アダルトショップにて
疲れが溜まってくると! こーいう小説を書きたくなるのです!!
閉店間際のアダルトショップ『フライングダッチワイフ』に僕はいた。店内に客は僕一人。レジカウンターには店員が一人。
つまり一対一だ。
もう蛍の光が流れている。店員が一人しかいないことはおかしくない。おかしくないのだが……。
何故、その店員が若い女の子なのか。艶のある綺麗な黒髪ボブの美少女がカウンターに立っている。
いつもは髭面のおじさんがいるのに! 何故今日は女の子なんだよ!!
僕は手に持つオナホを棚に戻そうか迷っていた。しかし、女の子にはしっかり見られている。今更オナホを買おうとした事実は取り消せない。
買え。買うんだ。森宮ヒロシ。
僕は下を向き、一歩、また一歩と慎重にレジへ近づく。顔を合わさなければ平気だ。なーに、向こうだって仕事なんだ。淡々と会計を終わらせるに違いない。
レジカウンターが目の前にある。僕はオナホ──日本の性産業の技術の結晶をそっと置いた。
「……えっ?」
女の子が驚いたようなリアクション。ここはアダルトショップでしょ! オナホなんて当たり前じゃん!
あまりの恥ずかしさに頭がぐらぐらし始めた。視界までブレる。
「揺れてる……!?」
焦りを含んだ女の子の声に顔を上げると、所狭しと陳列されたアダルトグッズが激しく揺れている。
「地震?」
「お客さん! 早く外へ!!」
店内の棚が大きく揺れ始めた。今にも倒れそうだ。
慌てて踵を返し出入り口へと走る。視界がひどく狭い。音が妙に遠い。
磨りガラスの扉を押して外に飛び出すと辺りは真っ暗だ。
停電?
「何…あれ……」
背後から女の子の声。
振り向くと、空を見上げて呆然としている。釣られて上を向くと暗闇の中で何かが蠢いていた。
「……!?」
──ガガガガガッッ!!
振動が激しくなり立っていられない。這うように店から離れるが、身体が地面から中空へと吸い上げられる。
やばい……。死ぬかも……。
そこで意識は暗転した。
#
次に見たのは雲一つない青空だった。心地よい風が僕の前髪を揺らしている。背中に当たる感触は柔らかく、少しだけ青臭い匂いが鼻をついた。
上体を起こして辺りを見渡すと、なだらかな草原が続いている。
「ここは?」
地震で建物が崩れた様子はない。というより建物がそもそも見当たらない。
「まいったなぁ」
オナホを買いにアダルトショップへ行ったら、知らない土地に飛ばされました。なんて、悪い冗談だ。
夢かと思って何度も頬を抓るが、リアルな痛みが残る。ハッと目覚めてチャラになるなんてことはない。
「どうしよう」
助けを求めるように視線を漂わせると、少し離れたところに僕のリュックがあった。
助かった。
あのリュックにはコンビニで買った水とパンが入っている筈だ。とにかく喉を潤したい。一息つきたい。
這うようにリュックに辿り着き、勢いよくチャックを開いて水のペットボトルのキャップを回した。そしてぐびりと喉を鳴らす。
「ぷはぁ」
水を飲み、少し冷静になる。状況を整理しよう。
僕はさっきまでアダルトショップにいた筈だ。人が多いと恥ずかしいので、わざわざ閉店間際を狙って入店した。
そして目当てのオナホを買おうとレジに向かったが、カウンターには美少女がいた。そこで地震。体験したことのない激しい地震。
慌てて店の外に出ると辺りは真っ暗で空がおかしい。また激しく揺れたと思うと、次に目に入ったのは青空。今に至る。
うん。無茶苦茶だ。
「いい風だなぁ」
開き直ると風が気持ちいい。東京では感じることのない解放感。よく分からないなら、よく分からないなりに楽しもう。
そんなポジティブな気分になる。
「よし!」
僕は立ち上がり、とりあえず歩くことにした。
向かい風は厳しいので、追い風になるように歩く。
当てはないんだ。街や村に辿り着けばラッキー。
そう思い、僕は歩き始めた。
#
「フライングダッチワイフじゃん……」
僕の目の前には草原にポツンと一軒あるアダルトショップ。エントランスは開いている。
まるで意味が分からない。店が転移したのか? 誰か教えてほしい。何が起こっている?
小石を拾って店に向かって投げる。乾いた音が響いた。何も反応はない……。
警戒しながら慎重に近づく。
真っ暗な店内は陳列棚が倒れ、荒れ放題だ。
「誰か居ますかー?」
静寂。反応はない。
「本当にいませんかー?」
いないようだ。
中に入ると、あれだけ所狭しと並べられていたアダルトグッズ達が全く見当たらない。山になっていたオナホが一つもない。
どういうことだ? ここは性玩具が許されない世界なのか?
むくむくと膨れ上がる探究心。本当に一つもないのか? コンドームの一つぐらい残っていてもおかしくない。
倒れている棚をひっくり返し、僅かな光を頼りにアダルトグッズを探す。宝探しのような気分になり、時間を忘れていた。
小一時間ぐらい経っただろうか? やはり何もなく、最後の棚をひっくり返した時──。
「あった! 双頭ディルドだ!」
ついに僕は見つけた。だだっ広い草原で友達を見つけたような気分になる。いや、使ったことはないよ?
僕は満足し、『フライングダッチワイフ』の外に出ようとするが、何者かの気配がする。現地人だろうか? 小声で話している。
もしかしたら街へ連れて行ってくれるかもしれない。とにかく話し掛けてみよう。慌てて入り口から顔を出し──。
「ギギ……!?」
えっ……。
「ギンギンギッ!」
緑の肌をした身体130センチぐらいの小鬼が三体、僕を見て驚いている。なんだよこれ……? ゴブリン?
ゴブリン達は警戒し、距離を取っている。
奴等の視線は僕の右手、双頭ディルドに集まっているようだ。興味があるのか?
「ほらっ」
「ギンギンギッ!!」
ディルドを前に出すとゴブリン達が一瞬怯んだ。怖いのか? 僕は調子にのってディルドをグネグネとしならせた。
「ギンギンギ、ギンギンギン!!」
ゴブリン達がくるりと踵を返し、逃げていく。ちょっとビビり過ぎじゃないか? ただのディルドだぞ?
小さくなる背中を見ながら、いよいよ自分の置かれている状況が見えてきた。どうやらここは地球ではないらしい。
「やっぱり、異世界だよなぁ……」
溜め息が混ざった。
「何にせよ、人間を見つけないと」
僕はフライングダッチワイフを後にした。
こーいう馬鹿な小説、嫌いじゃないぜ!? って方はブクマと評価、よろしくお願いします!!