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ーーーー学園から少し離れた場所にある商店街。


 昔は人が行き交い、賑わい活気があったのだろうと思わせる場所は今ではシャッター街となり一つのお店がひっそりと商店街の中心に当たる場所の角に佇むだけだった。


そのお店の名前は『ガーデンカフェ』


 オーナーが人が集まる公園や広場の様にと願いつけた名前だった。

 今では雑草が所狭しに生え、放置された公園の様に名前負けしている。

 移動手段の発達により、殆どの商業施設は入り口付近にポータルを設置し立地に左右されないビジネススタイルが主流となったが、未だにガーデンカフェの様に、直接移動して来店してもらうスタイルにこだわる店舗は少なくない。

 そんな事を言っても強制的にポータルは徒歩10分圏内には設置されている。


 そんな古きを大事にするお店の見た目はカフェと言うわりには風貌は昔ながらの喫茶店を思わせるアンティーク感のある装飾で、木目の壁がロッジを思わせる。

 壁沿いには気持ち程度に花壇があり、雑草や落ち葉などは無くこまめに手入れをしているのがわかる。


 そんなお店から定期的に漂うコーヒーを焙煎した香ばしく、無意識に大きく鼻で吸いたくなる香りが邪魔される事なく商店街を包み込む。

 そして、遠くで聞こえる学園のチャイムを、お店の壁沿いにある花壇に水をやりながら聞き耳を立てる人物がいる。


「もう、そんな時間か……。

全く。時間が経つスピードが日に日に早くなってる気がするな」


 ため息混じりに呟くのはガーデンカフェの店主であり、この商店街の商会長「早冬サトカンミ」である。ラフに胸元を軽く開けた白い半袖シャツを濃い茶色のベストをビシッと決め、ベストより黒味かかったスラっとしたズボンに足首より拳ひとつ上ぐらいまである長めの黒のエプロンをした、大人の色気を感じなくはない風貌を漂わせる。

 ツーブロックで刈り上げく少し長めで少し左寄りに分け目のあるコーヒー豆の様な茶色の髪の毛を大きな手で後ろにかきあげる。


「もう50前だしなぁ……。

そりゃあ、早く感じるよな」


 この場所には自分しか居ないのは分かっていたが、誰にも聞かれないような声で呟く。

 ガーデンカフェはこの場所にオープンしてから20年を超える。

 しかし、商店街を見渡すとこのガーデンカフェ以外はつい先日出来たばかりのような真新しさを感じる程きれいな建物が並んでいる。ガーデンカフェは時代を感じさせる程よい劣化があり、このガーデンカフェだけ時代が進んでいる様な錯覚に陥る。


 それは、この世界がデータで出来ている最大の特徴である。

 全ては誰かが更新をしなければそれはそのまま時間が止まったように変わらない。

 消耗品などには、自動更新が存在しており使用頻度に応じて減ったり増えたり、住民に味覚や嗅覚を刺激したりと制作段階で設定される。


 住民は配信者として活動するとなった時、その時点で見た目の成長を自分でコントロールすることになる。

 その為、過去に配信者として登録していたカンミは長年同じ見た目でいた為、歳相応の見た目を希望したことになる。



 色気のある桜餅の様な薄いピンク色をした瞳を覗かし相変わらず人が誰も居ない商店街を眺め『そろそろあいつが来る時期じゃ無かったか?』とため息をフッとつく。

 定期的に顔を出す賑やかな一人の客を思い出しながら、シンプルで重量感のある様に見える扉を開け、鐘の『カランカラン…』と耳を適度に刺激する良い音をたて店に戻る。

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