仮面の舞台裏
今回の話は色々時点が変わります。後半です。
ちょくちょく読むことをオススメします。
では読んでってください。
控え室の扉が静かに閉まると、ルナティナを演じる僕は、少し緊張を解きながら息を整えていた。
その時、本物のルナティナが静かに一歩前に出る。
「――ルナティナ様、少しお時間をいただきます」
僕が目を見張ると、魔法の光が控え室を包む。次の瞬間、僕の姿は、主人と最初に会った時の姿になっていた。逆に主人は本当の姿になっていた。
「これで安全」
「今から私が対応する。フィシリアはその姿でその場を見守っててエドガーと一緒に」
「……承知しました」
同時に二人の声が重なる。僕は頷く。
本物のルナティナは、背筋を伸ばし、凛とした佇まいで控え室を出る。
「広間へ行こう」
静かな足取りで扉を押し開くと、煌びやかな光が迎える。
周囲の令嬢たちは相変わらず王子に必死でアピールしている。
主人はエリクス王子に向かって歩き出した。
先ほどよりもさらに集中した視線でルナティナ――本物の主人に向けて歩み寄っていた。
……やはり、本人が動くと違う。
僕は心の中でつぶやき、男装姿で少し肩を揺らして息を整える。
僕は静かに頷き、その姿のまま、目の前の光景を見守る。
――主人の巧みな立ち振る舞いと笑顔。王子の心を確実に惹きつけていく様子を見守るのであった。
―――
私は一歩ずつ歩みを進める。
心の中では冷静さを保っているつもりだけど、王子の視線が予想以上に熱く、自然と背筋が伸びる。ふざけられない。フィシリアはよく耐え抜いた。
ここで焦れば、王子も周囲も気づく……平常心。
王子の歩みが近づき、距離が縮まる。視線が交わる瞬間、微かに笑みを浮かべる。
「エリクス殿下、本日はお誘いいただき、光栄にございます」
王子は微笑みを返す。
「ルナティナ嬢、やはり貴女は特別だ。お話ししたい」
「……どうぞ」
周囲の令嬢たちの嫉妬の視線が背中に刺さる。だが、私はその視線を気にせず、王子だけを見つめる。なんとかしてくれ。
どうすれば興味がなくなるかな。なんて面倒臭いんだ。
一歩一歩、王子との距離を縮める。
視線の先にある王子は、確かに私を特別視している。
エリクス王子は堂々とした佇まいで私の前に立つ。
「ルナティナ嬢……本日お会いできて光栄です」
私は軽く会釈をし、柔らかく微笑む。
「光栄にございます、エリクス殿下。お誘いいただき、ありがとうございます」
こんな場でいちいちお世辞や微笑を作らなければならないなんて……本当に面倒くさい。
王子は私の目をじっと見つめる。
「……初めてお目にかかりますが、何か、貴女には特別なオーラを感じます」
私は微かに肩を揺らし、冷静を装いつつも、心の中でため息をつく。特別だって?そんなの、面倒なだけじゃない。
せめて別人だと見破ってから言いなさいよ。
「……お言葉、恐れ入ります。ですが、特別というのは過大評価にすぎます」
王子は首を傾げ、興味深そうに笑う。
「そうでしょうか……しかし、貴女の歩き方、所作、そして笑顔……すべてが、他の令嬢とは違う。自然でありながら、印象に残る」
私は軽く頭を下げ、柔らかく答える。
「……それは、私の意図したものではなく、自然にそう見えるだけでございます」
本当に面倒だな、こいつ。
私は心の中で、どうにか断る理由を考えてみる。
「ルナティナ嬢……ぜひ貴女の想いも――」
こうすればいいな。
「……恐れ入ります、殿下。しかし本日は控えめに振る舞うことが礼儀にございます。あまり深入りすると、場の秩序を乱してしまいかねません」
王子は少し驚いたように眉を上げるが、穏やかに頷く。
「なるほど……控えめですか。確かに、こうして皆が見ている場ですものね」
私は視線を少しそらし、ささやくように付け加える。
「……お話は、また別の機会に。今日はこの場で精一杯振る舞うことが、私の務めでございます」
次の機会なんてないけどね。早く終わって!
