第十三話
屋敷の食堂は無駄に広い。屋敷中の人間を全て集めても半分埋まらない程度には広い。それに加えて無駄に長いテーブルに家族三人しか座らない。前はパーティーをよく開いていたらしいが、俺の出生とともに母が亡くなったので、あまり開かなくなったんだとか。今はもう自画像でしか見られない母だが、昔からそのようなパーティーが好きだったらしい。とまあ、うちの食堂の話はここまで、本編に移ろう。
部屋着姿の父上が食堂に入ってきた。この様子だと風呂も済ませてきたらしい。心なしか生気あふれているように見える。座ったところでいよいよ待ち侘びた料理が運ばれてくる。父上と兄さんの目の前に前菜が置かれる。見たところ生野菜のサラダだった。美味しそうだなって思いながら出てきた料理は、乳白色のスープみたいなもの。ところどころ穀物が入っているように見える。なるほど、病み上がりだからまだしっかりした固形物は食べさせませんよ、って事なのか。と納得したが、それはそれとしてちゃんとした物を食べさせてくれないんだ、とちょっとがっかりした。
夕食に限った話だが、必ず女神エスピルに祈りを捧げる必要がある。簡単にいえば黙想のような物だ。姿勢を正し、目を瞑る。心の中でエスピルに感謝の意を唱えるらしい。明確に言葉は決まっていないので、俺はいつも『ありがとうございます』とだけ言っている。兄さんや父上は結構長く祈ってるので熱心な信者なんだな、なんて遠目で見ている。一通り終わってようやく食事が始まる。俺はまた、心の中で『いただきます』と言ってスプーンで掬ったスープを口に入れた。
俺たちは食事を楽しんだ。父からは王都の土産話を、俺たちは二人の遊びについてや聖堂に行った時の話し損ねた内容などを話した。王都に行ったことのない俺は想像しながら聞いていたがどれもキラキラして見えるようなものばかりだった。
「ああ、そうだ。二人に言わなければいけないことがある」
「なんですか?」
「三日後……シルヴァ・シャーロットがここへ来ることになった」
「え、もしかしてあのヘイデン領のシャーロット公ですか?」
「ああ、それと娘のエリナも来る予定だと聞いている」
シャーロット家、聞いたことがある。確か王都周辺の内陸部に位置する古くから存在する領地、ヘイデン領を収める領主だ。名だけ聞いたことがあるぐらいで、顔は全く知らない。
「父上、シャーロット公はどなたなのでしょうか?」
「そうか、アルヴァは知らないのか。一度会ったはずだが覚えていなくても無理はない。そうだな、シルヴァはエクスの言ったようにヘイデン領の領主で訓練学校時代の同期だったやつだ。途中、怪我で辞めてしまったがな」
「確か、その頃の訓練学校は根拠のない危険な訓練法で怪我人が多く、出て行く人が多かったと聞きましたがそのうちの一人なんですか?」
「そうだな。あれは本当に酷かった……というか、よくそれを知ってるな」
「実は……たまにルーク師団長が手合わせしてくださるんですよ。その時に昔の話をして下さる機会がありまして」
「ルークが?」
「父上の息子だから、というのもあるんでしょうけど」
「無口で人に世話を焼かないようなやつだったんだが……そうか。いいことを聞いた」
父はフッと笑う。かつてのライバルを懐かしんでいるようだった。
「話を戻そう。三日後、シャーロット家を招き食事会を開く。そこで世間話など済ませた後、俺とシルヴァの二人で会合する予定だ。その間、二人には彼の娘、エリナをもてなしてもらいたい」
「エリナ様の歳はいくつでしょうか」
「アルヴァと同い年だ。方法は二人に任せる。必要に応じて執事らに一言伝えるなどしてくれ」
「たとえば、外出する……といったことでもいいのですか?」
「ああ、問題ないぞ。馬車も好きに使ってくれ」
「……了解しました。必ずや、父の期待に添えられるよう努めてまいります」
「ああ、期待しているぞ」
残った料理も片付け、食堂を後にした。兄さんは俺の部屋に入ってくるなりもてなすための作戦を話し合い、そして決行する日がやってきた。
作者の瑠璃です。
まずは読んでくださりありがとうございます。
この作品はタイトル通り、それぞれの視点で描かれる異世界物語です。魔族サイドのお話もあるのでもしよろしければその作品も読んでいただけると嬉しいです。また不定期投稿なので気長に待っていただければと思います。ブクマ、評価等していただけるとめっちゃ喜びます!!




