平気
さぁ、ルナティナはどうなるかな。今回は少しふざけてます。それで良ければどうぞ。
数日が経った。
それでも、ルナティナの胸の中にはあの笑顔が消えなかった。夜の街灯の下で見たリオンの微笑み。
――また、会いたい。
ルナティナは小さく息を吐き、鏡の前でリボンを整えた。
「平気、今度は昼間だし」
自分に言い聞かせる。夜じゃないから大丈夫。
街に着くと、昼下がりの風が柔らかく吹き抜けていた。
露店の香ばしい匂い、子どもの笑い声、鐘の音。
あの日と同じ通りの向こうに、リオンがいた。
「リオンさん!」
声をかけると、彼は振り向いて、
驚いたように目を瞬かせ――そして微笑んだ。
「……またお会いしましたね、ルナティナさん」
「はい!偶然……ですね?」
「ふふ、偶然なら嬉しいですね」
二人は木陰のベンチに座った。
「リオンさんは、こうして旅してるんですよね?」
「ええ。いろんな街を回って、仕事をして……次の土地へ行くんです」
「寂しくないですか?」
「少しだけ。でも、それ以上に楽しさがあるんですよ。出会いも、景色も全部違う。だから、飽きない」
「私も、旅してみたいな」
ルナティナは空を見上げた。
「屋敷の外の世界をもっと見てみたい。でも、許されない」
「あなたのような人が旅をしたら、きっとどこへ行っても印象に残りますよ」
「それ、褒めてますか?」
「もちろん」
「ありがとうございます」
二人の間に、笑いがこぼれた。
その穏やかな空気の中、リオンがふと尋ねた。
「ルナティナさんは、好きなことはなんですか?」
「好きなこと?」
ルナティナは少し考え、指を折りながら答えた。
「ピアノを弾くこと。マフィンを焼くこと。あと、景色を眺めること、他にも沢山ありますね」
「そうなんですね。どれも全部静かな時間にできることばかり」
「私、静かな時間が好きなんです。誰もいない空気の中で、色んなことを考えるのが」
街角のカフェの向こう、屋根の上に、ひとりの影がいた。腕を組み、半分呆れ顔で二人を見ている。
「……へぇー。抜け出してデートね。こりゃエドガーの胃がまた痛くなる」
ロディだった。
彼はポケットから銀の懐中時計を取り出して、ちらりと時刻を見る。
「二十分……いい夢見させてやるか」
その頃、屋敷では――。執務室の扉をノックする音が響いた。
「……エドガー、いるか?」
「ロディ様?どうかなさいましたか」
ロディは軽い調子で笑った。
「いやぁ、ちょっと気になってね。お嬢さん、昼の風に当たりに行ったみたいだ」
「昼の風……?」
エドガーの眉がわずかに動く。
「ええ。街の方に行かれた。しかも――護衛なしで」
……沈黙。
そして、静かに立ち上がる音。
「そうですか。いつもの事ですね。馬車の用意を」
その声には、冬のような冷たさがあった。
鐘の音が鳴ったころ、カフェの通りに一台の馬車が止まった。カラン、と鈴が鳴り響く。
リオンが不思議そうに振り向いた瞬間――。
「……お嬢様」
冷たい声。
ルナティナの肩がびくりと跳ねる。
エドガーの顔はいつもよりずっと鋭い。
「……お散歩はお楽しみでしたか?」
「え、えっと……」
声が震える。私はそんな事より、美化語が使われていることに気づいた。練習に良さそうだ。
おっと、こんなこと考えてる場合じゃない。
完全にバレてる。
背後では、屋根の上からロディが苦笑していた。
「兄としては止めるべきだろうな。元気でな……」
馬車の中。
「……お嬢様。約束を忘れられたのですか?」
エドガーの声は低く、冷たい。
「だって……ちょっとだけ……」
「ちょっとの積み重ねが、命を落とす原因になるのです」
「でも、危なくなかったし」
「危なかったかどうかは、結果論です」
エドガーの声が少しだけ強くなる。
「お嬢様、貴方は一人の身ではない。屋敷の人々、領民、そして、我々にとっても、大切な方だということをお忘れなく」
「……分かってる」
その言葉に、エドガーは一瞬だけ沈黙した。
そして静かにため息をつく。
「……恋というのは、厄介ですね」
「恋とかじゃない。推し」
「そう願いたいものです」
馬車の窓から差し込む光が、二人の間の沈黙を切り取った。静かに車輪が回り出す。
その頃、屋敷の門の影では、フィシリアが淡い光の中に佇んでいた。その瞳は、感情を隠したまま、ただ馬車の帰りを見つめていた。
屋敷に帰ってきたルナティナ。
ロディとエドガーの怒りが収まったあと、廊下を歩いていると、静かな声が響く。
「……お帰りなさいませ、主人」
振り向くと、フィシリアがランプを手に立っていた。
夜の灯りに照らされた彼の瞳は、いつものように冷静で
――けれどどこか、深く沈んでいた。
「もう遅い時間です。お身体は大丈夫ですか」
「うん……少し歩いただけだから」
「少し、ですか。ロディ様とエドガー様のご様子を拝見した限り、少しではないようでしたが」
ルナティナは目を逸らす。
「だって、会いたかったんだもん」
少しの沈黙。
フィシリアはため息をつくように目を閉じた。
「……人に惹かれることは、悪いことではありません」
「惹かれるあまりに自分を見失うのは、愚かです」
その声音は静かで、決して怒鳴りはしないのに、
なぜだか心に痛く刺さる。
「貴方は想われる側の人間です」
「それを、どう扱うかを知らなければなりません」
ルナティナは驚いたように顔を上げる。
フィシリアの瞳が月光を映していた。
「想われる側……?」
「はい。主人は、知らず知らずのうちに、人を惹きつけてしまう。時に誰かを傷づける」
「なんてこった」
「分かっています」
フィシリアはわずかに微笑んだ。
「だからこそ、私が申し上げているのです。
貴方の心が誰かに傾くとき、他の誰かの心もまた、揺れてしまうということを」
沈黙。
ルナティナは小さく頷いた。
「気をつける。フィシリア、ありがとう」
そう言い、ルナティナはフィシリアの頭を撫でた。
「それでよろしいです」
フィシリアは静かに頭を下げ、去っていった。
残されたルナティナは、その背中を見つめながら小さく呟いた。
「フィシリアって、怒るときでも優しい」
しかし、彼女は気づかない。
去り際、フィシリアの指先がほんの少し震えていたことを――。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
少しでも笑ったらいいですね。
ここで、美化語について話します
「お」「ご」が最初につく、言葉を言い換える言葉です。例えば、お花とか、ご主人とかです。
え?何故フィシリアが主人だけなのって?めんどくさいに決まってるでしょ?
後、ロディはエドガーに正体を明かしてます。
そろそろ展開もクライマックスになるかな。
まだ、続きます。
ここまで読んでくださりありがとうございました。