王子は一瞬迷った表情を見せるが、すぐに笑みを浮かべ、手を軽く下ろす。
「わかりました。無理に話を聞き出そうとするつもりはありません。貴女の意思を尊重します」
王子は再び微笑みを浮かべ、軽く会釈する。
「では、この後は無理のない範囲で、貴女と共に楽しむことにしましょう」
私はその言葉を聞き、自然な笑みを返す。
「……承知いたしました、殿下」
私は王子の視線を受けつつも、周囲の人々の視線や雰囲気を意識する。
……そろそろ、あまり長く話していると皆の興ざめになってしまう
軽く息をつき、柔らかく微笑みながら言った。
「……エリクス殿下、今日は他の方々もいらっしゃいますし、このあたりで失礼させていただいてもよろしいでしょうか」
王子は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑みを返す。
「そうですか……わかりました。無理にお話を続けさせるつもりはありません」
私は礼を軽くし、控えめに頭を下げる。
「ご理解いただき、ありがとうございます。では、また改めてお話しできる機会を楽しみにしております」
はぁ、終われる。こんな話なんか続けられない。
王子は再び微笑み、丁寧に会釈をする。
その瞬間、周囲の視線が自分から少しずつ離れるのを確認した。
すぐに二人の所へ駆け込む。
夜の静寂が、さっきまでの喧騒をすっと包み込み、私の肩の力をゆるめる。
「…疲れた」
本当に疲れた。
「お嬢様、予定通りでございました」
彼は淡々と報告するが、目の端にはほんのわずかの安堵の色が見え隠れしていた。だけどこれは言わないと。
「やばい。あの人惚れ込んでる。だから魔法をかけてからそっちへ向かう」
フィシリアが小さくうなずく。
「承知しました。ルナティナ様と共に過ごせて安心いたしました」
エドガーも同意し、出る準備を整える。
私は最後に広間を思い浮かべ、静かに魔法を呟く。
彼奴は私が来ていた令嬢の一人であると認識する。
煌びやかな広間の光や喧騒からやっと離れた。
心の中の緊張が完全に解け、ようやく安らぎを感じられる。
馬車の揺れに合わせて、静かな夜の空気が車内を包む。ランタンの柔らかな光がフィシリアとエドガーの顔を淡く照らす。私は背もたれにもたれ、深く息を吐いた。
私は軽く肩をすくめる。
「……しかし、王子もなかなか手ごわかったわ。フィシリア、最初大変だったでしょ」
フィシリアは小さくうなずき、少しはにかむように答える。
「はい。ですが、ルナティナ様の冷静な判断のおかげで、事なきを得ました。ありがとうございます」
横でエドガーが淡々と声を発する。
「……お嬢様、今日のご立ち振る舞いも見事でございました。王子に気を取られず、周囲を把握しつつ対応されていました」
「珍しく、ちゃんと褒めてるわね。私には舞踏会は向いてないわ。もう、これ以上行くことはないわね」
馬車の窓の外に広がる夜景をぼんやり眺めてると眠くなってくる。
…………
馬車の中。お嬢様は、窓の外の夜景を見つめながら、すでに浅い眠りに落ちていた。
私は小さく息を吐き、隣に座るフィシリアへと視線を向ける。
「……お嬢様が寝てしまいました。貴方も休んで構いませんよ」
フィシリアは一瞬戸惑ったようにこちらを見たが、やがて小さく微笑む。
「……では、お言葉に甘えて」
そのまま彼も姿勢を崩し、目を閉じる。まだ緊張の名残を残しているのか、ぎこちない眠りだ。
私は二人の様子を確認し、そっと背もたれに身を預けた。
――お嬢様とフィシリア、二人とも今は夢の中。
警戒を解くわけにはいかない。けれど、この静けさだけは守り抜いてやりたい。
馬車は夜道を静かに進んでいく。
私は窓の外に目をやり、月光に照らされる街並みを見ながら、心の中で小さくつぶやいた。
「……どうか、この安らぎが長く続きますように」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
いやールナティナの大変面倒くささが現れた心情ではなかったのではないでしょうか。あと後書き書いてて、誰か9月5日誕生日だったようなと設定メモ見て思い出しました。昨日、エドガーの誕生日でした。ごめんね。この話が終わったので、書いてきます。
現在、何日書かなかったか調べたら12日分書いてませんでした。近々その分出ると思ってください。
エドガーの誕生日忘れでわかったと思いますが、これが作者クオリティです。
ここまで読んでくださりありがとうございました。




