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第十九話 中編 その1

 曇り空の下、オリビネル領、魔族領との国境付近。召集要請をもらい現場に着いた第一師団は周囲に仮拠点を築き、魔族の攻撃を凌ぎながら戦闘状態が続いていた。陣形を組み、常に仲間のいる状態で戦闘を進めたことで、力で劣っても状況は人族側に傾いている時だった。偵察を行なっていた少数の部隊から魔族側で援軍を確認したという報告が上がった。種族は人狼種(ワーウルフ)大鬼種(オーガ)。既に種族間での対策法を確立していたため、援軍がきても殲滅までは時間の問題だと思っていた。が、念には念に、部下にはそのまま偵察を続けさせ、魔導暗号で逐一を報告させていた。

 

 ((何かがとてつもないスピードで拠点に迫ってきます!))


 と、知らされた途端通信が途切れた。何度も呼びかけたが応じない。隣で同じく指揮を務めているルーク団長も応答を試みているようだが返事がないようだった。


((各員に告ぐ!防衛力強化のための陣を組み直す!前線に出ている者は一度下がれ!土魔法を得意とするものは拠点を囲むように壁を設置せよ!蟻一匹の侵入を許すな!))


 既に偵察部隊はやられていると判断、魔族の切り札が投入されたと考えたグレンは魔導暗号を送った。だが、結果的にその判断が誤りとなる。


「おや、そのような土壁を作って何になるとお思いですか?」


 後ろから聞きなれない声がする。囲まれた拠点の中には前線を下がった団員や負傷兵、状況を見てその都度司令を出す幹部らしかいない。そして、落ち着いた声からは想像のできない異様な殺気に全身が震えた。振り向くと、人狼種(ワーウルフ)の兵が一人、拠点内に侵入している。青みがかった黒い体毛に全身の毛が逆立つような鋭い眼。俊敏性のためか、脛当てや肘当て、胸部などのほんの一部分だけ鎧を着ている。武器を携帯していない丸腰の状態だ。報告の通りなら、この人狼種(ワーウルフ)が拠点まで駆け抜けた張本人がこいつだ。


「いつからそこにいた」


 振り向くことなく、ルーク団長が問いかける。

 

「この壁が出来上がる頃には、もう」


 人狼種(ワーウルフ)も律儀に答えると、「そうか」と残し互いに対面した。


「して、自ら敵陣に突っ込むとはなかなかの自信を持っているようじゃが、ここで死ぬ覚悟はできておるのか?」

「それはお互い様です。我々のような別種族からでも貴方はご老体だとお見受けします。残りの命を大事にされてはいかがでしょう」

「何をいっておるのか。儂のような老人がこの場にいるのは技も経験も洗練されとることを意味しておるのだ。ここの連中より遥かに強いぞ」

「ええ、そうでしょう。私も強気に返しましたが、貴方のような熟練の騎士、そうそういません。できれば争いたくないものですが、そうもいかないのです。ですので、取引をしに参りました」

「取引だと?」

「ええ、そうでございます」


 落ち着きのある声だが、裏があるようにしか聞こえない。でなければ、わざわざここに単身で乗り込んでこない。


「貴様、名をなんと申す?」

「申し遅れました、私はキマリス・ベスティ・カルナと申します。シュヴェールト城に君臨する魔王様の側近の一人であり、エヴィニエス騎士団の団長を務めております。以後、お見知り置きを」


 グレン、ルークの両名はキマリスと名乗った人狼種(ワーウルフ)の『魔王の側近』という言葉に衝撃を受けた。同時に彼の実力の底知れなさを覚える。応じる気になかったが取引次第では戦争になりかねないと、魔導暗号を介して団長と相談し話を聞いてから判断することで落ち着いた。


 

 ♦︎



 我々も一言、名を名乗り挨拶を済ませた上で生い茂った森の中、取引が始まった。まず、この争いになるまでに発展した経緯を互いに話すことから始まる。当然ながら意見の食い違いが生じたことで平行線になるかと思いきや、側近からすればあくまで確認をしたかっただけで取引とはあまり関係がないらしい。では、その取引が何なのかとルークが尋ねると、彼は「この紛争について」だと答えた。


「ご存知の通り、魔族と人族の戦争は100年前に勃発し、人族の勝利で収まりました。しかしながら互いの恨みは消えず、現在までもこのように争いが続いている。私は応援に駆けつけただけで、本来この場所は別の騎士団の管轄内。立場上、騎士団同士の借りを作りたくないので、出来る限り穏便に済ませたいのです。そちらも犠牲を増やしたくないでしょう」


