6,
翌日、私は新生レイアに少しだけお化粧をして学校へ出陣した。
レイアは不安そうに私に引っ付いているけど、こっちは手応え十分、自信満々だ。
「ほらっ、顔を上げて堂々と」
「う、うん」
周りからの視線を感じる。 そして聴こえる。
「誰あの子?」
「あんな可愛い子この学校に居た?」
「なんでエルマなんかと居るのよ」
ふふふ、―――何かしらこの優越感っ! ほとんど転校生じゃないの! ちょっと私の存在が邪魔になってるけど……。
――ん? そこに居るのは昨日のいじめっ子軍団じゃないの。
「行くわよ、レイア」
「えっ……ええっ!?」
コソコソと話しながらこちらを伺ってるようだから、こっちの方から行ってあげるわ。
「おはよう皆さん、本日も学業よりお化粧が本分ですか?」
嫌味たっぷりの挨拶をしてやると、
「そ、その子誰よ……」
おーほほほっ! その言葉を待ってたのよ! なに? この子が誰ですって?
「何を言ってるの? この子はレイアよ」
「――は? レ、レイア!?」
嫌ですわ、そんなジロジロと節操の無い。 まったく品の無い令嬢さん達ですこと。
「ねえレイア、昨日の事は許してあげましょう? いくら磨いても石ころは輝けないのですから、あなたを妬む気持ちもわかってあげなければ」
「ぐっ……!」
「あら怖い顔、何か間違ったこと言ったかしら? 自信がおありなら週末のパーティーでレイアの隣に立ってごらんなさい、あなた方の大好きな貴族令息達がどちらに微笑むか見ものだわ」
「ぐぐぐ……ッ!」
ああ、快感……っ! エルマへの負い目で抑えてきたリリアナがエルマとして解放されるなんて……! ちょっと複雑な気分。
「エ、エルマ、ちょっと怖いよ?」
「……そうね、これじゃ私が悪役令嬢だわ。 気をつけます」
でもねレイア、私はあなたが持ってるもう1つの武器に気づいているの。 それをパーティーで発表するのが楽しみで仕方ないのよ。
まあ、私はジャンに謝ったり、レオーネと別れたりとボロボロだと思うけど……。
◆◇◆
そして週末、時は来た―――
「な、なんてこと……」
声が震える。 それは目の前にある、自らが作り出してしまった脅威への震えだった。
「やってしまった……」
追い求めるあまり、それが危険な物だと半ば気づいていても止まれない科学者、今の私はそんな心境だ。
「エルマ、これ、ちょっと恥ずかしい……」
きめ細やかな白い肌をほんのりと赤く染め、無垢な天使を時が大人にしてしまったような愛らしい顔が俯く。 そして、私が貸した水色のドレスは肩と胸元を大胆に見せつけ、幼さの残る少女に持たせてはいけない武器を与えてしまっている。
「あと………胸がきつい」
―――ちくしょう……ッ!
気づいてたのよ、私。 あなたのその危険な胸に……。
「おお神よ、何故あなたはバストにこれ程まで貧富の差を与えたのか……」
「エルマ?」
「いい? よく聞いてレイア。 あなたはこれから社交界の華になる、でもこれだけは覚えていて」
「ど、どうしたの急に?」
「私のこと忘れないでね、あと祖国トゥーリンドをどうぞご贔屓に」
「……何言ってるの?」
これから羽ばたくだろう友達にしがみつく。 みっともない? 処世術と言って欲しいわ。
さて、今日は噂の大公侯爵、レオーネの邸でパーティーがあるらしい。 ここの女生徒は誰でも参加出来るみたいだけど、まあ私は歓迎されないでしょうね。
「さっ、行きましょう。 ――いざ貴族の戦場に!」
◆◇◆
ふっ、大国の大公侯爵家、一体どれだけの邸かと思ってみれば……
「――うちの邸が小屋に感じるわ」
恐るべき敷地の広さ、下手すればトゥーリンドの王城くらいあるんじゃないの? なんてフラフラしてたら、
「初めて見る顔だね、今日は一人で来たの?」
「あ、あの、お、お友達と……」
ちょっと一人にすると男が群がってくる、あれでレイアもちゃんと会話出来れば良いんだけど……。 変な男に引っかかったりしたら大変だわ、私が見極めてあげないと。
「こんにちは、彼女私の友達なの」
「エ、エルマ……」
「――あっ、ちょ、ちょっと……?」
……行ってしまった。 これ、完全に私が虫除け効果になってるわね。
「ごめんなさいレイア、私が居るとあなたの出会いの邪魔になっちゃうみたい……」
「い、いいよ、そんなの」
「でも……」
「エルマと仲良く出来ない人と、お付き合いしたくないし」
「…………友よ」
なんて良い子なの、本当ならちゃんとリリアナとして友達になりたい。
「エルマっ」
「――はい?」
はは、油断してて変な声出しちゃった。
「良かった、来てたんだね」
声をかけてきた男の子は、腫れ物扱いの私に笑顔を向けてくる。 と、いうことは……
―――あっ、しまった。
今気づいたけど、私レオーネもジャンも顔知らないんだった。 レイアはパーティー初めてみたいだし……
「ええと……」
あなたレオーネ? orジャン? とは聞けない。
「ちょっと、二人で話せないかな?」
「え、ええ、そうね」
……やるしかない、―――どっちかわからないけど。