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「それで何ですけど…」
言葉に詰まり口をパクパクさせ言葉が出てこないシフォンを見ながらカンミはその続きを待つ。
言いたい事はもう分かってる。ここでそれをしたいと。
だから、肩で息をする程急いでこの店に来てくれたんだろう、この事を俺に言いに、と。
嬉しくも面倒だなと複雑な感情もあるがカンミはどれだけ時間が掛かってもその先の言葉に助け舟は出さない。
こういう決意染みた事は自分の口で言わないとダメだとカンミは思っている。
日が暮れてしまうのではと思えた沈黙は実際5分程。決意を決めたシフォンの口から動き始める。
「ここで働かせてください!」
「…言えたじゃねぇか」
「…え?…なんすかそれ?なんか、馬鹿にしてます…?」
「いや、すまん。気にしないでくれ。昔の悪い癖だ…」
嬉しさもあるかも知れないが怒りが少なくとも混ざっている。
ちょっと悪ノリしすぎたかもしれない。頭をかきながら話を戻す。
「勿論歓迎はするがこっちの話も聞いてもらっていいか?」
シフォンを落ち着かせる様に切り出す。
「歓迎すると言ったが、実習と言うレベルの学びを提供出来るには役不足じゃないか?
見ての通り、この商店街はシャッター街、俺の店しかない。
客もそう来るものじゃない」
「そんな事ないです!」
「じゃあ聞くが、お前はここで何を学びたいんだ?」
「…学びたいこと…」
「そうだ。消去法でここになったのなら、断るつもりだが」
「そ、そんな事は無いです!」
カンミの言葉に少し考え込み少し恥ずかしそうに、昔の思い出を話し始める。
「カンミさん覚えてますか?」
「ん?何をだ?」
「私がここに始めてきた時の事ですよ」
「あー…薄っすらと…」
カンミは腕を組みうつむき加減で昔の記憶を引っ張り出そうとするが、イマイチその記憶は出てきていない。
「私が10歳の時、お母さんと一緒に初めてガーデンカフェに遊びに来ました」
「思い出した!すごい人見知りだったよな」
元々シフォンの母親がここの常連だったこともあり『今度、娘を連れてきますね』なんてお会計中の会話で母親が言った事を思い出す。
カンミは正直去り際の約束はあまり好きではない。
理由は『そのまま来なくなることが多くなる』からだ。
約束は人を縛り、責任を与えるものだから、大きい小さいに問わず約束事があるお客さんは大体来なくなる。それはカンミの体感での話だが。
シフォンの母はその約束を守り、娘を連れてきた。
その頃のシフォンはカンミが言うように人見知りであった為、母親の後ろに隠れ、会話をした覚えもない。
そんな中でもシフォンは母親似だった事は覚えている。