正直に
今回も続きです。長いです。良ければどうぞ。
昼下がりの街。
鐘が三度鳴り、通りに柔らかな風が吹き抜けた。
また、会えるかな。
エドガーに叱られたというのに、気づけば足は同じ通りを目指していた。
露店の並ぶ一角を抜けると、遠くに見慣れた姿があった。
「……リオンさん」
けれど、いつもと違う。
今日は彼の柔らかな笑顔ではなく、鋭い視線があった。
彼の前には、黒い外套を纏った男が立っている。
「……代金は?」
「品は確かだろう? こちらもリスクを背負っているんだ」
低く抑えた声。ルナティナは咄嗟に建物の影に身を隠した。
なにこれ?この世界では良くあることだけど。
男が懐から取り出した小箱を、リオンは慎重に受け取る。
取引が終わると、リオンはふっと優しい笑みを浮かべた。
その顔が、会った日とまったく同じだったことが、逆に恐ろしかった。
「……」
逃げ出そうとした瞬間。手を掴まれる。
「ルナティナさん」
背後から、静かな声がした。
振り向くと、リオンがもうそこにいた。
柔らかい笑みを浮かべたまま、しかし瞳だけが冷たく光っている。
「どうして、隠れていたんですか?」
「えっと、そ、そのタイミングが悪いかなぁと!」
リオンは一歩近づく。
「面白いですね……見ちゃいました?」
目を逸らし、感謝を述べる事しか言えなかった。
「よく言われます!ありがとうございます!」
「…僕のこと、少し……怖くなりましたか?」
「そんなことない」
リオンは少し笑って、ポケットから銀色の小さな懐中時計を取り出した。
「……じゃあ、これを見てください。大丈夫、怖くないですよ」
時計の蓋が開き、細かな歯車が光を反射した。
チッ、チッと刻む音が、不思議と心地よく響く。
「ルナティナさん。目を、離さないでくださいね」
リオンの声が遠くなる。
胸の奥がふわりと温かくなり、視界がゆらぐ。
「……いい子ですね」
その声が最後に聞こえた瞬間、ルナティナの意識はふっと闇に落ちていった。
時計の針が静かに時を刻む。その音が、やけに近くで響いていた。何処だろうか。また怒られる。
リオンの声が、優しく、柔らかい。
「ねぇ、ルナティナさん。もう、考えなくていいですよ」
「かんがえ、なくて」
唇が勝手に動いた。自分の声が、他人のように響く。
何かを思い出そうとしても、霧がかかったように形を保てない。
なんで、私、ここにいるんだっけ──?
問いかけた途端、リオンの指が頬を撫でた。
その仕草は優しくて、痛みも冷たさもない。
だけど、それがいっそう怖かった。怖さを感じた。
「大丈夫。僕が傍にいます」
「リオンさん……」
「そう、それでいい」
声が心の奥に入り込んでくる。
思考の隙間に、甘く、ぬるい感情が滲む。
安心のようでいて、違う。
逃げられない。けれど、逃げたくない。
その矛盾が、胸の奥で泡のように弾けた。
「綺麗ですよ、ルナティナさん。
そうやって、何も考えられなくなっていく顔──」
リオンの囁きに、背筋がひやりとした。体はもう動かない。
まぶたが、ゆっくりと落ちる。やったー!寝れる。
暗い部屋だ〜。一筋の光だー。ライブ会場かな〜?
ルナティナの瞳はぼんやりと焦点を失い、変な事ばかり考えていた。
「……ルナティナさん」
リオンの声は甘い。けれど、その奥には冷たさがあった。
「僕はね、知りたいんですよ。あなたの笑顔が、どんな時に消えるのか。どうしたら……その瞳が僕だけを映すのか」
「……リオンさん、ここってライブ会場ですよね。そうだ応援しないとですよね」
手に握ったものは、いつの間にか持っていた、ただの木の棒。
リオンは穏やかに微笑む。だが、その目は冷たさを帯びていた。
「……あなた、何を考えているんです?」
リオンの動きが、一瞬止まる。
「リオンさん、カッコイイ!その表情、尊すぎです!
