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深く沈み、息をする  作者: 西牧 つむぎ
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記憶の夢


直径20センチにも満たない小さな足が、膝より高い草の生えた道をずんずんと進んでいく。

足元には水色のマジックテープを2本止めるタイプのサンダルが草の水滴を吸って光っていた。


「美桜大丈夫?足痛くない?」

「うん!大丈夫!」

なら良かった、と笑顔を向ける下がり眉のさやかちゃん。

悲しい訳では無いのだろうけど、笑っている時も寂しそうに見える。

今20歳くらいの従兄弟だ。


道は車1台が通るのがやっとの幅で、くっきりと窪んでいるタイヤ痕を挟むように両端と真ん中に草が生い茂っている。

母に見られたらタイヤ痕のところを歩きなさいと言われそうだ。


もう少しで田んぼに着きそうだが、ふとさやかちゃんが歩みを止める。


「なんか、四つ葉のクローバーありそうじゃない」


さやかちゃんの目線の先には三つ葉が沢山生えていた。

下がり眉をまた少し下げ、悲しげな笑みを浮かべる。


「みつける!」

宝探しが好きな年頃。

ワクワクしながら三つ葉の所にしゃがみこみ、茎を折らないように端の方からそっと見ていく。

さやかちゃんも一緒に反対側から丁寧に右手を入れていた。


「こんなに生えてるんだから1本くらいあるよね!」

見つけた瞬間を想像して、気持ちが早っていく。

10歳近く離れたさやかちゃんは落ち着いて微笑んでいた。


10分かけて1メートルくらい見尽くしたが四つ葉のクローバーは無かった。


田んぼに近づきつつ、次の三つ葉の山、次の山と探していく。


30分くらい経ち、飽きてきた頃

「あった!!!」

とさやかちゃんが大声を出した。

その手にはよくしおりにされている3倍くらいの大きさの四つ葉のクローバーが握られていた。

立ち上がり高々と掲げたあと、私の方に歩いてきた。

「ほら、美桜」

手と同じくらい大きい四つ葉のクローバーが右手に滑り込んできた。


「…わあ、すごい!ありがとう!」


その時四つ葉のクローバーが見つかった嬉しさと、自分で見つけたかった悔しさが入り混ざって少し変に戸惑ってしまった。


2人で手を繋ぎ、田んぼを見た。


「ここで美桜達がお米作ってるんだね」

「うん、そうだよ!すっごく美味しくなるから出来たら持っていくね!」


まだ植えたばかりで土の面積の方が大きい、少し寂しい緑色の田んぼを暫く見つめていた。

ここからお米になる想像が出来なかったが、楽しみだった。


さやかちゃんがくれた四つ葉のクローバーを握りしめ、家に向かう。



ージリリリリー


けたたましい音が部屋に広がる。

心臓がきゅっと締め付けられるのを感じながらもがくようにアラームを止める。


音が止まり、深呼吸をする。


気持ちの良い夢だった。


「さやかちゃん…」


ふと寂しくなり呟いてみる。

四つ葉のクローバーの幸せな夢を2、3ヶ月に1度見る。

夢なのだが、小さい頃の記憶がそのまま上映される。

いきなり四つ葉のクローバーがウサギに変身して話し出したり、鬱蒼としげる草の山を無重力に飛びながら歩いたりするような「夢」らしいことはひとつも無い。


急にお腹がすいてきたので、布団から芋虫のようにモゾモゾ出ていき冷蔵庫に向かう。

彼はまだ寝ているから静かに動く。

さっきのアラームで起きないのが本当にすごいと思う。


冷蔵庫から適当にめぼしいものを取り出す。

レンジでうどんを温め、納豆と箸をテーブルに持っていく。


「いただきます」

こたつに入り手を合わせる。



さやかちゃんは私が高校生くらいの時に急にいなくなった。

従兄弟とはいってもそこまで近いところに住んでいたわけではなかったので、会うのは年に2回くらいだった。


中学生くらいまで、「お姉さんと遊んでいる」という事が嬉しくてたまらなかった。

お姉さんと遊ぶことで自分もお姉さんになれた気がしていた。


さやかちゃんもあの時、社会の渦とやらに巻き込まれていたのかな。





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