22,
今日の記念日を祝福するかのような晴天、街には喜び合う人々の笑顔が溢れるが、それは仮面の奥だという奇妙な一日だ。
「ほらっ、簡単に取られてあげないよー?」
仮面に手を伸ばしてくる子供と戯れるメリッサ。 1年に1度、この日だけは楽しみにしていた。
「おねーちゃん、だっこー」
これが手の届かない子供の作戦、抱き上げられた時に仮面に手を伸ばす。 この日は抱き上げられる子供の光景がそこら中で見られる。
「えー?」
疑いの目を向けながらも、メリッサがその子を抱き上げようと屈んだ時、
「――あっ」
「やった! とったーっ!」
後ろからもう一人の子供が仮面を奪い取る。
「あ〜、やられたぁ」
見事な連携で子供達の勝利。 それを見て、付き添いの侍女二人がお菓子を入れたカゴを持って近付いて来る。
「わぁ……おねーちゃんキレイ」
「も〜、沢山もらおうとして〜」
「ちっ、ちがうよっ!」
戦利品のお菓子を渡すと、子供達はそれをほおばろうとお面を外し、頭の上に乗せる。
「……良かったね」
その様子を見て、メリッサの表情が微かに陰った。 嬉しそうな子供達の顔が見れたというのに、まるでお面をしていて欲しかったかのように。
長い瞬きをして、メリッサはまた仮面を付ける。
「……見つけたぞ、公爵令嬢様」
その様子を見ていた、敵意の視線に気付かずに――――。
◇
「今日は中心部まで馬車は行けないからな、途中で降ろしてくれていい、メリッサの居る所は分かっている」
「はい、かしこまりました」
まさに仮面の貴公子となったレオーネは、盛り上がりを見せる王都に少し遅れて邸を出発した。
レイアはファビオと祭りを楽しみ、リリアナはリベンジマッチに闘志を燃やしていることだろう。
そして彼女は―――
「……来てるの、ダンテ」
賑やかに飾り付けられた街の中、ジータは一人悪い予感が膨らんでいく。 最後に会った時、ダンテが諦めて項垂れているならまだ良かった。
「お願い、ヤケにならないで……」
その様子は自暴自棄にも感じたが、まだ何か奥底に秘めているように感じた、それが気になって仕方ない。
「――ッ!?」
あてもなく歩いていると、どこかで子供の悲鳴が聞こえる。
「ちょ、ちょっとごめんなさい……!」
人混みを掻き分け声の方に走る。 だが、今日はどこで子供が叫んでいてもおかしくない日だ。 そもそも、それが悲鳴だということさえ勘違いかもしれない。
ただの杞憂、そうであって欲しい。
「ど、どうしたの?」
それらしき現場に辿り着くと、怯えた顔の子供が道の先を指差し、
「おっ、おねーちゃん、つれてかれちゃった……」
この場所はやや裏道で人通りが少なく、追いかけてくれている大人は期待出来なそうだ。
そして、嫌な予感は確信に近付く。
「あ、あなた達は……」
よく見れば、突き飛ばされたのか倒れたメイド服が二人、その一人が目に涙を浮かべ、
「――メ、メリッサ様が……ッ!!」
「嘘でしょ……」
青ざめるジータの脳裏にはいくつかの未来が映る。
「くッ……!」
男の子が指差す方向に走るジータ。 息を弾ませながら頭を過ぎるのは、そのどれもが望んでいない、最悪の未来だった。




