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9,

 


「……おい、こういう覗き見は良くないと思うぞ」


「わかってるけど邪魔も出来ないでしょ、それに……知ってる子なのよ」



 私達は声を殺して伏せながら話す。 それにしても、あの凛とした寮のボス、ジータとは思えない場面に出くわしたわね。



「私とメリッサも今年でもう卒業だ、わかってくれ、そろそろ身辺整理をしておかないといけない」


「身辺整理ってそんな言い方……愛してるって言ってくれたのに……」



 卒業、ってことはひとつ上の上級生か。



「レオーネ、メリッサって誰? あの男は何者なの?」


「あのな、オレは解説者じゃないぞ」


「いいから教えてよ」



 急かす私にため息をつき、やれやれとレオーネは説明を始める。



「あの男はダンテ。 シュカワレ伯爵家の令息だ。 あまり好きな先輩じゃないが……メリッサはお前の方が知ってるだろ?」


「うっかり忘れたの、早く教えてよ」



 知りません、私はリリアナですから。



「最上級生で公爵令嬢だぞ? 知らない女生徒なんていないだろ」


「ああ、そのメリッサ様ね、思い出したわ」


「他に公爵令嬢なんて居ないだろ……」



 公爵って言ったらレオーネより上の爵位じゃない。 親族に王族が居てもおかしくない、そんな大貴族と男を取り合ってるの?



「メリッサとは親が融資をしてもらってるから婚約してるだけって、いずれ婚約は破棄するつもりだって言ってたじゃない!」



 取り合ってる……っていうか、浮気だからメリッサ様は知るわけないか。



「本気で言ってるのか? 君がメリッサに勝ってるところなんて一つも無いだろ? 爵位も財も、容姿ですらそうだ。 信じる方がどうかしてる」


「……騙したのね、あなたはただ今抱ける女が欲しかっただけ……!」


「早まった真似はするなよ? 関係が知られれば私も君も終わりだ。 公爵家を敵に回したらお互いの家族、親族まで潰しをかけられるんだぞ?」


「それは……」


「揃って破滅するよりお互いの未来を大事にするべきだ。 傷ものでは嫁の貰い手さえ無くなる、それじゃあな」


「ま、待ってダンテ……!」



 背を向けたダンテは足を止めず、ジータは泣き崩れて地面に突っ伏した。



「これは、どっちもどっちだな。 ダンテも悪いが、お前の知り合いも道を外れた事をしたのは間違いない」


「……そうね」


「放っといてやれよ、助けてやろうにも内容が内容……―――おっ、おい!」



 そう、間違ってる、いけない事だわ。


 呼び止めるレオーネをそのままに、私は蹲るジータの前に仁王立ちした。



「………エル、マ?」


「今度は見下ろす事になったわね、ジータ」



 なんて情けない顔をしてるの? まるで別人ね。



「……見てたの」


「まぁね」



 これで終わり、全てを失ったとジータは項垂れる。



「そう……。 見ての通りよ、私にはあなたを責める権利なんて無い。 言い訳するつもりもないし、好きなように言っていいわ。 私もダンテも、罪を償うべきだから……」



 あなたは間違ってる、でも、



「レオーネ、お願いがあるの」


「……隠れてたのに、巻き込むなよな」



 私に名前を呼ばれて、迷惑そうな顔が観念して立ち上がる。



「家の人にジータを送って欲しいの、誰にも見られないように。 お願い、1個貸しよ」


「さっき精算したばかりなのにもう貸しか? はぁ、わかったよ」



 悪いわね、あんまり人に見せたくないのよ。



「エルマ?」


「あなたを頼りにしてる子はたくさん居るのよ、面倒見るなら最後まで責任持ちなさい」



 まだ立ち上がれないジータを抱き寄せ、私は優しく髪を撫でてやる。



「間違えるわよ、貴族令嬢だって十代の女の子なんだから」


「……エルマ、わ、私……ッ」


「本気だったんだから、そりゃ痛いわよ。 ―――泣きなさい」



 堪えていた感情を解放して、堰を切ったようにジータは泣き出した。 浮気だろうと何だろうと、恋に破れた女の子は好きに泣けばいい。


 それが、例え許されない恋だったとしても。




 彼女が落ち着くのを待って、私はレオーネと二人でジータを裏から送り出した。



「なぁ、変なこと聞いていいか?」


「ん? なに?」


「お前、本当にエルマだよな?」



「――なっ、何言ってんのよ、当たり前でしょ!!」



「そうか、そうだよな」



 び、びっくりした……。


 きっと学校の公爵令嬢を知らなかったり、エルマらしからぬ行動が怪しまれたのね。 もっと気をつけなきゃ。



「――あっ、大変! 早くレイアのとこに戻らなきゃあの子誘拐されかねないわっ!」


「そんなバカな」


「レオーネ、走るわよっ!」



「まったく、忙しい女だな……」





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