1545年(天文14年)12月上旬、立花軍始動、天神山には別動隊が進軍、本隊は鉢形城へ向かいます。
松千代が秩父今宮神社の神様に大石盛将を引き合わせました。
大好きな人を神様の力を借りて助けます。
1545年(天文14年)12月上旬
─秩父、出陣前日、大石盛将─
大石盛将が天神山城を牽制するために出陣する前日でした。
「盛将兄さまぁー!」
朝から松千代と、ご老公様に呼び出され、秩父神社近くの秩父今宮神社に向かいました。
大石盛将は八王子城主、泥酔軍師、立花将広の次男です。2年前に滝山大石家の養子に入り大石家を継ぎました。
立花家が借りている本営から約1キロ、護衛を率いて騎馬で向かいました。
今宮神社の宮司に挨拶すると宮司自身が案内して戴きました。欅の御神木、龍神池から震える程の気を感じながら本殿にお参りしました。すると曇り空から光がさして上空に龍神様が現れました。背後にはイザナギ、イザナミの神様が微笑みます。龍神の八大龍王様が微笑みを浮かべます。
松千代が「神様ありがとうございまーす!盛将兄様をお願いしまーす!」
と神様と会話してる様でした。
盛将にもご老公様にも見えています。
宮司も驚き、控えてる護衛の兵士や神職達や側に居合わせた秩父の民にも見えました。
手を合わせて拝礼すると神様は笑顔を見せて光の中に消えました。
一同は手を合わせて拝礼しました。
「盛将兄さま、龍神さまが守るから大丈夫だよ!」
「松千代、神様に逢わせるために呼んでくれたのか?」と聞く盛将。
「兄さまが大好きだから、神様にあわせたかったんだよ!」
「そうか、ありがとう!松千代!初めて神様に逢えたぞ!」
「お爺さま、お爺さまが松千代を秩父につれてきてくれたから神様にあえました。お爺さま大好きぃー!」
松千代の言葉と笑顔にご老公様は満足な笑みを浮かべて喜ばれました。
素晴らしき爺様転がしの天才です。
出陣を控えた盛将を案じてご老公様を連れて安全祈願に誘う高等手段で神様の加護を獲得しました。
─長瀞方面─
早朝、秩父から出陣した大石盛将は天神山城から4キロ地点に到着しました。
盛将率いる軍勢は3000、敵側の状況は不明です。藤田家の案内人の天神山城の情報は本丸周辺に3ヵ所の曲輪と隠し砦があり、敵対してから半年経過してるから改修されている可能性があり、油断出来ないと話します。
斥候部隊を派遣して状況を探りました。
─前橋上杉家援軍寄居陣地─
前橋上杉家を指揮する長尾憲長は鉢形城の援軍に弟、長尾秀長に5000を任せました。
秀長は副将の長尾憲景に1000を与え、天神山城の援軍に差し向けました。
長尾憲景は白井長尾一族で失脚した宿老、長野業政の娘婿で同じ長尾一族の中でも危機に瀕していました。
権力者の長尾憲長に働きが悪ければ粛清すると脅されて崖っぷちの状況です。
なんとか手柄を立てたいと必死の状態でした。
大石盛将の斥候部隊100が天神山城近くの街道筋で長尾憲景の警戒部隊300と衝突しました。3倍の数的有利な長尾勢が斥候部隊を追い立てます。斥候部隊の兵士が馬に乗り、後方の部隊に危機を知らせました。
盛将は騎馬200を先行させて救援に向かいました。斥候部隊は包囲されていましたが救援の騎馬隊が間に合い、弓を連射して斥候部隊の逃げ道を確保しました。
長尾勢はさらに後方から増援部隊200を繰りだします。長尾勢がやや優位に戦い始めた頃に盛将の軍勢が次々到着します。
街道筋からやがて戦場は荒川の河川敷に移りました。長尾勢は次々兵力を投入します。
やがて戦場には長尾勢は総勢1000、大石勢は3000が続々到着します。
長尾勢は3倍の大石勢を見ると後退を始めました。引きながら叩き、引きながら叩きを繰り返し、損害を最小限に抑えながら退却しました。
盛将は深追いせず、部隊を纏め長瀞の入り口付近まで戻り、待避しました。
日没が迫り荒川から少し離れた平地に布陣しました。荒川の近くに布陣した場合、川の音に紛れて夜襲されるのを防ぐ為でした。
さらに3ヵ所に分散して布陣して夜襲を警戒しました。
