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「む、昔の話ですよ!」
「そうだな、今は誰とでも仲良くなるよな。この前なんか、他の客に話しかけて仲良くなるぐらいだし」
「もう!いいじゃないですか!昔話は終わりです!」
「すまん」
「…ふぅ。あの時、カンミさん私に憧れたんですよ」
「…え?」
「真顔にならないでください!なんか、こっちが恥ずかしいです!」
「…え?」
「今のはなんの『え?』ですか!」
「いやいや、何にだよ!普通に接客しただけじゃん!確かに、お前にミックスジュースをサービスで出したけど、それぐらいだろ?」
「…うーん、あれ?なんでそこで憧れたんだろ?」
シフォンが真面目に話そうとしていたのに、カンミがチャチャを入れたせいか話す内容を見失う。
「と、とにかくですよ。あ、あれです!なんかいいなぁーって…はは」
「『はは』じゃねーよ。ふざけんなよ!んなもんで納得できねーよ!」
ちょっと顔を赤くしながらごまかすシフォン。
「でも!あの時、私はカンミさんに!このお店に憧れたんです!」
「全然伝わんねぇ…」
「な、なんて言うんですか?お店の空気感とか、お店の存在が…、うまく言えないですけどいいなぁって」
不器用だが、ストレートに気持ちを伝えてくるシフォンに『本当にこの子は』と照れ隠しかシフォンの頭を撫でる。
店をここまで褒められると満更でも無い気持ちになる。この子の気持ちは本物なのだろう。
この歳で4年も通い続けてくれてるシフォンに対し4年も成長を見てきた近所のおじいちゃんの様な気持ちがある。
「ったく、分かったよ。動機は今後聞くとしてこの実習はいつからなんだ?」
と確認する。学園から配布された一枚物のデータには詳しい事は書かれていなかった為だ。
「そう言われれば書いて無いですね…」
「まぁ、そんな急にって話じゃ無いだろう。俺は構わないけど」
「ですよねぇ、お店側の準備もあると思いますし、任意だと思いますけど…」
「だよなぁ…」
と、タブレットを2本の指で画像を拡大したり、ずらしたりしながら話す。