 魔王の側近とはよく言ったもので、知能のない魔族の奴らと違ってキマリスというやつは我々のように理性のある人格者が支えているものだとグレンらは感じた。


「条件によっては案を飲んでやっても良い。あとは言わなくてもわかるな?」

「それはありがたい。即刻、立ち除きをお願いしたいのですが……」

「何?離れるのは貴様ら魔族だろう。人の言葉も聞けないのか?」

「何を勘違いされているのかわかりませんが、元よりここは魔族領内です。どちらが争いの種を買ったのかこの際どうでも良いですが、領土を不法に侵入しているのは人族の方ですよ。侵入者を駆除する正当な理由を我々は持っています」

「何を申すかと思えば、正当な理由?虐殺の限りを尽くした種族の言葉からそれが出るとは世も末だな。正しい歴史を知らず立場すらまともに把握できないとは」

「なぜ過去を引きずるのか理解しかねる。当時の栄光ばかり主張して何を得るのでしょう」

「その栄光すら掴むことのできない者たちが吠えとるようじゃが?」

(すが)ることしかできない種族(あなたたち)よりはマシでしょう」


 互いに要求を受け入れさせようと団長とキマリスとやらの舌戦が繰り広げられている中、グレンは見守っている。言葉のぶつかり合いに参加したらば詰められてしまうことを理解しているからだ。彼はまだ若い。二十四でありながら副団長の座に着いている実力者。下手に話せば最悪の事態になることも当然分かっている。だからこそ、団長であり人生の先輩であるルークに委ねているのだ。


 

 ♦︎



「……はぁ。できるなら互いの納得のいくようにしたかったのですが、このままでは無理なようですね」

「当然だ。理解できるわけなかろう」

「外の兵も待っています。これ以上彼らを待たせる訳にもいきません。ですので、こうしましょうか」


 キマリスが席を立つやいなや、背後で構えていた槍兵に向かうと小声で「失礼」と言い、土壁まで吹き飛ばした。何事かと思い目を丸くした。

 キマリスの手にはさっきまで兵が握っていた槍を携えている。グレンはそれを目にしたことで腰の剣を抜いた。


「貴様!何をする!」


 剣先は魔族に向けられている。だが、キマリスは動じない。


「安心してください。しばらく動けないですがこれでも加減しております。数日でもすれば快復するでしょう」

「とぼけるな!兵に牙を向けたな!れっきとした戦闘行為だ!」

「ええ、その通りです。勝敗を決めれば話が早い、そう思いませんか?かつての戦争も同じようにして始まったのですから」

「まさか……また戦争を起こすつもりか!」

「そのような意図はこれっぽっちもありません。もちろん、貴方が望むのなら、話は別ですがね」

「貴様……!」


 グレンは思った。キマリスは話し合いをしたくて侵入したのではない。初めからここで我々を殺そうとして入ってきたのだ。そして、我々に対しての数々の侮辱。死を持って償わせなければならない、と。


「ただ戦うのも面白くないですし、そうですね……少し条件を付けましょう。私は攻撃魔法を使いません。武器も、この槍で十分です。その代わり、一対一で勝敗を決めたいですね。どちらかが戦闘不能になる、もしくは降参を宣言すれば相手の言うように従う……ぐらいでしょうか」


 淡々と進めるキマリスとは対照的にグレンらは苛立ちを覚えていた。魔族とはエスピル様からの教えによって醜い下等生物だと考えている。その生物が今、こうして同じ、もしくはそれ以上の立場でものを言ってくる。彼らにとってこの場は苦痛そのものだ。


「何か加えたいもの、またはいらないものなどありますか?」

「そんなものは要らぬ。貴様の言った条件で行おう。ただし、しっかりと守ってもらうぞ。いいな?」

「ええ、もちろんです。約束いたしましょう」


((良いのですか、ルーク団長。アイツのいいようにされて……))


 ルーク団長が彼の意見そのまま受け入れたことに納得のできなかったグレンが魔導暗号で問いかける。

 

((何、魔王の側近だろうが所詮は人狼種(ワーウルフ)。どうと言うことはない。もし、降参したとてここは壁に覆われておる。奴は袋の鼠、兵を動かせば始末することも可能じゃろ。ここにはいくらでも()()がいるのでな))


「では早速始めたいのですが、私の相手をしてくださるのはどちらでしょう?」

「儂で十分じゃろう。なあ、グレン副団長?」

「ええ、適任かと」

「決まりじゃな。キマリスとやら、お主と戦うのは儂じゃ。せいぜい、死なぬようにな」

「お手柔らかにお願いしますね」


 最高戦力と魔王側近。戦争が終了して百年、これを機に以上ないほど大きな争いに発展してしまうのか、師団一同見守ることしかできなかった。今後の未来は団長にかかっている。だが、団長が負けるなんて一度も想像できなかった。

作者の瑠璃です。

まずは読んでくださりありがとうございます。

この作品はタイトル通り、それぞれの視点で描かれる異世界物語です。魔族サイドのお話もあるのでもしよろしければその作品も読んでいただけると嬉しいです。また不定期投稿なので気長に待っていただければと思います。ブクマ、評価等していただけるとめっちゃ喜びます!!

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