大石盛将に与えられた任務は2日間天神山城を牽制する役目です。
後1日天神山城を牽制します。
盛将は夜警担当の兵士に交代で仮眠させました。全体の兵士はしっかり眠りますが、夜警担当の兵士を2組に分けます。4時間仮眠した組が朝まで警戒します。4時間夜警に勤務したら寝るだけです。最低限の睡眠は確保されます。
盛将は松千代が秩父今宮神社に連れ出したのは危険があったからだと直感しました。
盛将は護衛の兵士に4時間仮眠したら起こす様に頼み、仮眠を取りました。
12月のこの時期は16時半に日没、朝は6時半に日の出になります。
盛将は深夜零時頃に起こされました。
月明かりで夜襲に向いてる状況です。
これは危ないと感じました。
夜警の兵士に命じて全軍を静かに起床させました。次に篝火を出来るだけ増やして明るくさせました。夜襲に警戒します。
三つに別れた陣地のどこ狙うのか?
来るか?来ないか?不明ですが、明らかに夜襲を警戒して陣地が明るく照らされました。
上杉軍の長尾憲景は夜襲を狙っていました。
月明かりを利用して大石勢の陣地に接近していました。大石勢が夜襲を警戒して篝火を増やして明るい状況です。3ヵ所の陣地のどこに盛将が居るのか?
明かりを逆手に盛将の陣地を探し、盛将一人に狙いを定めました。
潜入した忍びが盛将の所在を突き止めました。まだ夜が開けぬ月明かりを頼りに長尾勢は兵力を集結しました。狙いを定め左右の部隊を囮に最後に中央から決死の部隊が突入します。
狙うは敵の大将、大石盛将只一人!
大石勢の本陣は1000、奇襲する長尾勢も1000、短時間に攻め切れば勝てますが、大石勢2000が近くに布陣しています。
時間との戦いになりました。
空の端が少し赤みを示す頃、配置に付いた部隊が静かに隊列を整えて前進します。
接近に気が付いた大石勢は太鼓を叩き、夜襲を知らせます。
左から300、右から300の囮部隊が大石盛将の陣地に向かいます。隊列を組んで前進します。大石勢は接近する長尾勢に弓の連射を浴びせます。長尾勢は左からさらに左斜めに前進します。右手側の軍勢もさらに右斜めに前進します。弓の連射に苦しみながら前進します。長尾勢は夜襲する為長槍を持たず、短槍と弓で戦います。弓同士の戦いは大石勢の連射に苦しみ、接近すると長槍と短槍では長槍に圧倒されます。長尾勢は苦戦します。
やがて中央が手薄になり、頃合いを計り最後に長尾憲景の400が中央から接近します。
長尾憲景の目の前に大石盛将が見えています。盛将を守る手勢は200、左右の長尾勢に引きずられ、盛将の周りが手薄になっていました。
長尾憲長の本隊が足早に接近しました。
盛将は弓隊を前に出して連射で前進する長尾憲景の本隊を攻撃します。長槍部隊が連射を突破した部隊の頭を叩いて潰します。
長尾憲景は50名の短槍部隊を密集させて一角を突破して盛将の近くに迫ります。
盛将から30メートルに接近出来たのは10名、盛将を守る20名が盛将を囲み壁になりました。短槍持つ10名は更に接近すると手前15メートルから短槍を盛将目掛けて投げました。この時、一斉に投げたら命中したか知れません。次々に投げる短槍は長槍に叩き落とされ、盾に弾かれ命中しません。太刀を抜いた10名は長槍に叩き潰されました。
7名が絶命、3名に息が有りました。
3名の中に天神山城の援軍の主将長尾憲景の姿がありました。
その時、近くの大石勢が援軍に現れました。
盛将は長尾勢に停戦を呼び掛けました。
このまま攻めたら一方的な殺戮になります。
重傷の長尾憲景を引き取り、天神山城へ待避する事を求めました。
長尾勢は停戦を受け入れ、長尾憲景を受け取り、天神山城へ向かいました。
大石盛将と側近達は危機一発、あと一つ運命の歯車が違えばこの戦いに敗れていたと感じました。昨日、松千代に秩父今宮神社に連れ出され、神様に出逢わなければどーなっていたか?昨日同行した護衛の兵士達にも不思議な感覚がありました。
盛将が叫びます。
「勝鬨をあげるぞ!」
エイエイ!おぉーぉー!
