第6話 少女と家族
「ただいま帰りました」
恭子さんに送ってもらい、ようやく家に辿り着いた。
「椿ちゃん! おかえり!」
「お疲れ様。大丈夫だった?」
「お姉ちゃんおかえりー!」
私を迎えてくれる両親と妹。
義理のではあるが、私にとっては本当の家族よりも大切。
父の七原修也さんはとても優しそうな、実際優しい方。
母の秋子さんはいつも笑顔で温かい、素敵な女性。
お父さんもお母さんも40代にしては若く見えると思う。
特にお母さんは私からしてもかわいいと思う事もあるくらい。
妹のさくらちゃんは短いサラサラな髪をぽにぽにヘアーにしていて、とても活発そうな中学生って感じ。
「えぇ、無事に彼を連れて帰ることができました」
昨日向かった場所が危険だとは言っていないし、もちろん配信のことも言っていない。
余計な心配をかける必要はないと。
「そ、そうか……本当に玲が……!」
「……ああ、玲……」
「……」
期待と喜びを、必死に抑えているかのような表情の両親。
妹の桜ちゃんはまだ生まれてなかったからか、何とも言えない表情をしている。
「レイくん、出ておいで」
――この時のために、溢れる劣情を抑える特訓をした。車の中で。
江ノ島さんがドン引きしていたが、些細なこと。
「んん~……? なぁに? まだねむいよぉ~……」
「はぁん! レイたんねむねむなんでちゅね~……かわいいねぇ~……」
ちょっとの間だから我慢してね。
レイくんの姿――あの日から全く変化していないレイくんに、お父さんもお母さんも驚きを隠せない様子。
それも仕方がない、かな。
「……こほん。玲、よくぞ無事に戻ってきてくれたな」
「……本当に! あぁ……玲、この日をどんなに待ちわびたことか……」
「ちっちゃっ!」
2人が目に涙を浮かべてレイくんを見る。
さくらちゃんは……素直な感想ね。
「……だぁれ?」
「れ、玲? 私だ、お父さんだよ?」
もしかしたらと思ったけど、やはり記憶は戻らないようね。
「レイくん、この方たちはあなたのお父さんとお母さん、そして妹のさくらちゃんよ」
「……ふぅん」
「お父様方。レイくんは――」
恭子さんがレイくんの魂を見て立てた事実と推測を伝える。
「……そうか。いや、今はとにかく無事に戻ってきてくれたことを喜ぼう」
「そうね。それ以上のことはないわ!」
お父さんとお母さんはそれでも喜んでいくれているけど――。
「無事って……幽霊じゃん! それに子どもだし!」
まぁ……確かに無事とは言えないかもだけど。
「さくらっ!」
「何よっ! こんな……こんなのっ! お兄ちゃんじゃない!」
そう言って自室に向かって走っていくさくらちゃん。
「椿ちゃん、申し訳ない……」
「いえ、戸惑う気持ちはわかります」
それこそ時間が解決してくれる……はず。
とりあえずは――。
「レイくん、この方たちはあなたのお父さんとお母さん。さっき走って行っちゃったのは妹のさくらちゃん」
そして私はあなたの恋人もしくは婚約者もしくはお嫁さん。
「ふぅん……わからないや」
「……」
少し悲し気な両者。
「……けど、何だか……何だかぽわぽわする……」
記憶はなくても、家族の温かさは感じたのかしら。
レイくんの言葉に両親も目に涙が浮かんだ。
「うんうん、どんな状況になっても……お前は私たちの息子だからな!」
「そうね。レイちゃん、この家では好きに過ごしていいからね」
それから再びレイくんが眠気を訴えるまで、十数年ぶりの家族の交流を楽しんだ。
▽▽▽
「おにぃ……」
お読みくださりありがとうございます!
車の中での出来事はここでは書けません。
もう1つ小説を投稿しています。異世界転生モノです。
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