第九話
エスピルは俺の頭に手をかざした。ふわっと触れたような気がする。ほんのり頭頂部が温かくなると、それが全身に流れるように広がっていった。この感覚を俺は覚えている。兄さんに無理やり魔力回路を開けさせられた時から感じている魔素の流れだ。
「あなたの適性は水と土属性ですね」
エスピルの手が頭から離れたので顔を見上げる。もっと時間がかかると思ってたけれど意外とすぐに終わってしまった。
水と土…と言ったか。確か兄さんは土に適性があるって言ってたっけ。で、姉さんは火と水だったな。
「お兄様は火属性と土属性に適性がありましたね。でしたら師事されてみてはいかがでしょう」
兄さんに…でも兄さん下手だって言ってたような…
「兄さんは下手って言ってた気がするけど…」
「そんなこと言ってましたか…。比べる対象が悪いだけで実力はありますよ。私が保証します」
「それって姉さんのこと?」
「そうですね…お姉様は私が見てきた中で5本の指に入るぐらいにはあると思います。第二師団団長の名は伊達ではないですね」
「そこまでなんだ…姉さんって」
物心ついた時からほとんど会っていないノエル姉さん(グレン兄さんもそうだけど…)、肩書きだけしか知らなかったけど、神様から見ても実力あるんだ。知らなかった。それなら兄さんの比較対象が良くない。
「じゃあ兄さんに教えてもらうことにするかな。よく遊んでるし、そのついでにやってもらうことにするよ」
あとは兄さんのやる気次第だけど…そこはなんとかするか…
「ええ、頑張ってくださいね。応援してます」
エスピルは微笑みをこぼした。
「契約もこれで終了です。元の場所に戻しましょう。あ、最後にこれだけ…」
一度咳払いする。エスピルの目つきが変わった。さっきまで(今考えると失礼だが)フレンドリーに接していたせいで、より女神として慈愛の心を持つ優しい目をしている。
「私は貴方をいつも見ています。辛いこともあるでしょうけど、必ず成し遂げると信じています」
その声を最後に、視界がフェードアウトしていった。
◆
ふと気がつくと、あの小さな女神エスピル像の前にいた。照らしていた光はいつの間にか消え、隙間から赤い空が見える。どうやら夕刻のようだ。微かに星が見える。儀式は無事終えられたみたい。ひとまず安堵した。
「…寒」
唖然として風が吹き込んでくる。この時間になると空洞であることも相まって冷え込んでくる。意識していなかっただけでこの場所に長時間滞在していたものだから、体はキンキンだ。風が肌を斬りつける。このままでは凍え死んでしまう。急いで戻らねば…!
作者の瑠璃です。
まずは読んでくださりありがとうございます。
この作品はタイトル通り、それぞれの視点で描かれる異世界物語です。魔族サイドのお話もあるのでもしよろしければその作品も読んでいただけると嬉しいです。また不定期投稿なので気長に待っていただければと思います。ブクマ、評価等していただけるとめっちゃ喜びます!!