主だし
今回の話はエドガーが居そうな気がします。少ししかいなそうな気がしますが。良ければどうぞ。
執務室の扉がバタンと勢いよく閉まる。
「お嬢様、どういうつもりですか!」
「え、どのへんが?」
「どのへんがではありません!」
エドガーの声は珍しく鋭く、書類の束を机に置く音が響く。
「いきなり倒れていた人を拾ったと……しかも、その人が、よりによって」
「旅人だよ?」
「旅人、ではありません!怪盗ノワールです!」
「え?何言ってるの?拾われた旅人だよ?」
「拾われた、そんな子どもの言い訳が通じると思っているんですか!」
「放っておけなかった」
エドガーは言葉を詰まらせ、しばし沈黙。
怒りの中に、焦りと心配が混じっているのが分かる。
「……あなたは、本当に無鉄砲なんですから」
「人がいないと、寂しいし」
エドガーは息を呑んだ。
「……そういう理由で、私は叱れないのが腹立たしいですね」
ルナティナは少し得意げに笑い、
「ねー。いいでしょ?」
と首をかしげる。
「……いいわけが、ないでしょう」
「ほんとに倒れてた!だから助けた!」
「助けただけで屋敷に連れてくるのは、普通ではありません」
エドガーは深くため息をつく。
「しかも、あの男――」
「旅人です!」
ルナティナが食い気味に言う。
「あの男とか言わないで、かわいそうでしょ!」
「……はぁ。あなたがそう言うと思いました」
エドガーは、もはや悟りの境地のような顔をして、書類を片付け始めた。
「……後で本人から話を聞きます」
「えっ、それはダメ!」
「なぜです?」
「えっと……えーっと……」
そのとき。
コン、コン
控えめなノックの音がして、扉が開いた。
「……失礼します」
入ってきたのは、件の旅人――いや、ロディだった。
髪を乱したまま、目元に巻いた布を少し整えつつ、どこか居心地悪そうに立っている。
「おい、ルナティナ。客室ってここで合ってるか?」
「違うよ!ここは執務室!」
「……そうか。あー、悪い」
ロディは軽く頭を掻いて出て行こうとしたが、エドガーの目が鋭く細められた。
「……おや、旅人殿。どこかでお会いしましたか?」
「いや、初めてだと思うが?」
ロディの声は落ち着いている。
だが、エドガーの表情は曇ったままだ。
「……お嬢様、私は後ほどこの旅人と改めて話をします」
「えぇっ!?」
「当然です。屋敷に迎え入れた以上、素性の確認は必要でしょう?」
ルナティナは慌ててロディの腕を引っ張る。
「先に部屋行こ!」
エドガーは、静かにその光景を見つめていた。
……本当に、バレていないつもりなのだろうか
扉が閉まったあと、執務室には深い沈黙が落ちた。
エドガーは小さくため息をつき、天井を仰ぐ。
「……お嬢様。嘘をつく時は、せめてもう少し演技を磨いてください」
ルナティナは客室にロディを連れた。
部屋に入ると、ロディは呟いた。
「あの人も優しいよな。このお転婆。バレてないと思ってるのか?優しいな、あの執事。後、名前何?」
ロディは笑って、ルナティナの頭をぽんぽんと叩く。
「……なにそれ、エドガーだよ」
「冗談冗談。でもさ、エドガーも相当困ってるぜ。拾ってくるたびに胃が痛そうだ」
「ここでは私が主だし。うるさい」
ルナティナは腕を組み、ぷいと顔をそらした。
ロディはそんな彼女を見て、口の端をゆるめる。
「へぇ、主ねぇ。……お転婆姫も偉くなったもんだ」
「お転婆って言うな!」
ルナティナがむっとして睨みつけると、ロディは両手を上げて笑った。
「悪かった悪かった。だがな――世の中、拾い物には気をつけるもんだ」
「拾い物?」
「そう。たまに拾ったつもりが、拾われてることもある」
「なにそれ?」
ロディは視線を窓の外へ向け、わずかに真面目な声を混ぜた。
「お前は優しい。だからこそ、誰かの罠にも平気で飛び込む。……それが怖ぇんだよ」
その言葉には、どこか懐かしさと、本物の心配が滲んでいた。
ルナティナは一瞬だけ黙り込み、
「放っておけなかった」
と静かに言った。
ロディは短く笑う。
「だろうな。お前がそう言うと思ってた」
部屋に残るのは、温かい空気だけ。
どこか、久しぶりに家族のような時間が戻ってきた気がした。
数日後、エドガーが旅人と話す姿が見られたようだ。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次の話、また、ルナティナ視点になりそうです。
主人公、フィシリアなんだけど。ごめん。
でも、そろそろ、戻します。
次の話を書いてるので、ここまで。
ここまで読んでくださりありがとうございました。