もっと見せてください!」
ルナティナはまだ自覚なく、まっすぐに言う。
「リオンさん、ここの空気もいいです!部屋も広いですし、光も差して、ちょっとしたステージ感覚ですよ!」
その言葉でリオンはつい肩を震わせて笑ってしまう。
光の中で、リオンの瞳が一瞬揺れる。
「何言ってるのですか」
リオンは困惑した。
その隙に、ルナティナの瞳が微かに潤み、震える声で呟いた。
「そんな顔、しないでください」
「…は?……え?」
「リオンさんの笑顔、好きなんです。
誰かを傷つけるための顔なんて、似合わない」
一瞬、空気が止まった。
リオンの瞳がわずかに揺らぎ、手から光る小瓶が落ちる。液体が床に散って、月を反射した。
「……どうして、そんなことを言うんです」
「だって……リオンさんは、誰かを笑顔にできる人だから」
ルナティナの言葉は、ただ堂々としていた。
根拠も理屈もない。けれど、そこには確かな信頼があった。
「……やめてくださいよ」
「どうしてですか?」
「そんな風に言われたら……僕、壊れなくなる」
頬を伝う涙が、月の光を受けて光る。
リオンは涙を拭い、震える声で言う。
ルナティナの言葉が、胸の奥に突き刺さる。
「あなたのそばにいたい……」
ルナティナは呟く。
「リオンさん。好きですよ〜。かーえりましょうー?
うち、広いですから!ご飯もありますし、お風呂もあります」
ルナティナは躊躇せず、手を差し伸べる。
その何気ない言葉が、リオンの胸の奥に、小さな火を灯した。
「……本当に、あなたは変な人だ」
「よく言われます」
その言葉で、リオンはやっと笑えた。震える声で返す。視界に映る彼女の広い手のひらに、自分の手を重ねる。小さくて温かい。守られる感覚が、今まで感じたことのない安心をもたらした。
ふと、頭の隅に、屋根の影、通りの角、そして遠くにかすかに見えた三つの影がちらつく。
ルナティナの無自覚な言葉がリオンの心に届くたび、三人はそれぞれ息を呑む。
「……やっぱり、あの子はただの女の子じゃない」
ロディは屋根の上でそう呟く。
馬車の扉が静かに閉まると、外の風が遮られ、柔らかな揺れだけが残った。ルナティナは深く眠ったまま、肩を小さく揺らしている。
「……意識はありませんね」
エドガーさんが静かに声をかける。眠ったままの彼女からは答えは返ってこない。
「まだ、完全には…」
前方のリオンを睨む。拘束された彼は黙って座っているが、冷静に状況を見守っていた。
旅人?はため息混じりに肩をすくめる。
「……何してんだ、全く」
彼の視線は眠るルナティナに向けられる。あまりの無防備さに呆れた顔をしているが、どこか安心も混じっている。
馬車の揺れに合わせて、ルナティナが小さく声を漏らす。
「リオンさん、本当に、お兄ちゃんも――――――」
その言葉に、三人は互いに目を合わせる。
「……まさか、本音を言うとは」
フィシリアが冷静に呟くと、旅人は肩を震わせて笑いながら言った。
「好きだの、ありがとうだの。自由すぎるだろ」
エドガーはため息をつく。
「ですが、無事でよかった。これ以上、危険な目に遭わせるわけには」
ルナティナは微かに目を開け、まだぼんやりとしたまま口を動かす。
「いつも、ありがとう。本当に」
その柔らかい声に、三人は思わず顔を緩める。
リオンは拘束されたまま俯き、静かに聞き入っていた。
馬車の揺れがさらに穏やかになり、街の音は遠ざかる。
旅人が小声で呟く。
「……全く、あの子には敵わねぇな」
僕は冷静なまま答えた。
「しかし、こうして無事に帰れるなら、それでいいですね」
エドガーさんは馬車の揺れに合わせ、深く息をついた。
「……次は安全を考えましょう」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回五十話ってマジですか?
これを後五十回繰り返せば百話に?
続くかなぁー。今回は後書きも長いです。言いたいこと沢山あるので。
ここでリオンの情報書いとく?見たい方だけスクロールを。
名前 リオン・セフィル
性別 男性
誕生日 12月28日
年齢 18歳
属性 氷属性
魔法「氷冴」
詠唱
「氷よ、静かに舞え。透き通る刃となり、仲間を包め──氷冴」
こんなもんですかね。
ここからは雑談します。
これ、視点が三回変わったの気づいた方はいるかな。
後、リオンの裏取引き気になりますよね。今回は書きませんが。何しようとしていたのかは教えません。催眠に術かかったルナティナの様子の変化も見てみてください。
前回、推しという単語が出てきたので、そこからこんな展開になりました。
今回誤字あったらごめんなさい。直しませんけど。それも味があっていいので。
再度いいますが、五十話目ですね。
ここまで書いてきたのか。設定忘れていることもあるかも知れませんけど、温かい目で見守ってください。
モチベーションは読んでくれる皆さんです。
いつもありがとうございます。
完全にフィシリア視点に戻してやる!次は後日談かな。
ここまで読んでくださりありがとうございました。




