小噺 少女たちとコーラ
「えーっ!? 今日はどこにも行かないのーっ?」
私のかわいいレイくんが、残念そうな顔をしている。
本当に輝蘭羅さんの不甲斐なさには呆れるわ。
「うっ! ごめんねぇ~?」
「あっ! 僕こそごめんねっ! キラちゃん、よしよしっ!」
そんなっ! 頭なでなでなんて……!
私もダウンしていようかしら。
「うふふ、気持ちいい~っ! ありがとねっ!」
「うんっ……ふわぁぁぁ~……」
レイくん……あくび……かわよ。
「ねむねむなんでちゅね~、よちよち、おねいちゃんのなかでねんねちまちゅか~?」
どうしたの? 眠いのかしら?
「……」
幽霊が眠くなることに今さら驚いた様子の輝蘭羅さん。
まぬけなお顔が一層まぬけになってるわ。
「……ん……何だか……今日は……すぴっ」
えっ!?
「えっ!?」
えっ!?
「寝るの早――ってつーちゃん、顔がひどいことになってるよ……」
「ふわぁぁ~……かわいいねがおでちゅね~……かぁいいねぇ~……」
ふふ、そんなところで寝ると風邪ひいちゃうわよ?
「……はぁ」
「あ、恭子さんっ! おはようございますっ!」
「おはよう。椿ちゃんは……トリップ中ね。やれやれだわ……」
失礼ね、ちゃんとしてるわ。
「今日はお休みにするのね?」
「はい、私たちも疲れちゃったし……レイくんもお疲れだったのかな~っ?」
『たち』じゃないわ。あなただけ。
「あら? もしかしたら……魂の調整をしているのかもしれないわね」
「たましいのちょうせい?」
レイくんの魂は、まだ不安定な状態。
こうして生活しながら少しずつ修復は進んでいるみたいだったけど……。
「えぇ。ここのところ忙しかっただでしょう? 今日は休めると知って、という事かしら」
「そうですか……」
そう言ってレイくんを見つめる輝蘭羅さんの目はまるで――!
「……いつもありがとうねっ」
「……………………」
ナゼキサマガソンナカオヲシテイル……!
ワタシノレイクンニハツジョウシヤガッテッ!!!
「あ、あらっ椿ちゃん、おはようね……おはよう……」
さっきから起きてる、と思ったけど恭子さんにちゃんと挨拶していなかったわね。
「おはようございます」
「う、うん……おはよう」
どうしてだろう、何だか自分の声がいつもより低い気がする。
まぁいいか。
それにしても、何度おはようと言うのだろう。
「……」
「……」
急に黙り込んでしまったわ。
「――っ、そ、そうだっ! 恭子さん、昨日の話だけど――」
「な、なな何かしら?」
恭子さんが慌てるなんて珍しい。
「えと、その――あっ! コーラ! コーラについてなんだけど……」
「あぁ、丁度いいわね。レイくんには内緒にした方がいいから」
ソウ言ッテ、レイクンヲ見ツメル恭子サンノ目ハ……普通ダッた。
よカッた………………あれ、何がだろう?
「コーラとは、コーラの種子エキスを含んだ炭酸飲料全般を指す。当然、霊力回復の効果はないわね」
「へっ!? だって――」
「霊力は思いの強さによる」
「それは前にも……――え? ええっ!?」
……そういうことだったの。
「知らなかったのかしら?」
「つまり! レイくんはコーラを飲めば霊力が回復するって……思い込みでっ!?」
「当然よ。コーラにそんな効果がある訳ないじゃない」
「そんなっ! だったら……つーちゃんは何の意味もない苦行をあんなにっ!? 全世界に向けて恥ずかしいゲップをする姿を晒してまで!?」
……輝蘭羅さん、わざとなのかしら。
「ま、まぁ意味のないことではないから……」
「でも、コーラである必要はないですよねっ?」
腹立つ言い方……けど、その通りではあるのかしら?
「そうね。けどあそこまでの思い込み……どうしてコーラなのかしら?」
「さぁ……うちではコーラは禁止されてたのですけどね」
歯が溶けるとかいう都市伝説を信じて。
あれ、コーラだけじゃなくて炭酸全般に言えることだそうよ。
「コーラ……ふふっ!」
「どうしたの?」
「あ、いえっ。初めてレイくんがコーラを飲んだ時のことを思い出しちゃってっ」
――っ!?
『これがコーラ……伝説の……っ!』
「オマエノセイダッタノカ……」
「ええっ!? 私はただ――」
「何がメントス入りコーラよっ! あんな動画今時誰もやらないってのに!」
いけない、つい感情的になってしまったわ。
「うっ……だってぇ……って、あの動画のせいってこと?」
「……あれ、すっごく見てた。目をキラキラさせながら……『コーラすごいっ!』って……」
多分、30再生中26再生はレイくんね……。
残りはニアさんたちかしら。
「……かわいいね」
「……そうね」
こほん、と恭子さんが咳払いをする。
「理由がわかったわね。であれば、尚のことコーラでなければいけない。最早コーラという概念を少しでも崩すべきではないわね」
「がい、ねん……?」
「つまり、冷たい、炭酸、黒い……といったコーラの特徴のことよ」
そんなっ! どうにかなるかと思ったのにっ!
炭酸抜くとか! 炭酸抜くとかっ!
「レイくんが少しでもコーラの神聖性に疑問を持たない、コーラはすごいという思い込み。それが重要よ」
「――くっ!」
喉や胃袋ってどうやって鍛えるのかしら?
それとも横隔膜?
「けど……霊力回復のできる手段、正直羨ましいわ。喉から手が出るほど、ね」
「……例えそれが地獄の苦しみを伴うものでも、ですかっ? しかも無駄な」
輝蘭羅さん……やっぱりわざとよね?
「ええ。強力な霊との戦いにおいて、霊力が足りないなんてことはよくあること。それを瞬時に、しかも大量に回復……羨ましいどころの話じゃないわね」
……確かに、先の戦いでもそのおかげで勝てた訳だし。
「……そっかぁ……つーちゃん、大変だけど――」
「問題ないわ」
いいのっ! 私っ、レイくんのためならいくらでも頑張れる……っ!
だけど、この時の私はまだ理解しきれていなかった。
もう1段階上があることを……。
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