夜こそ
長いです。今回はエドガーの過去を掘り下げました。
知りたいかなとー。休憩挟んでください。
雨の夜。
街外れの路地は、まるで世界から切り離されたように静かだった。水たまりに灯の反射が揺れ、冷たい風が吹く。
その中で、一人の男、エドガーは膝をついていた。
魔力を失い、魔石は砕け、誓った主には捨てられた。
その事実だけが、胸の奥に鈍く残っている。
「終わった、か」
呟いた声が雨に溶けた瞬間――
「やぁ、やぁ。大変そうじゃないか。おっとイケメン!」
不意に、背後から軽い声がした。
振り返ると、そこに立っていたのは一人の少女。
黒い傘を片手に、どこか楽しげにこちらを見ている。
誰なんだ、高貴そうだ。
「……何者だ」
「通りすがりの観客さ。この方がロマンチックだし」
少女はにやりと笑い、傘の先で俺を指した。
「この後は倒れて終わり?それとも、もう一度立つ?」
「……立つ理由がない」
「ふぅん。理由ねぇ……」
彼女は顎に手を当て、考えるふりをしてから、軽く笑った。
「じゃあ、理由をあげよう。おっと、主を忘れているよ?」
「……主?」
「……俺に、まだそんな資格があると?」
「あるよ。だって、今もちゃんと跪いてるじゃないか」
その言葉に、エドガーの瞳がかすかに揺れる。
彼女の笑みは、冗談めいているのに、なぜか、胸の奥が温かくなる。
「さて、どうする?ここで終わるか、
それとも、私の執事として、もう一度始めるか」
雨の中、ルナティナが傘を差し出す。
エドガーは少しだけ迷い、静かにその手を取った。
「御意に。貴女に、仕えることを誓いましょう」
「よろしい。じゃあ行こう、相棒。
――雨宿りの続きだ」
そして二人の影は、夜の雨に溶けて消えていった。
「ふぅ……やっと止んだね」
少女が空を見上げた。夜空に、星がひとつ瞬く。
男は一歩後ろで立ち止まり、低い声で言う。
「……もうお戻りを。夜風は冷えます」
「うーん、でも星が綺麗なんだもん。ねぇ、名前は?」
「私、ですか?」
「そう。名前聞いてなかった」
男は少し黙り、視線を落とす。
「……エドガー、と」
「エドガー。いい名前だ」
「あなたは?」
「ルナティナ・ローズ、呼びづらかったらお嬢様でもいいよ?」
わずかに口角を上げて言う。
「……では、ルナティナ様」
「おっと、堅いねぇ」
「これが、私の癖でして」
「じゃあ、歩こうよ。星が見えるうちに」
「……かしこまりました」
その隣を、黒いコートを着た男―エドガーが一歩後ろで静かに並ぶ。
「ねぇ、エドガー」
「はい」
「どうしてあんなところにいたの?」
その声は柔らかく、けれどまっすぐだった。
エドガーの足が、わずかに止まる。
「……過去の話です。お聞きになっても、退屈かと」
「退屈でも、知りたいよ」
その言葉に、彼の瞳がわずかに揺れた。
「……私は、主を失いました」
「……」
「忠誠を誓った方に、裏切られたのです。だからもう、誰にも仕えるつもりはなかった」
「でも、私を助けた」
ルナティナが振り返り、微笑む。
「私って優しいね」
ルナティナの笑顔に、エドガーの口元がわずかに緩む。
けれど、それはすぐに消えた。
「ルナティナ様、軽々しく相棒などと呼ばない方がよろしいかと。私は、ただの執事です」
「えー、でもエドガーって呼ぶと、私の世界観が壊れるし」
「距離は、あった方が安全です」
「そういうこと言うと、ちょっと悲しいよ?」
「……ルナティナ様」
「なに?」
「……いずれ、相棒という呼び方が、あなたを危険にさらすかもしれません」
「そのときは?」
「私が、命に代えてでも守ります」
ルナティナはその言葉に、ただ優しく笑った。
「じゃあ、安心だね」
「ねぇ、エドガー」
「はい、ルナティナ様」
「私のこと、怖くない?」
唐突な問いに、エドガーは少しだけ目を細める。
「……なぜ、そのようなことを?」
「だってさ。拾ったばかりの人に仕えろなんて言う人、普通いないでしょ?」
「普通ではないでしょうね」
「ひどーい、即答」
ルナティナが苦笑し、エドガーの方を見る。
彼はその視線を受けても、ただ淡々と前を見つめていた。
「ですが」
「ん?」
「貴女が普通ではないからこそ、私もまた、生きる理由を見つけたのかもしれません」
「……あら」
「事実を述べただけです」
「皮肉も言えないの?」
「今は、雨上がりの夜が美しいので」
「……はぁ、ずるいねぇ」
ルナティナが小さく呟き、空を仰ぐ。
星がいくつも瞬き、雲がゆっくりと流れていく。
沈黙が訪れる。けれどその沈黙は、不思議と居心地が悪くなかった。
