一枚目 チェンジ②
「水時!水時!クソッ、通信が途切れてる...」
とりあえず緊急命令の通り、風神は本部へ向かった。風神の胸がざわつく。今までかつて、本部を狙うなんていった明確な意思をもつディザードはいなかったからだ。
ディザードはただ現れて周りの人を襲ったり、建物を壊す程度のことしかしていない。もしこんな理性をもつディザードがいるとすれば、それは...。
「何だよ、これは...」
風神の目の前にあるのは荒廃した街だった。委員会本部だけでなく、周辺の建物は崩れ、所々で火が上がっている。まるで、大災害にあった後のようであった。
「ヴァァ!!」
「こいつがやったのか?いや、そうは思えないが...。とりあえず戦闘態勢に」
襲ってくるディザードの攻撃を避けてチェンジカードを取り出す。
「いくぞ、『リリース』!」
「ガ、ヴガァ!」
「トドメだ!」
「ガガァ!」
しばらく一対一の戦闘が続き、ようやく決着が着いた。
「はぁ、はぁ。流石に一対一はキツいな。でも、これでなんとか...」
「ザ、ザザ、風、神、聞こえるか、風神」
「水時か!そっちは無事か!?」
「な、んとか。私は大、丈夫だ。風神、今回襲撃したディ、ザードは、お前が今、倒した奴とは違、う。まだ親玉、がいるんだ。」
「親玉?」
「そうだ。そ、いつは」
「この私のことかな?」
水時との通話中、突如恐怖を感じた。今までに感じたことのないほど強い恐怖。振り返るとそこには、黒く禍々しいフォルムのディザードが立っていた。
「...。親玉の方から来てくれるなんてな。探す暇が省けたよ」
「ほぉ、大した度胸だ。ついさっき片付けていた雑魚共よりは少し優秀そうだ」
周囲を見渡すと、言葉の通り仲間たちが力なく倒れている。その余裕そうな態度や全てを見下すような目線が、風神の恐怖をさらに掻き立てた。
(あの風神が、怖気づいている…?)
委員会に所属してから風神はディザードと何回も戦ってきた。しかし、風神は初陣ですら物怖じせず戦っていた。そんな彼が今、呼吸を乱しているのが無線越しでも聞こえる。それほどまでに目の前にいるディザードは段違いなのだと水時は感じた。
「私も、動かなきゃ」
「さぁ、君の方から先にきたまえ。」
「言われなくてもそうするさ!」
風神の本気の一撃が打ち込まれる。
しかし、
「うーむ。少しは期待していたのだがね。所詮はこの程度、か。」
「嘘、だろ、効いてないなんて」
まるで攻撃を受けていなかったかのように、黒いディザードの体には傷一つ付いていなかった。
「残念だよ。失望した」
黒いディザードの拳が風神に当たり、体が飛ばされる。そう思ったのも束の間、回し蹴りが炸裂する。
そして同時に戦闘形態から解除されてしまった。
「はぁ、がはっ」
「このあたりじゃ多分君が最後の生き残りかな?やっと片付いたよ」
「何が、目的だ。お前たちディザードは、何が目的で動いている?」
「我々ディザードは元は人間。本能に従っているに過ぎない。人間である限り、生きる上での不安を消すため、より強い力、より丈夫な体、より賢い頭脳を求める」
「冗談きついな。今まで見たディザードにそんな特性なんてなかった。ただ破壊衝動に駆られたガラクタの間違いなんじゃないか」
「それは君たちが体になじむ前の同士を倒してしまうからではないか。ディザードは力を使えば使うほどカードが体に適合していく。そうすれば、もっと利口で私のような存在になれる」
「だから、邪魔になる委員会を襲ったってわけか」
「お、その通りだ。物わかりのいい奴で助かる」
「ふざけるな!そんな計画のために多くの人を犠牲にしたのか!」
「ザザ、ザ、ザザ、風神!」
「水時!」
「今、あなたのカードホルダーに新しいカードを転送する。そのカードを使って!」
言葉通りカードホルダーには、見たことのないカードが一枚入っていた。風神に迷いはなかった。今目の前にいる憎き敵を倒すためにはこれしかない。そう思うと、自然と勇気が湧いてくる。
「許さないぞ、ポンコツ」
カードを装置にスワイプさせる。
『リリース』
すると、カードから模様が映し出された。模様は次第に風神に重なり、スーツが装着される。全身に装着された次の瞬間、純白で、中世の鎧のような装備が身についていた。
「なんだぁ、その姿は」
「俺はもう、お前たちの思い通りにはさせない。行くぞ!」