1544年(天文13年)3月中旬、両陣営の思惑、主導権を握るのは?
さて、滝山城辺りと平林寺城辺りに動きがあるのか?
北条氏康の軍勢が動きを見せるのか?
■数日前、13日の府中城、立花義秀、鹿島政家
地図を広げて思考する二人…
上野山内上杉憲政の軍勢が瑞穂方面から二宮城、高月城、滝山城に進出する頃です。
松千代がお気に入り美人侍女4名を引き連れてやって来ました。
警護の兵士に、「お爺ぃどこぉ?」
直ぐに通されます。
美女達が通ると警護する兵士達の目の保養になりました。
「お爺ぃー!」
走り出す松千代を抱き締める義秀。
「元気にしとるかぁー?」
声をかけながら美女達の姿に目が虚ろになっています。
堅物かな?と思ってた鹿島政家も視線が美女達に釘付けになっています。
「お爺ぃー!夢に大國魂神社の大神様がねぇ、教えてくれたの!
北条氏康がー?動くぅー!
紙芝居で悪口広めたから北条氏康がねぇ、おこってるよ!
横浜湊に六浦湊があぶなーい!
北条氏康が来るよ!あぶないよ!」
「でぇー!!」
義秀、鹿島政家が叫びました。
「あーっ!?手薄だー!拙いぞ!」
立花家が所有する横浜湊、六浦湊は立花家と北条家の国境に近く、周辺の防備を特に意識してませんでした。
最近締結した協定で、岩槻太田家、江戸太田家、世田谷吉良家と立花家の兵士が協力して警護していますが、北条氏康の軍勢が攻めて来たらかなり厳しい状況です。
「だいじょーぶ!六郷湊、南六郷湊の兵士と、吉良家のおじさまの領地の辺りから兵士たちを連れてくればいーじゃん?」
「あっ?それだ!それが良いぞ!」
義秀が叫びました。
「なるほど!」
鹿島政家が唸りました。
「品川湊が古河公方の脅威から逃れた今なら護衛に配置していた六郷、南六郷の兵士が余る状態だ!
世田谷吉良家が古河公方寄りの外交で、敵対してた頃から配置してた城が多摩川対岸にある!
井田城、鹿島田城、さらに鶴見城から兵士を引き抜けるぞ!」
義秀が拳を握りしめて打開策が浮かびました。
「殿!集めた兵士を小机城の楢島正臣に預けて、長津田城、岡津城に連携したら6000名が集まります!楢島に任せて、長津田城と岡津城の周辺を立花家の菊の紋章の軍旗だらけにしましょう。
北条氏康に断念させます!」
鹿島政家が力強く提案しました。
「まだ、あるよー!
町田からねぇー、八王子もーあるよー!」
松千代が指摘しました。
義秀、鹿島政家も唸りました。
紙芝居を利用した宣伝を広げて、大石家と立花家の婚儀を邪魔する悪者に仕立てたから、評判気にして北条氏康が出て来ない筈と思い込み、油断がありました。
紙芝居の大袈裟な誹謗中傷に北条氏康が怒る事がわかってませんでした。
「殿!松千代様に立花家が救われました」
「そうだな、松千代の夢に大神様がいらっしゃった!またもや松千代と大神様に助けられた!
大神様に感謝せねばならんな!」
義秀も唸りながら松千代を抱き寄せて頭を撫でました。
「殿!、小田原からの視点なら、町田方面は小山田城、小野路城、成瀬城辺りを押さえるか、攻略して補給路、退路を確保して府中を目指します!
こちらは、多摩川沿いの大丸城(稲城)、小沢城(川崎)、枡形山城(川崎)、と王禅寺城(川崎)の兵士を鶴川城の山口頼継に託して軍勢は3000名程になります!
彼に任せて小野路城、(町田)成瀬城(町田)と連携して背後の山側の鎌倉街道を押さえます。地形的に不利な場所を強硬突破するなど、北条氏康でも簡単ではありません!」
「そうだな…」
「さらに、小野路城から1里弱(3キロ)ほど東の小山田城には小山田信盛勢4000名が北条対策で常駐しています。
周辺の地理に強く、多数の砦が配置され、小野路周辺から小山田城周辺の道筋に多数の柵を設置しています。
間道も把握して多数のワナが仕掛けてあります。
小山田勢4000名が町田から相原、橋本方面も援護可能です!」
「ほぉ、そうだな!」
「殿、八王子方面に北条氏康が来るならば、津久井、橋本辺りから相原城を攻略してから進みます。
相原城の西側から先に進むと高尾山手前の湯殿山城には町田街道の両側に砦があり、関門を数ヶ所設置しています。これを封鎖すれば、北条軍は通過出来ません!」
「うむ!なるほど!」
「さらに東から先に進むと片倉城に宿老、瀬沼寿勝の3000名が配置されています。
これに日野城、平山城、高幡城、百草城から兵士2000名を集めて片倉に送ります。
瀬沼寿勝に5000名を与えて片倉城周辺から相原城を支えます。
山側を押さえてる我らが有利です!
これで、北条氏康がどちらから来ても簡単に突破出来ません!」
「解った!政家の策で良いだろう!
松千代良いかな?」
「お爺ぃー!だいじょーぶ!
まさいえおじさん!すごーい!あたまいいー!」
松千代にだいじょーぶ!と言われて安心する二人でありました。
思い込みって怖いです。
立花家は即、配置を再編しました。
配置代えは4日間で完了、立花義秀、鹿島政家、手痛いミスからの修正が見事に決まりました。
ー3月18日早朝、平林寺城付近ー
ー扇谷上杉家、上杉朝定、長尾信忠ー
小田原の北条氏康から使者が現れました。
上杉朝定に朗報がもたらされます。
「何?本当なのか?