やがて、彼女が再び口を開く。
「ね、エドガー」
「はい」
「仕えるってさ、どういうこと?」
「……ルナティナ様の意に従い、願いを叶え、命を捧げることです」
「ふぅん。重くない?」
「慣れています」
「それが問題だよ」
ルナティナは立ち止まり、振り返った。
月の光に照らされた彼女の瞳は、真っ直ぐで、どこか悲しげだった。
「私は!対等でいたいの!」
「対等、ですか」
「うん。エドガーだって生きてるんだよ。エドガーの人生がある。もし嫌ならこのまま逃げてもいいよ」
エドガーは小さく笑った。
その笑みには、ほんの少しの痛みと温かさが混ざっていた。
「……ルナティナ様。優しすぎます」
「そうかな?」
「優しさは、時に残酷です」
「じゃあ、残酷でいい」
ルナティナがそう言って笑った。
「だって、あなたの笑顔が戻るまで、私やめないから」
一瞬、風が止まった。
「……了解いたしました。ですが、笑うのはルナティナ様の方です」
「え?」
「私は、そのために在るのですから」
「……ほんと、そういうところ、どうにかならない?」
雨上がりの街には、まだ水の匂いが残っていた。
屋台の灯がぽつぽつと灯り、どこか寂しくも温かい。
ルナティナは傘を軽く回しながら、エドガーの歩幅に合わせて歩いていた。
「ねぇ、寒くない?」
「問題ありません」
「うそ。さっきまで倒れてた人のセリフじゃないよ」
エドガーは小さく息を吐く。
「ルナティナ様がそう仰るなら、少し寒いかもしれません」
「ふふっ、素直でよろしい」
ルナティナは笑いながら、路地の角を曲がった。
灯の下、露店が並んでいる。
花を売る老人、古書を広げる青年、香辛料を並べる旅商人。
この街は昼も夜も賑やかで、でもどこか懐かしい。
「ルナティナ様、どちらへ?」
「決まってるでしょ。あなたに必要なもの、買いに行くの」
「必要なもの、ですか」
「まずは服。次に食べ物。それから」
ルナティナは一瞬考えて、笑った。
「寝る場所」
「それは、まさか」
「うちに来なよ。屋根くらいはあるし」
「しかし……」
「いいの。恩返しとかいらないよ。ただ、一緒に居てくれたらそれで」
一瞬、エドガーの表情が揺れた。
「……お嬢様は、誰にでもそんな言葉を?」
「え?言わないよ」
「では、なぜ私に?」
「……かっこいいじゃん」
夜風が吹く。街灯が二人の間を照らし、影を長く伸ばす。
ルナティナは一歩だけ、彼に近づいた。
「すごく悲しい顔してた。だから、放っておけなかった」
エドガーは何かを言いかけて、やめた。
その代わりに、少しだけ笑う。
「……ルナティナ様は、奇妙な方です」
「ありがと。褒め言葉として受け取るね」
買い物を終えると、二人は街の外れにある屋敷へ向かった。古びた門、長い坂道、月に照らされる鉄の飾り。
「ここが……ルナティナ様の屋敷ですか」
「うん。ちょっと広いけど、掃除は得意?」
「心得はあります」
「よかった。明日からよろしくね、執事さん」
「……承知いたしました」
次の日。
屋敷の廊下は静かで、二人の足音だけが響く。
エドガーは、少し緊張した面持ちでルナティナの後ろを歩く。
「……お嬢様」
彼の低く静かな声に、ルナティナはふと立ち止まった。
振り返ると、普段とは違う、真剣な顔でこちらを見つめるエドガー。
「え?」
「屋敷内では……そのように呼ばせていただきます」
ルナティナは一瞬、口を開けて止まった。
その声は、柔らかく、でもどこか真面目で、重みがあった。
「エドガーが!」
ルナティナはにやりと笑った。
ルナティナの口元に笑みが浮かぶ。
「……ふふっ、お嬢様、ね」
心の中で初めてその言葉を噛みしめるように。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
過去編どうでしたか?誤字とかあったらごめんなさい。
忙しいですがこちらに避難してきました。
現実逃避します!
やる事が沢山残ってて精神がー。
ここから愚痴吐きます。
仕事しない奴ってイラつきます。(まだ、学生ですが)
よく相方が休むのですよ。その分仕事がこっちに回るし、ですけど、休むのは仕方がない。私だって休んでいいのか?休みすぎだよ!話変わりますがそろそろテストなんです。
しかも!そいつ成績良い奴なんだよ。やってられません。これ大丈夫かな?
そういえば夏休みの絵が入選はしました。賞は取れませんでした。
ここまで作者の愚痴やら話しやらきいて下さりありがとうございます。
ここまで読んでくださりありがとうございました。




