小噺 生贄の儀①
レイくんと椿ちゃんが子どもの頃の話です。
――11年程前。
「レイくん! あーそーぼっ!」
「つばきちゃん! いまいくね!」
少女と少年――蛇塚椿と七原玲が無邪気に遊んでいた。
この時から1年ほど前にこの村に七原一家が移住してきてから、ほとんど毎日一緒に過ごしていた。
少女には何人かの兄弟姉妹がいたが、とある事情でほとんど関りを持たせて貰えなかった。
親族だけでなく、村の大人たちも彼らの子どもと関わらせようとはしなかった。
よそ者である少年はその事情を知る由もなく。
椿が1人でいるところに声をかけたのが始まりだった。
「きょうもきんじょのおばちゃんがいっぱいおかしをくれたの! レイくんにもおっそわけ!」
「わぁーい! ありがとー!」
事情――もうじき椿が生贄に捧げられる。
そして、菓子は罪悪感を紛らわせるための贈り物。
「んー! おいしー!」
「こっちもおいしいよ! ほら、たべてごらん」
それでも無垢な子らにとっては喜ばしい物に変わりはなく、仲良く分け合っていた。
「えへへっ! ……たのしいね」
「うん!」
「……ねぇ、レイくん」
「なぁに?」
椿が不安気な顔をしながら言う。
「これからも……いっしょにいてくれる?」
「? もちろん! ずっといっしょにいようね!」
それまで友人の1人もいなかった椿。
満面の笑みを浮かべながら、その日も過ごしたのだった。
「えへへっ! レイくんだいすきっ!」
▼▼▼
「ちょっといいかな」
日も暮れ、椿と別れた玲に声をかける男が1人。
「……えと、おじさんだれ?」
玲が答える。
「今度この辺でお祭りがあるって聞いたんだけど、知ってるかい?」
「あー……」
玲は答えるかどうか迷っていた。
そのことは村の人間以外には話してはいけないと言われていたからだ。
「おじさんも出てみたいんだよ。この前の時は風邪で参加できなくてね」
「ぁ……」
それは可哀そうだ。
少年の気持ちが少し揺らぐ。
「……ほら、話を聞かせてくれたらこのお菓子を上げよう。明日お友達と食べるといい」
「……いいの?」
それはお菓子を貰うことについてか、秘密を漏らすことについてか。
「もちろんさ。それに、おじさんも他の人に言ったりしないよ。自分で参加したいだけだからさ」
「ん~……それなら、いっか!」
「ほんとうかい? ありがとう」
「こんどのおやすみのひ、あそこのじんじゃでおまつりがあるんだって!」
玲が指をさしたのは、村を一望できる小高い丘の上にある神社だった。
「そこでね! つばきちゃんがしゅやくのおまつりがあるんだって! なにやるかは……わかんないけど!」
「……ふむ。時間はわかるかい?」
「よるだよ! いつもはねてるじかんだけど、このひだけおきてていいんだって! ほんとうのむらのいちいん? になるためにはでなきゃいけないんだってさ」
「……そうか」
男は概ね聞きたいことは聞け、そしてこれ以上の情報を得ることはできないと悟った。
恐らく村の新入りには当日まで詳細は語られないのだろうと。
「ありがとな、ぼうず」
「ぜったいないしょにしてよ!」
もちろんだ、といいながら離れようとする男。
しかし、ふと足を止めて少年に声をかける。
「もし――」
「ん?」
「もしも、もうそのお友達と会えなくなるとしたら……どうする?」
「――え?」
お読みくださりありがとうございます!
みなさんは知らない人からお菓子をもらってはいけませんよ……!
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