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6 久しぶりのお茶会! なんだけど……

「あら」


 届いていた手紙を確かめていると、茶会への誘いのものがあった。それも幼い頃からの付き合いの、ベティーナからだった。

 ベティーナも、私のことを心配して手紙を送ってくれていた友人の一人。そのベティーナと、同じく親しい間柄の友人二人と合わせての四人で、小さな茶会を開かないかと、そういう誘いだった。


「……行きたいけど……あの人に承諾を貰わないといけないし……」


 さて、どうするか。と、ついさっきまで手に持っていた手紙が目に入る。


「あ、そっか」


 で、夫に手紙で仔細を伝え、承諾を得た。

 よし。これでみんなに会える。

 私は茶会の日を楽しみに、日々を過ごした。

 そして、茶会への前日。一騒動があった。一騒動というか、侍女達の合戦というか。


「奥様にはこっちのオレンジを基調にしたものがいいと、私は思います先輩!」

「いえ、その型のドレスでは大人っぽすぎるわ。こっちのクリーム色と薄いピンクのものがいいと私は思うのだけれど」

「私の意見も聞いてください。今の季節、涼しげなこの薄い青のドレスも、奥様に絶対似合います」

「みんな、あの、落ち着いて?」


 私のことを考えてくれるのは嬉しいけど、そんなに熱くならなくても。


「「「奥様はどれがいいと思いますか?!」」」

「え、えーと……」


 迫力がすごい。


「これらはどれも旦那様が奥様のお母様、クリスタ様から話をお伺いになって、誂えたものなのです」


 ちょっと、特に今いらない情報を入れないでくれるかしら。というかあの人、そんなことまでしていたの。


「えーと、では、青いドレスにしようかしら」


 すると、青いドレスを持っていた侍女が勝ち誇った顔をして、選ばれなかった二人は肩を落とした。


「他が駄目という訳では無いのよ。どれも本当に私好みだし。だから、その二つは次の時に、ね?」

「「奥様……!」」


 ……次がいつになるか分からないけど。まあ、そこは深掘りしないほうが良いでしょうね。

 そして、その合戦の翌日。つまり、茶会の日。

 私はベティーナの家の庭で、ベティーナ、カミラ、エリーゼと久しぶりに会えたことに少しの感動を覚えていた。

 なにせ、外界との接点を絶たれての三ヶ月ぶりだ。気分は三年くらいにまでなっている。そしてこの三ヶ月の間に、社交界には激震が走っていたことを知った。

 その激震の元は、夫であるアルトゥール。


「もー、リリアも公爵夫人なのよねぇ……」

「そうは言っても、まだそれらしいことは何もしていないのだけれどね」

「でも、どの茶会でも夜会でも、あなた達の噂で持ち切りよ! 特にバウムガルテン公爵様! あの呪いを絶ち切って、真実の愛を手にしたって、もう劇にでもなりそうな勢いよ!」

「劇」

「ええ!」


 ……その劇は、相当脚色されるのだろうな、と想像できた。


「というか三人とも、旦那様の呪いについて知っていたのね」

「え? そりゃあ、……ああ、あなたは知ったらまずいから、周りが教えなかったのね」


 カミラが言う。それにうんうんと頷いたベティーナが、


「あのね、リリア。これは慣習みたいなものだと母が言っていたわ。王家主催の夜会の日、バウムガルテン様はいつもご出席なさるでしょう?」

「そうらしいわね」


 私が応えると、今度はエリーゼが口を開く。


「で、あなたが一番間近で見ているだろうから分かると思うけれど、バウムガルテン様、とっても容姿が整っているでしょう?」

「……あ、ああ、そうね」


 ここのところ顔を合わせていないし、その前には百面相を見る羽目になってしまったので、頭からすっぽりと抜けていた。そうだった。私の夫は容姿端麗で、超がつくほどのイケメンだったっけ。


「だけれど、不幸にも呪われていらっしゃった」


 と、ベティーナ。


「デビュタントから家に帰ると、母親が娘に聞くんですって。気になる人はいたかしらって」


 続けて、エリーゼ。


「それで、大体の女の子が、バウムガルテン様のことを口にするのよ! そこで、あの方の呪いの話を娘に聞かせるの。娘を諦めさせるために」


 カミラがそう言って、三人で合わせたようにほぅ、と息を吐いた。


「でも、私達のデビュタントのあの日は、珍しく早々に帰られたと聞いたの。リリア、あなた、公爵様の目に留まったのよね?」

「え、ええ……そうだと言っていたけれど……」

「いつも公爵としての務めを果たすあの方にしては珍しいって、お父様も言っていたわ。けど」

「それも、今にして思えば、あなたに姿を見られたくなかったからなんでしょうねぇ……愛ね」

「愛だわ」

「紛れもない愛よ」

「ちょ、ちょっと待ってよ」


 三人だけで盛り上がらないで?