北条氏康殿が、小田原から出陣!
本日は座間城に到着するのか?
北条綱成勢5000名が津久井、橋本から相原城を目指して進軍中?凄い事になってきたぞ!」
使者から更なる状況が知らされます。
「相原城を攻略したら八王子城を攻略して滝山城攻めを支援するのか?
府中城を目指すのか?」
「はい、状況次第ですが、府中城へ向かう可能性が高いと思われます!」
「それで、座間の北条氏康軍はどれくらいの兵力なのか?」
「総勢12000名に御座います!」
「ほぉ、かなり集まったなぁ?」
「はい、町田方面の小山田城、小野路城、成瀬城、いずれかを攻略して鎌倉街道を攻め上がり、府中城を攻めると主君からの伝言にございます!」
「おぉ!我らも協力するぞ!
氏康殿の考えはあるのか?」
「はい、ご協力頂けるなら、上杉家の練馬城と石神井城の兵力を囮に久我山城を牽制して頂ければ有り難いのですが?」
「久我山城に牽制だけで良いなら、信忠?」
「殿!やりましょう!800名程が集まります!
石神井城から久我山城まで、1里弱(2キロ)です!」
地図が広げられ、周囲の状況を検討します。
上杉朝定、長尾信忠、使者と共に考えます。
「練馬城方面に南東から回り込む?
ここから3里弱(10キロ)?だけど、石神井城から半里(2キロ)だな?」
「殿!後方に石神井城、練馬城があるから補給がしやすくなります。
平林寺から東南の道筋なら幅が広く移動に便利です!
殿、平林寺城の囲みを解いて、川越城からの補給路を確保する為、2000名をこの本陣に残します!」
「良し、これで補給路は固まるな?
それからはどうする?」
「はい、練馬城と石神井城の兵力から800名を久我山城付近に展開して敵を牽制します!
我が軍主力部隊10000名は南東方面に移動して、練馬城を経由して半里(2キロ)先の東伏見城を攻撃します!」
「わかった!面白そうだな!」
「では、使者殿、見返りに頂くなら立花家の領地北半分、東伏見城周辺から平林寺城、清瀬城、八国山城、山口城、宮寺城、箱根ケ崎城、これに付随する領地全て頂けるならやりましょう!」
長尾信忠の提案に使者が頷きます。
「どうぞ、その通りに致しましょう!
立花家の領地の北側を好きなだけ確保なされませ!
北条家は南側を頂きます!」
北条家の使者はあっさり要求を承認しました。
「それは有り難し!承知頂けるなら直ぐに書面に書き記し、署名いたしましょう!」
書面に約束事が記され、互いに署名が終わり、北条家と、扇谷上杉家の協定が成立しました。
北条氏康の軍勢が立花家の領地の南側を攻略するには楽観出来ない状況にありましたが、如何にも優勢に戦ってる様に装い、扇谷上杉家を出来る限り立花家領内深くに導く必要がありました。
3月18日、早朝から平林寺の上杉朝定の軍勢は補給部隊2000名を残し、練馬城、石神井城方面に移動しました。
―3月18日早朝―
北条綱成勢3000名は立花領の相原城の南1キロ、小松城付近に布陣して、北条家の軍旗を多数掲げています。この辺りに5000名の軍勢が配置されているが如く偽装してます。
―3月18日早朝、座間城―
―北条氏康、側近―
早馬からの知らせが入ります。
立花家に動きがありました。
「何ぃー!六浦湊も、横浜湊も警備厳重になってるだとぉー?
湊を守る久良岐城、蒔田城、横浜城に護衛部隊増えてるー!?」
「はい、敵に動きがございます!」
更に早馬からの知らせが入りました。
「なんだと?長津田城と岡津城の背後に4000名以上の軍勢が布陣してる?
2日前なら手薄だったじゃないか?
いつの間に編成したんだ?
久良岐城、蒔田城、横浜城を攻略したら、小机城、長津田城、岡津城の連携が崩れ、全域北条家の物に出来たのに!」
「殿、落ち着いて探れば必ず立花家にも手薄な地域がある筈です!」
「おぉ、そうだな、成瀬城、小野路城、小山田城の何処か落として、府中を目指す!」
北条氏康の軍勢が移動を開始しました。
―3月18日正午頃―
―北条氏康、側近―
矢部、淵野辺周辺に北条氏康主力軍10000名が布陣しました。
偵察部隊から次々に報告が入ります。
「何だと?!、小山田城、小野路城、成瀬城にびっしり軍勢が居るだと?
2日前は小野路から成瀬は手薄だったぞ…
それなら、相原の綱成から報告きてるか?」
更に嫌な報告が入ります。
「何ぃ!相原城の背後の片倉城辺りから軍勢びっしり居るだと??
2日前まで手薄だったぞ!なぜだ?」
「殿、立花家には予備役の兵力が多数存在すると聞いた事がございます。数千から万単位とも噂がございます!」
暫し茫然自失の北条氏康…
「万単位の予備役だと?
信じられん!多すぎるだろうが!…」
立花家が小山田城から小机城の間に分散して13000名の遊軍が展開してる事を把握していません。
さらに片倉城辺りに5000名が待ち構えていますが、北条氏康には把握仕切れない状況になりました。
どーする氏康?
立花家の救世主松千代がピンチに気がつきました。
急ぎの編成が間に合いました。
先手を取る積もりだった北条氏康が後手になったみたいです。
史実では希代の名将ですが、このままの流れでは難しい状況かもしれません。
北条氏康と、扇谷上杉朝定が手を結びました。
これが何になるか?
波及効果は?




