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戦争

 僕達が今何をしているかというと、たぶん戦争をしている。


 眼下には草原が広がり、王国軍と帝国軍が睨み合っているところだ。


 実はこの国、かなり危ない状況らしい。大陸を統一しようとする帝国と、なんとか生き残っている王国。国王としては藁にも縋る思いで、僕達「神の使い」と「神の品」に賭けたのだ。


「森宮さん、高いところ平気なの?」


「割と平気。三田さんは……苦手そうだね」


 王国唯一の飛行戦力、ワイバーンの背の上に僕達はいる。と言っても操縦士は別にいて、僕と三田さんは鞍に座っているだけだ。


「あっ、帝国の左側の部隊が分裂した。森の方に行くみたい」


「ちょっと私、手を離すの怖いから森宮さんやって!」


「仕方ないなぁ」


 僕はリモートローターのコントローラー取り出した。合図を送る為に。


 今回の戦争での僕達の役割は、上空から見た帝国軍の動きを地上の王国軍に伝えることだ。リモートローターの振動を通して。


 地上では王国軍の総大将がローターを敏感なところに装着している。


 戦力で劣る王国が帝国に勝利するには、情報戦で勝つしかないというわけだ。


「ええと〜左に異変ありだから、こんな感じかな」


 コントローラーのスイッチを細かく操作し、事前に取り決めた合図を送る。モールス信号みたいなものだ。


「あっ! 伝わったみたいよ! 王国軍も分裂したわ。うん? 王国軍の背後に少数の部隊がいる。伏兵……!?」


 恐る恐る下を覗いていた三田さんが声を上げた。


 まさか大将首を狙っているのか? これは緊急事態だ。


 僕はローターの出力を最大にし、後方注意の信号──振動を送る。


「あっ! 帝国軍の陣形が変わり始めたわ! 右側が伸び始めた」


「了解!!」


「帝国軍がゴーレムの生成を始めたわ!」


「了解!!」


「あっ!」


「了解!!」


「……」


 僕達は刻一刻と変わる戦況をリモートローターで伝え続けた。



 時間はあっという間に過ぎ、陽が落ち始めたところで帝国軍は撤退を始めた。


「森宮さん……。なんとかなったみたい」


「ふぅぅ」


 緊張が解けて、一気に疲れが出た。コントローラーを持つ手が固まっている。


 ワイバーンの操縦士が振り返り、手を上げて喜んだ。


「そうか……。勝ったのか」


 地平線の向こうに夕陽が見える。異世界でも茜色の空は綺麗だった。



#



 帝国からの侵攻は三度あり、その三度とも撃退に成功した。国王は「神の使い」のお陰だと言って、何度も頭を下げていた。


 そして、決して少なくない金貨を僕と三田さんに渡した。普通に暮らすだけなら、十年ぐらいは平気なほどの額だ。


 国王以外からも大勢の人に感謝された。一番熱心だったのは戦争で総大将をつとめていた侯爵で、「是非、ウチの屋敷で暮らして欲しい!」と言ってくれた。


 ただ、ちょっと視線が怪しかったので丁重にお断りした。貴族と一緒に暮らすのは気を遣うしね。宿暮らしの方が気が楽だ。


 昼間は図書館に行ってこちらの言語や文化を学び、夜は適当な酒場に入って軽く飲み、宿に戻って朝まで眠る。


 そんな生活を一ヶ月ほど送っていた。



#



 その日は会話の練習を兼ねて市場に来ていた。以前ほどオドオドしていないので、呼び込みの人に強引に捕まることもない。


 どちらかと言うと、こちらから積極的に「これは何だ? これはいくらだ?」と尋ねている。


 果物売りの屋台が目に付いた。


 りんごに似た赤い果実が山となっている。そういえば三田さんが「教会で暮らしていると甘いものが出ない!」と嘆いていたな。


 店主に声をかけ、赤い果実を二つ買ってリュックにしまった。意外とずっしりして、肩に食い込む。



 一通り市場を見て周り、そろそろ宿に戻るか酒場に繰り出すか悩んでいた時だ。


 地面にゴザを敷いて雑貨を並べている男が声を掛けてきた。どうやら地方からやってきた行商人のようで、怪しい品がずらり並んでいる。


「マサリベ、マサリベ。ベンベド、ヌドレバ!」


 見てって見てって。全部本物だよ! と言っている。しかしガラクタばかりしかない。流石に買う気はしないなぁ。


「モドレバ、ダンダン」


 もっといいモノないの? と尋ねると、行商人は後にある革のリュックを漁り始める。


 しかし出てくるモノはやはり怪しい。「魔道具だから!」と言い訳のように言っているが、僕には魔力がないので使えない。


 さて、そろそろと立ち去ろうとした時。行商人は殊更大きな声で「神の品ならどうだ!」と言った。


 もう歩き出していた足を止め、くるり振り返る。そこで目に入ったのは──。


「オナホじゃん……」


 僕がこの世界に転移して来た日。アダルトショップ「フライングダッチワイフ」で購入しようとしていたやつだ。


 とても懐かしい気分になる。


「パンチラネ?」


 いくらだ? と尋ねると、指三本を提示された。神の品なんだ。きっと金貨三枚だろう。日本円で三十万円ほど。


 法外な値段に思えるが、こちらではもう手に入らないかもしれない。幸い、お金にはまだまだ余裕がある。


「バウバウ!」


「ノンシリコン」


 買ってしまった……。僕は冷静を装い、オナホをリュックにしまう。そして足早に立ち去った。宿へと……。

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