「でも、あなた達も旦那様の姿を見ていなかったのに、呪いの話を聞いたんでしょう? なのに、私は母から何も言われなかったわ……どうして……」

「母としての勘じゃないかしら」

「勘」

「ええ。デビュタントの少女につく女性は、みんなバウムガルテンさまの呪いのことを知っている。だから大事が起こらないように、いつも周りに気を配っているのだと言ってたわ」


 エリーゼはそう言い、身を乗り出す。


「で、ここからは私の想像なんだけれど。リリアに目を奪われたバウムガルテン様を、リリアのお母様は見ていた。そして即座に気付いたのよ」

「な、何に」

「バウムガルテン様の気持ちに。だから呪いのことを話さなかった。もし自分の娘をあの方が見初めてしまっていたら、呪いの話をした時点であなたは死んでしまうから」

「……なる、ほど?」


 ……帰ったら、母に手紙で尋ねてみよう。


「で、リリア。ここからの話は特に真剣に聞いてほしいんだけど」


 三人共が居住まいを正し、真剣な表情をするものだから、私はこれから何を言われるのかと少し不安になった。


「バウムガルテン様がね」

「夜会や茶会に誘われまくってるらしいわ」

「……はぁ」


 話がつかめず、私は間抜けな声を出してしまう。


「リリア! これは由々しき問題なのよ?!」

「分かってる?! 呪いが解けたバウムガルテン様は王家と血の繋がりがある公爵様で、見た目もお人柄も文句のつけようがない人だわ」


 お人柄、は、どうだろう。


「それで、既婚も未婚もみんなあの方を狙っているのよ?! この深刻さ、分かる?! リリア!」


 三人共が身を乗り出し、茶器や皿がガチャンと揺れた。


「えっと、まず、三人とも落ち着いて?」


 私は三人を宥めようとしてみたけれど、


「あなたには危機感が足りないわ!」

「バウムガルテン様を疑うわけじゃないけど、あなたが悲しい思いをするかも知れないのよ?!」

「相手には手練手管の猛者だっているわ! もし、もしもがあったら……!」


 その時は離婚しますのであしからず、とはとても言えない。

 そもそもの、私とあの人との今の、人に説明するにはとても面倒な状態になってしまっている事柄を少し相談しようかと思っていたけれど、今のこの三人に話すべきじゃないな。話がもっとこんがらがる気がする。


「えーと……まあ、今後は気を付けるけれど、今のところ関係はそれなりに良好よ?」

「「「具体的に」」」


 三人で迫らないで。怖いから。


「そうね……」


 さて、話をどう捻り出そうか。


「……あ、このドレスなんだけど。旦那様がわざわざ母に私の好みを聞いて誂えてくださったのよ。ああ、あとこのイヤリングも、プレゼントとしてくださったわ」


 私は耳元で煌めく、碧いイヤリングを示した。これは、私が接近禁止を伝える前に、月にいっぺんだった贈り物が毎日贈られるようになっていた時の一つ。石の色が本人の瞳の色だったので、ああ、この人、愛が重い人だな、と思った。


「いいお話ね……」

「でも、贈り物なら誰にだってできるわ」

「他には?」


 つ、追撃が来た……。


「えっと、……ああ! そうそう、三人とも、東洋の紫陽花って花を見たことある?」

「紫陽花?」

「ないわ」

「どんな花なの?」

「そうね、花びら──本当は萼が花びらに見えているらしいのだけれど。このくらいの、」


 私は親指と人差指で丸を作り、


「大きさの、四、五枚くらいの花弁が咲いて、それが沢山、丸くなるように咲く花なの」

「「「へぇー」」」

「でね、その紫陽花っていう花は、原産地では青や紫になるらしいんだけど、こっちの土壌では鮮やかな赤になるの。その赤も素敵なんだけど」


 あの、色。


「私ね、庭師に、原産地の色も見てみたいって言ったことがあったの。……それが、旦那様のお耳に入ったらしくて」


 言いながら、ふわふわしてくる。なんだか、変な気持ちだ。


「旦那様は庭師に色々力を貸したらしくて、この前、青色と紫色の紫陽花を見せてくれたわ。……とても綺麗だった……」


 ……ん?


「ねぇ、今私、変な顔してなかった……どうしたのよ」


 なんで三人とも微笑ましげに見てくるのよ。


「……私達が心配することじゃなかったわね」

「ええ。そうね」

「これなら大丈夫ね」


 あの、三人で話を完結させないでくれる? 離婚調停の話するわよ?




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