エイエイ!おぉーぉー!
エイエイ!おぉーぉー!
エイエイ!おぉーぉー!
早朝の長瀞の戦いの勝利は2時間後には秩父の街に知らされ、大いに湧きました。
さて、立花義秀の本隊27000は昨日は東秩父の山中に滞陣して早朝から鉢形城に向かいました。
先鋒部隊が鉢形城の近くを通過、午前11時頃、鉢形城の東3キロ地点に布陣しました。
本隊は続々鉢形城の目の前を堂々軍旗を掲げ太鼓を響かせて通過します。
エイトウエイ!エイトウエイ!
エイトウエイ!エイトウエイ!
エイトウエイ!エイトウエイ!
エイトウエイ!エイトウエイ!
威圧しながら東へ向かいます。
夕方16時頃、鉢形城の東3キロに立花軍本隊27000が揃いました。
翌早朝は朝の祝詞、君が代斉唱、応援歌の儀式を行いました。27000の軍勢が幾つかの軍勢に別れ、周囲に声を張上げて響かせました。鉢形城の斥候部隊が27000の軍の声を聞き、驚きのまま、鉢形城に情報を持ち帰ります。
城兵に不安が募りました。
やがて立花軍が城に接近します。
城から1キロ付近に迫ります。
エイトウエイ!エイトウエイ!
エイトウエイ!エイトウエイ!
エイトウエイ!エイトウエイ!
エイトウエイ!エイトウエイ!
威嚇の声を挙げます。
やがて鉢形城に立花義秀から藤田友綱宛てに立花家から使者が訪れました。
使者は立花義秀から託された書状を読み上げます。
「藤田家の本家相続について、関東管領、前橋上杉家の家督相続の判断が正しいと思うなら
その判断に見合う働きを藤田本家の家臣、領民に示す事を望む。」
「但し、藤田友綱殿が相続した事に納得し得ない分家の藤田重綱、藤田康邦、分家の家臣、秩父の民、さらに立花家、及び府中の近衛中将府の同盟大名家の多数が納得していないとを承知されよ。」
「立花家と秩父藤田家は秩父の神々に委託されて秩父の街と民をを守る事を決めた故、秩父の神々に背くなかれ!藤田友綱殿は秩父の神々の意志に抗わぬ事を切に望む!」
「立花家と府中、近衛中将府の同盟大名家は鉢形藤田家を監察する、万が一秩父の神々の意志に添わぬ様子ならば朝廷の綸旨に従い、来年の12月迄に必ず罰を下すと心得よ!
この条文を近隣に公開する事を通告する。」
使者が読み上げる通告の圧力に藤田友綱は怯えてしまい、代わりに宿老、児玉勝長が不機嫌な顔付きで対応します。
「なんと一方的な話しでござるな?
家督相続は上杉家の常識に基づき公正な裁定である!他人が口出す事では無い!近衛中将府?なんじゃそりゃ?早々と立ち去るが良いわ!」
「それでは来年逢える様ですな?」
と立花家の使者は鉢形城を去りました。
エイトウエイ!エイトウエイ!
エイトウエイ!エイトウエイ!
エイトウエイ!エイトウエイ!
エイトウエイ!エイトウエイ!
立花軍は鉢形城に向けて声を挙げました。
最後の威嚇の声を響かせて鉢形城を離れます。鉢形藤田家に来年襲来すると脅しを残して府中に向かいました。
大石盛将、また少し、経験を積みました。
松千代と神様に守られたと理解しました。
秩父の街に凱旋すると秩父今宮神社に直行、神様にお参りして感謝の気持ちを伝えました。




