いつか、勇者の顔面を殴ろうと思っていたが遅かった。
目標や、夢、あれをしたい、これをしたい、そういったものを失ったことはあるだろうか。
パレードにしては陰気が臭く、葬式にしては参列者は悲しんでいない。集まる民衆は、野次馬根性や物珍しさで集まった連中ばっかで、しかし妙にうるさく感じた。
いやに辛気臭いのは勇者を好いていた第2王女だけで、周りの貴族は金蔓が一本消えたことを案じていて、国王に至っては何も感じていない様子。俺の元婚約者も見えたが、次の商売へ向けて思惑にふけっている。
そんな様子を横目に、俺の気持ちは若干落ちていた。
勇者の顔面に一発、右手をグーにして叩き込む。
そんな最低な目標を持ったのは、いつのことだっただろう。
少なくとも、ゴロツキを使って勇者にちょっかいをかけて、家を追い出された大分あと……それも、王国騎士団の入団試験に合格して、日銭を稼ぐ生活から解放されてから、不味いはずの脱色黒パンが旨く感じられるほどに厳しい騎士団の訓練にも慣れてきた頃だったような気がする。
同僚が一人死んで……
あぁ、そうだ、思い出してきた。真っ赤な、火吹き狼が同僚を喰らったんだ。
その時だったか。死ぬ前に、いけすかないあの野郎を一発殴ってやりたいと思ったのは……
「勇者は死んだ」
国王が言った。
その後、生きるためよりただ強くなるために努力して、話したことも数度しか無い勇者を殴るために、努力して、腕っぷしが強ければどうにかなる目標でもなかったのに、努力して、数度の目の戦争で……
「勇者は死んだ」
国王が言う。
うるさい。あぁ、そうだ。遠くから、眉間を矢で撃ち抜かれて、ぽっくり逝っちまった。
「勇者は死んだ」
国王が口から発した。
明日から一週間、休暇をもらっている。この野次馬だらけの葬式の護衛任務、その報酬だという。
何をしようか、あの火吹き狼を殺しに行くか、まだ生きているだろうか。
あぁ、この葬式、早く終ればいいのに……
評価がよかったら連載化します




