俺の寝言が超高等魔法の詠唱だった件。
その日の俺は散々だった。
普段であれば、戦士として仲間たちの最前線で戦っている俺。
しかし、今日だけは違った……。
何気なく踏み込んだ迷宮。
そこは、物理無効の魔物の巣窟だった。
せめて、みんなの盾になる。そう意気込んで前に出ても、霊体の魔物は身体をすり抜けていくばかり。
「おい、お前は下がってろ! 魔法発動の邪魔にしかならないんだから」
「あっ、はい」
俺は最後尾で小さくなるしかなかった。
仲間のみんなが魔法を放つ中、俺は一人追随するだけ。
その時、思った。家に帰ったら、魔法の練習をしよう、そうしよう、と……。
我が家の本棚を漁る。
魔法関連の本を探す中、見つかるのは筋トレ関連書籍ばかり。
歩く筋肉と呼ばれる俺の家だ。当然、そんなもんだろう。
やっとの事で見つけた本。タイトルは「ゴリラでも分かる魔法入門」。
何を思ってこの本を買ったのかは置いておくが、なんて最適な本なんだろう。
早速、その本を開いてみる。
「なになに、魔法の基本は詠唱です? いや、ゴリラに詠唱は出来ないだろ……」
早速、期待を裏切られた気分だ。比喩的な表現だったとしても、だ。
ただ、俺はゴリラに負けない筋肉を持つだけの人間。希望はある。
ペラペラとページをめくり、詠唱文一覧へと目を向ける。
「ええと、『我が前に顕現せよ、ファイアーボール』」
魔法は発動しなかった。
もしや、属性に適正がないのかもしれない。
そう思った俺は、その後もいくつもの魔法を試し……落ち込んだ。
「ゴリラに出来て、筋肉男には出来ないか。世知辛い世の中だ……」
そして、俺は落胆しながらベッドへ潜り込んだのだった。
――その日の深夜。村は異常な冷気に襲われた。
そして、朝。異常な寒さの中、俺は目覚めた。
夏だというのに窓は凍り付き、室温は冬の雪山のようだ。
この鍛え上げられた筋肉が無ければ、俺は部屋で凍死していただろう。
「異常気象か? それにしたって、限度があるだろうに……」
そんな異常な現象は、毎日繰り返される事となる。
ある時は、竜巻に遭ったかのように屋根が一夜で消えていた。
またある時は、我が家の下に一夜で山が出来上がっていた。
流石の俺も、命の危険を察していた。
ベッドに潜り込まず、椅子で一夜を明かそうと考える。
が、眠気には勝てず、意識が朦朧とする中で……俺は俺の寝言に恐怖した。
「『天を切り裂く雷よ、(中略)ゴッドライトニング』」
ああ、俺の寝言は超高等魔法の詠唱だったようだ。