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第七話


「ではアルヴァ様、こちらを」

 

 俺に手渡したのは白い折り畳まれた布。さっきまでシスターらが抱えていたものだ。何かと思い広げてみると、貫頭衣のような衣類だった。透けるほどではないのがまだ救いどころではあるが生地が薄い。

 

「こちらは儀式を行う際に身につけるものになります。脱いだ衣服はこの部屋に置くようにしてください。外でお待ちしておりますので、着替え終わりましたら扉を叩いてお知らせください」

 

 司祭様は出て行った。ここでようやく一人になる。そこのテーブルにもらった服を置く。椅子に腰掛けた。少し息を整え、改めて服を見る。服のサイズはぴったり。何年も使っているのか、ほんのわずかにほつれている箇所がある。だが遠目から見ればなんも違和感を感じさせない。一枚の布切れでも、どことなく高級感を醸し出している。


 無心で言われた通りに着替える。少し肌寒い。脱いだものはクローゼットの中に適当にしまった。


 扉をノックするとすぐに開く。司祭様はずっと目の前で待っていたみたいだ。「アルヴァ様、次はこちらを」と、透明なグラスを渡してきた。中には無色の液体が入っている。

 

「これ…は?」

 

「こちらは清めの聖水でございます。体内に溜まる邪を祓う効果があります」

 

「清めの…聖水…ですか」

 

 俺は口元にグラスを持っていく。一気に飲み干した。味の変わらない…ただの水だった。

 

「空のグラスはこちらで預かります。それでは儀式の間へ参りましょう」

 

 司祭様が部屋を出たので俺も出た。その先には一つの扉。位置的には石像の背後にある壁だった。上手く溶け込んでいて近くに寄るまで気が付かなかった。

 

「では、中へお入りください」

 

 俺は彼の言葉の通り入った。内部は地面を削った、洞窟のような作りになっている。明かりはなく、奥からひんやりとした風が吹いている。この服装だと肌寒い。

 

「この先、濡れているので足元にお気をつけください」

 

「分かりました」

 

 司祭様の言うように壁も地面も湿っている。注意されたとはいえ危うく尻餅をついてしまいそうになる。ぬるぬるしててあまり触りたくないのだが、壁を手すりの代わりにして進んでいった。


 暗がりを慎重に歩いて行くと、出口と思われる光のような柱を見つけた。歩き進めるたび、その柱はより太く、より輝くようになった。ついに洞窟を抜けると、大きな空洞だった。俺が見た光は、天井から差し込む日の光だったみたいだ。それが当たる中心に、聖堂にあったあの石像よりかは小さいが、女神エスピルの石像が置かれている。囲むように湧き水が溢れていて全体的に苔に覆われている。水が冷たい。

 

「この場所は我らが主、エスピル様が信仰する民のために自らの手で作られたとされる儀式の間、『祈りの泉』でございます」

 

「ここが…」

 

「ここではアルヴァ様、ご自身で、お祈りを捧げていただきます」

 

「司祭様は…?」

 

「私は聖堂へ戻ります。今からこの場にいることを許されるのはアルヴァ様とエスピル様のみでございます」

 

「その…お祈りの作法とかは…」

 

「それは問題ありません。普段行われている通りにすれば良いのです。エスピル様は受け入れてくださいます。それでは」

 

 司祭様はそう言って泉から出て行く。俺はこの場所に一人、取り残されてしまった。

 

像の前に跪く。普段行っている通り…と言われても、それほど真剣にやってないし、毎回出鱈目だ。でもその言葉を信じて手を合わせるしか無かった。


 目を瞑る。


(我らが主、女神エスピルに祈りを捧げます。どうか俺の願いを聞き入れてください)


 すると、瞼を閉じているのに視界が明るくなるのを感じた。あまりに眩しくて目を開けると、さっきまでいたところとはまた別の場所にいることに気づく。だが俺はここに見覚えがある。俺がエスピルに会ったあの場所だ。


「お久しぶりです。アルヴァ・クロズリー、いえ、ここでは伊藤司と呼んだほうがいいでしょうか」

 

背後から声がする。振り向くと、エスピルはかすかに笑みを浮かべた。

作者の瑠璃です。

まずは読んでくださりありがとうございます。

この作品はタイトル通り、それぞれの視点で描かれる異世界物語です。魔族サイドのお話もあるのでもしよろしければその作品も読んでいただけると嬉しいです。また不定期投稿なので気長に待っていただければと思います。ブクマ、評価等していただけるとめっちゃ喜びます!!

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