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第一異世界人

「人間だ!」


 一晩野宿し、異世界二日目の昼頃だ。遠くに農作業をする人間の姿が見えた。鍬を持ち、地面を耕している。


 僕は双頭ディルドをリュックにしまい、なるべく友好的に見えるように手を振りながら近づいた。


 第一異世界人の手が止まり、じっとこちらを見ている。若い男だ。ホリが深く、日焼けした肌が逞しい。ひょろひょろの僕とは大違い。


 少し気後れしたが、話し掛けないと始まらない。なるべく明るく、元気にいこう。


「こんにちは!」


「……」


 男は警戒している。


「道に迷ってしまって! この辺に街はありますか?」


「ウンダラベス。マガマガダ」


 駄目だ。何を言っているのか全くわからない。


「ごめんなさい。僕、日本語しか話せなくて」


「……トッパンダッテ。ベンゾー」


 男も困っている。ここはボディーランゲージだな。とりあえず、喉が渇いていることを伝えよう。


 僕は手でコップを作り、ごくごくと飲むふりをした。ペットボトルの水はもう一滴もない。


「ニルデッ!」


 男はなるほど! という表情になり、畑の脇に置いてあった革製のリュックを漁る。そして得意げにあるものを取り出した。


 それは薄いピンク色をした水風船のようだった。先端部分が細い袋状になっており、何処か見覚えがある。


「こ、コンドーム……」


 男はコンドームに水を入れて水筒のように使っていたのだ。水でぱんぱんになったコンドームを笑顔で勧められる。


「え、ちょっとコンドームに入った水は……」


「ノンシリコン、ノンシリコン」


 どうぞどうぞと顔の前に持ってこられた。ここで断って機嫌を損ねるのは不味い。それに、喉の渇きも限界だ。


 僕は意を決して水筒コンドームを受け取り、水漏れ防止の紐を解いた。そして咥える。


「ノンシリコン、ノンシリコン」


 ゴム臭えぇぇ。


 しかし吐き出すのは駄目だ。なるべく美味しそうに飲まないと。


「ぷはぁ。ありがとうございます!」


 三口ほど飲んで、コンドームを男に返す。すると男もコンドームを咥えて喉を潤した。


 こうして、異世界人とのファーストコンタクトは成功? に終わった。



#



「えっ……!?」


 男に案内されて辿り着いた先は、如何にも農村といった感じの簡素な集落だった。しかし少々様子がおかしい。


 村を守る壁にディルドやバイブが取り付けられているのだ。それも一本や二本ではない。数十本の擬似男根が壁から生えている。まるで企画モノAVのような光景だ。


「あれは何ですか?」


 卑猥な壁を指さして尋ねる。


「ウィーンウィーン」


 うん。そうだね。そんか音するよね。


 困惑する僕をよそに、男はズンズンと村へ入っていく。置いていかれないように小走りで追いかけると、俄かに注目された。


 村人が五人ほどこちらを見ている。やはり警戒されている。どうしようか。何か手土産でもあればいいのだが……。


 そうだ!


 僕は背負っていたリュックを前に回し、あるモノを取り出し村人達に差し出した。


「ダボウィーンウィーン!!」


 双頭ディルドは音しないけど! しかし村人達は喜んで受け取る。ゴブリンは怖がっていたけれど、人間は違うらしい。もしかすると、ゴブリン避けの効果があるのか? ディルドやバイブには。


 何にせよ、最初の警戒は解かれて歓迎ムードだ。村人達は双頭ディルドを持って何処かへ行ってしまった。


 手持ち無沙汰になりキョロキョロしていると、最初の若い男が手招きをしている。なんだろう?


「ナゴベ」


 ある家の前まで案内され、「入れ」というジェスチャーで促される。扉代わりの布切れをめくると、白髪の老人が椅子に座り、うつらうつらと船を漕いでいた。


「エンドウ!」


 老人は呼ばれてハッと目を覚ます。そしてあくびをしてから僕の顔をまじまじと見た。


「日本人か」


「えっ、日本語分かるんですか?」


「そりゃ分かるよ。ワシだって日本人だからな」


 老人は前歯のない顔で笑う。


「あの、ここは何処ですか?」


「想像ついとるじゃろ。地球からすると異世界じゃよ。残念ながら、異世界転移に巻き込まれてしまったんじゃ。お前さんは」


 やはり、異世界転移。薄々は気が付いていたが、はっきり指摘されるとなかなか堪えるものがある。


「戻る方法はあるんですか?」


 それまでニヤニヤしていた老人の顔が急にシビアになった。


「多分……ある。異世界転移の原因となったモノがある筈じゃ。そのモノを手に入れれば、地球に戻れる」


「それって、どんなものか分かります?」


「異世界転移のキーアイテムは人それぞれじゃ。一概にこれ、というものはない。地道に探すんじゃな」


 少し寂しそうな表情を浮かべ、老人は視線を落とす。何かを思い出すように。


「ここより大きな街ってありますか? この辺に」


「あぁ。あるとも。二週間に一回、行商人がこの村による。その馬車に乗せてもらえるように頼んでやろう。そうすれば四日ほどで王都につくはずじゃ」


 とりあえず情報が必要だ。この老人を疑うわけではないけど、鵜呑みにも出来ない。


「ありがとうございます」


「それまではこの村で過ごすがいい。雨風ぐらいは凌げる」



 老人の勧めにより、僕は三日ほどこの村にお世話になった。


 そして馬車に揺られ、王都へ向かう。


 道中、ディルドそっくりの巨大なモンスター、ドリルワームがゴブリンを襲っていた。


 ゴブリンが双頭ディルドを恐れたのは、ドリルワームの幼体に見えたからかもしれない。

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