第11話 少女と呪物
<KYONKYON:レイって子、つーちゃんに霊力を渡してみて>
KYONKYONさんとやらがそんなことをコメントしてきた。
「れいりょく?」
<KYONKYON:……難しいことは考えないで、つーちゃんに力を送ってみるのよ>
<ぴょんはピョンピョンだぴょん:おっと?>
<豚バラ炒飯:KYONKYONさん何者!?>
「ん~……んん~!」
「ぁ……」
この時――もしかつて人前で溢れる劣情を抑える訓練をしていなかったとしたら……。
私の痴態が世界中に流されていただろう。
そのくらい、興奮した。
「――ッ!? ――ッ!!」
「むむむむ~!」
<柿ピー大好き:つーちゃんうずくまっちゃったよ!?>
<KYONKYON:やばっ失敗した!?>
<ぴょんはピョンピョンだぴょん:うわぁ>
だめ、これ……らめぇ……。
「つ、つーちゃん!? 何だか光ってる!」
「え、えぇ……え?」
<KYONKYON:よかった、成功したわね>
<ぴょんはピョンピョンだぴょん:失敗してたら破裂するか弾け飛ぶところだったぴょん>
<aaaa:どうやっても人体爆破でくさ>
「何だか……力が溢れてくる」
レイくんのエネルギーが私の体からにじみ出て体を包んでいる。
これなら、いつもの何倍も力が出せそう。
「ほ、本当にどうしちゃったの!?」
「きらリンさん、後は任せて」
そう言って彼女を退かせる。
そして――。
「はぁっ!」
気合を込め、壁をドンと殴る。
これが本当の壁ドンね。
「あーっ!!! 壁ぇぇっ!!!」
<TOR:壁が崩れた!?>
<仏教徒ゴリラ:majikayo>
<闇より井出氏:……羨ましい。『力』、か……>
「り、理事長になんて報告すれば……!」
「そんな些事どうでもいいわ。ほら見て」
崩れた壁の向こう側、そこには――。
<怖い話スキー:大量のお札と……箱?>
<イマスグモドレーヌ:こういうのでいいのよ。私にも見えるから>
壁一面に張り付けられたお札、そして同様に幾重にもお札が張られた箱。
<柿ピー大好き:……やば、気持ち悪くなってきた……>
<ぴょんはピョンピョンだぴょん:あー、呪物ぴょん。何重にも封印してるぴょん>
<TOR:呪物って?>
<怖い話スキー:呪いが込められてたり不思議な力を持つ物だね。こうして厳重に封印されてるってことは……>
<豚バラ炒飯:相当やばいもの?>
「ひぃぃぃっ!?」
江ノ島さんが尻もちをついて涙目に。
ふふ、理事長の怒りとこの箱、どちらが怖いかしらね。
私?
「もう何も怖くないわ」
<8月32日:それは死亡フラグじゃぞ!>
<ぴょんはピョンピョンだぴょん:あ>
思い切って箱を持ち上げる。
途中何かの抵抗を感じたけど、レイくんとの愛の共同作業を阻めるものは何もないわ!
<ぴょんはピョンピョンだぴょん:今のつーちゃんが触ったら箱の封印も……>
その瞬間箱のお札が弾け飛び、中には――。
「……何かしら……指?」
「ど、どれぇ……? ぎゃぁぁぁぁっ!?」
干からびた、細くなった物体。
辛うじて指かも? と思えるようなものがいくつか。
「……さすがにこれは映したらだめかもしれないわね」
「うっ! おろろろろ……」
大変、映してはいけないものがまた増えたわ。
<怖い話スキー:それってもしかして、超有名な……>
<ぴょんはピョンピョンだぴょん:本当に映しちゃダメなやつね。私たちも洒落にならなくなる>
<TOR:え、何なの箱の中身>
<イマスグモドレーヌ:ヒント、小鳥、箱>
<aaaa:美少女のげろ! そっちは映して!>
<きらリン推し:これが本当の、きらリンのキラキラ配信www>
「それじゃ、今日のクライマックス、レイくんの除霊シーンよ」
箱の中身が見えないように置き、グロッキー状態の輝蘭羅さんからスマホを受け取ってレイくんを――。
やだ、かわいい! アップにしなきゃ!
「さぁ、お願い」
「よーし、とりゃぁー!」
<きらリン推し:レイくんの顔しか見えないんだけど>
<怖い話スキー:ちょっ何が起こってんのよ!?>
レイくんの右手からエネルギーが放たれ、呪物は箱ごと消滅した。
よく観察してみると、確かにもやもやしたものがレイくんに吸い込まれているのがわかる。
「……あれ、気持ち悪いのなくなったっ!」
<ぴょんはピョンピョンだぴょん:多分きらリンにかけられた呪いもなくなったぴょん>
<(^q^)プッ:呪われててくさ>
「えっ!? 私呪われてたのっ!?」
<怖い話スキー:推測が正しければ、女性に悪影響を与えるものだからね>
<紳士的なお兄さん:【悲報】きらリンが女性だと確定>
<TOR:え、つーちゃんは男?>
「何が悲報よっ! どうみても美少女でしょ! ――っと、ちょっと急だけど今日の配信はおしまいでーすっ!」
<柿ピー大好き:【悲報】理事長と電話>
「みんなぁー! 次もキラキラしようねーっ! キラッ☆」
「ごきげんよう」
視聴者さんたちの『おつ』コメントを眺めながら、輝蘭羅さんが虚ろな目をしてこちらを見る。
「……理事長、怒ってるよね……?」
「……」
冷静に考え――なくても、そうでしょうね……。
その後、すぐに理事長から電話がかかってきて――。
後日わかったのだけど、例の箱について理事長含めて学校関係者は誰も知らなかったらしい。
恐らく学校の建設に関わった業者が、発掘されて扱いに困ったそれをこっそり埋め込んだのでは、とのこと。
結果的に私たちへのお咎めはなかった。それどころか感謝もされた。
レイくんもエネルギーを摂取でき、修繕やお祓いなどで学校も休校。
ついでにこのことが軽くネットニュースにもなり、輝蘭羅さんのチャンネル登録者数も増えたのだとか。
「これぞWINWINねっ!」
「休校。ふふ」
「わぁーい!」
▼▼▼
『大丈夫なの、あの子たち』
『……許容範囲よ』
『そう、けど――』
『えぇ、その時は』
『責任を取って、私が消滅わ』
お読みくださりありがとうございます!
呪いとか関係なく、箱の中に指が入っていたら気持ち悪いですね
もう1つ小説を投稿しています。異世界転生モノです。
そちらもよかったらぜひお願いします!