずく。
「お嬢様、寝言といえど、状況が状況です。
反省の機会を設けましょう」
「え、えぇぇ!?寝言でも!?!?」
「当然です」
僕は少し視線を逸らした。
――主人、この人はいつも人を巻き込む。
けれど、それは悪意ではなく、本気で誰かを救おうとする無鉄砲さだ。
リオンが静かに言った。
「僕の方こそ、無茶をしました。
でも……ルナティナさんがいてくれて、救われたんです」
その一言に、ルナティナの肩がぴくりと動いた。
顔を上げ、ほんの少しだけ微笑む。
「よかったです……本当に」
「ほんと?ありがとう」
旅人が場を和ませるように言った。
「まぁまぁ、反省は後でまとめてだな。今回はそれでいいだろ」
エドガーはため息をつく。
ルナティナはこくりとうなずいた。
「……ごめん」
空気がやわらぐ。
――これで少しは落ち着くだろう、と思った矢先。
旅人がまた顔を寄せる。
「で、お風呂ありますってのはどういう意味だったんだ?」
「覚えてないけど!?」
エドガーさんは静かに言った。
「お嬢様、後ほど執務室へお越しください」
その言葉に、ルナティナは床に崩れ落ちるように項垂れた。僕は口元にわずかに笑みを浮かべる。
「……お嬢様。いえ、ルナティナ様」
エドガーさんの声が、冷気でも混じっているかのようにぴしっと空気を凍らせた。
「勝手な行動、無断の外出、挙句の果てに敵地への単独潜入――」
「わあ、、、そんなに並べなくても……」
ルナティナは椅子にちょこんと座り、視線を泳がせた。
目の前には、腕を組んでいる旅人。後ろにはフィシリア。
逃げ場は、ない。
「無事だったからいいものの、少しでも判断を誤っていれば――」
「異議ありっ!」
その場にいた三人が、一瞬固まった。
ルナティナは勢いよく立ち上がる。
「わたし、ただ助けたかっただけだよ!その思い!
だって、あんな顔してたら放っておけない」
「感情で動くのは立派ですが、命を懸ける理由にはなりません」
「命を懸けたつもりはない!」
「ルナティナ」
旅人が口を開いた。
「人を助けたいなら、まず自分を守れ」
「それは、正論!」
ルナティナは腕を組み、ふいっと横を向いた。
頬はほんのり赤い。怒られてるのに、どこか納得していない。
そんな彼女の姿に、フィシリアは小さくため息をついた。
「……貴方という人は、本当に」
「え?褒めた?ありがとう」
「褒めてない」
「褒めたよね?」
「褒めてない」
ロディとエドガーの視線が揃って頭を抱えた。
怒られ続けるルナティナを、リオンは静かに見つめていた。
本当に……この人は、怖いほどまっすぐだ。
あの夜、自分を救った少女が、今は叱られている。
その光景に、胸が少し痛んだ。
「……僕からも、ひとつだけいいですか」
不意にリオンが口を開いた。部屋の空気が一瞬止まる。
「彼女が助けてくれなければ、僕はきっと今ここにいません。確かに危険だった。でも――その衝動が僕を救ったんです」
エドガーが目を細める。
「それでも、命を懸けていい理由にはなりません」
「はい、理解しています。でも……彼女の優しさを罰として数えるのは、少し違う気がします」
ルナティナはぽかんと口を開けて、
「……リオンさん、それ、今助けてくれたってこと?」
「助け合いです。僕も、あの日あなたに助けてもらいましたから」
旅人は苦笑し、
エドガーも咳払いひとつして、わずかに口元を緩めた。
「……リオン様の言葉、考慮に値します。お嬢様、今回は……譴責のみとしましょう」
「よっしゃ!!!」
「ただし、罰として――明日の書類整理を全部お願いします」
「え、えぇぇ!?!?まぁ、まだ、別にいっか」
旅人の兄が笑い転げ、フィシリアは紅茶を口に含みながら小さく笑った。リオンもつられて微笑み、呟く。
「……やっぱり、笑ってる方が似合いますね」
ルナティナが部屋を出ると、扉の向こうに重い沈黙が残った。
柔らかな笑い声が消え、残ったのは僅かな靴音だけ。
「……さて、ここからが本題だ」
旅人が肩を回しながら言った。
エドガーが扉に鍵をかけ、静かに告げる。
「お嬢様にはお引き取りいただきました。――では、リオン様」
その声の響きが変わった。
穏やかでも冷たくもない、ただ事実を突きつける音。
リオンはわずかに視線を落とし、手を縛られたまま椅子に座っていた。
「お前の口から、真実を聞こうじゃないか」
旅人の声が低く落ちる。
「目的は何だった?」
「……加護を、奪うことでした」
リオンは静かに答えた。
「月の加護は、あの国にとって脅威なんです。手に入れれば、どんな魔術も凌駕できる」
「つまり、彼女を利用するつもりだったと」
エドガーの声に、リオンは小さくうなずいた。
その瞬間――フィシリアの足元で、淡い光が広がる。
「心の奥に偽りがあれば、この光が反応します」
淡々とした声。
「試しても?」
「構いません」
光は……静かに明滅して、やがて消えた。
「……嘘はないようですね」
フィシリアが魔法陣を閉じる。
ロディは腕を組んだまま、リオンの顔を見下ろす。
「で、今はどうするつもりだ?」
「僕は……罪を償いたい。
でも、できることなら、もう一度、あの人に会って謝りたい」
「甘いな」
ロディの低い声が響いた。
「それで済むと思うなよ。ルナティナは命を張ってお前を止めたんだ」
リオンは苦笑するように、俯いた。
「……わかってます。
だけど、あの時……助けてくれた彼女の笑顔が、頭から離れなくて」
「それは、恋か悔悟どちらですか?」
エドガーが皮肉めいた口調で言う。
「どちらにせよ、興味深い反応ですね」
フィシリアは小さく息を吐いた。
「……ですが、彼の言葉に虚はありません。
少なくとも、今この瞬間は」
「よし。あいつの前では言うなよ。面倒くさいことになる」
「わかってます」
エドガーが軽くうなずく。
「では、監視の下にしばらく滞在を。
お嬢様には療養のため保護中と伝えておきましょう」
フィシリアが静かに扉を開けた。
冷たい空気が流れ込む中、リオンの瞳にわずかに光が宿る。
「……あの人は、本当に不思議な方ですね」
ロディが苦笑して言う。
「お前、あいつの正体を知らねぇだろ。まあ、知っても信じねぇだろうが」
そして、扉が静かに閉じられた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
正直話すことはないかな。長い文読んだ後に長い文書きたくないので、予告だけ。
皆さんトリック・オア・トリート。
飲み物ください。お菓子恵んでください!
ここまで読んでくださりありがとうございました。




