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私のHERO  作者: 筆上一啓(フデガミカツヒロ)
19/19

英雄たちの末路

 たくさんの作品の中からご興味を頂きありがとうございます。この作品は1990年代を舞台にしています。作品内のリアリティのため実在する地名、人名、商品名、企業名を利用している場合はございますがストーリー自体はフィクションとなります。実在する人物、及び、商品、企業とは関係ありませんのでご注意をお願い致します。

 この話で最終話です。最終話やあとがき読んで作品の寸評してから読む手の方はここでブラウザバックして最初から読んでください。いろいろな伏線回収が楽しめなくなるので強く強くお願いいたします。

 どんな英雄にも必ず最後が訪れる。そしてその最期は大抵悲惨な終わり方をしている。アキレスもアレキサンダー大王もギルガメッシュもジュリアス=シーザーも・・・。神話の英雄も歴史上の人物もみんな最期は家臣や腹心、家族や友人、国民の恨み妬み不満によって裏切られ貶められその最期を迎える。

 これは戸摩君から聞いたことがあった話だ。彼や莉乃さん、戸摩君は社会の選択科目で歴史を選んでいたが私は地理を選んでいたのでそこまで詳しくは知らなかった。戸摩君は彼の事を本当に『英雄』と思っていたので彼の英雄としての最期を目の当たりにして英雄たちの末路を語ってくれた。

 彼は2学期に入り体育祭も文化祭も終わっていろいろと落ち着いたころ例の英語教諭とまたも口論したらしい。それ以降学校に来なくなった。

 口論に至った経緯はこうだ。

 ある日の授業中、莉乃さんが先生の問いに答えられないと陰湿な嫌がらせを始めた。それは靴下を脱ぎ、

「俺の水虫でも喰らってろ。」

 と言って莉乃さんの机の角に自らの足の指の間をこすりつけ始めたのだった。それに我慢できなかった彼は、

「先生、いくら何でもやり過ぎです!」

 と抗議した。戸摩君も抗議しようと立ち上がったが彼の方が早かった。

 先生はチッと舌打ちすると彼に向って、

「また英雄気取りか?あぁ?!だったらお前が代わりに報いを受けろ!!!」

 と言って今度は彼の机の机に脚の指を擦り付け始めた。しばらくは彼もそれを我慢して受けていたが先生が机の上に足をのせて、

「舐めろ!」

 ととんでもないことを言った。彼はついに我慢の限界を超えたようでその足を力強く払いのけると、

「オレはあんたのやり方にはついていけない。お前の事が大っ嫌いだ!!!」

 と反抗した。それにさらに気分を害した英語教諭は、

「教師に『お前』とは何事か!粛清してやる!!!」

 と言って彼に殴りかかった。その腕を彼はいとも簡単に掴むとその腕をひねり机に押さえつけて関節をきめた。

「離せ!これ以上は許さんぞ。」

 英語教諭は彼に脅すように手を放すように要求する。それに対して彼は手を離すと英語教諭を肩から突き飛ばした。

「教師に暴力をふるってただで済むと思うなよ!」

 なおも脅しを続ける英語教諭に対して彼は、

「好きにしろ。」

 と言い捨てて英語教諭に教科書を投げつけると自分の鞄と荷物を取って教室を後にした。

 戸摩君は彼を止めようと彼を追った。授業には参加しなくても学校には戻るよう説得した。担任や校長、教育委員会に相談しようと提案したが彼は無言で列車に乗って帰ってしまった。

 仕方なく教室に戻ると英語の授業は自習になっていた。戸摩君が追いかけたのと同時に数名の生徒がこのトラブルを教頭先生に報告に行ったため英語教諭は校長室で校長先生に叱責を受けることになった。

 このことを三船君伝えで彼に教えて学校に戻ってくるよう説得したが彼はそれから2週間は学校に姿を現さなかった。担任に説得されようやく登校してきたがはじめはカウンセリング室、その後当時の状況を確認するために校長室、その後は図書室の住人になった。

 しばらくして彼とも仲の良かった数学の教師が「僕の授業だけでも出席くれないか?」という申し出に応じて少しずつ英語以外の授業に参加し始めたが時々廊下で英語教諭と顔を合わすとその度に「人間のクズ」や「早く学校を去れ」などと暴言を吐かれ、彼は再び学年校舎には姿を現さなくなった。

 時同じくして彼の上履きや体育館シューズ、教室の自分の棚に置いていた辞書など学用品が頻繁になくなるようになった。授業に参加していないので勝手に借りてそのまま返さないものだと思っていたが彼の担任はそうは思わなかったようだった。

 あの暴行事件の後、課外授業の期間に彼の伯父がなくなって忌引きで3日間休んだ時にも彼の学用品が無くなっていたと言うのだ。彼も最初はいない間に勝手に借りて返しに来ていないものだろうと思って各教室を借りた生徒を探して廻った。自分の学年では見つからず外の学年にも知り合いの協力を得て探し廻ったが体育館シューズしか見つからなかった。

 その為彼の担任はイジメがあるのではないかと思い彼の近しい生徒たちに何か相談がなかったか聞いて回っていた。しかし、彼はその事はあまり気にしていなかったようでほとんどの友人に話しておらず、また聞いたという友人たちも探し物の手伝いしか頼まれていなかったので何の成果も得られなかった。

 ただ、嫌がらせの可能性は大きいように思えた。あの暴行事件以降、女子生徒の間で彼の評価は高くなった。過去の駅前でお婆さんを助けたことや小学生を助けたことなどもいつの間にか彼女らの知るところになり彼に憧れる生徒、思いを寄せる生徒が増えたのは確かだった。当然、男子の中にはそれを面白く思わない者が出てくる。想い人が他の人を見ているもの面白くないがそんなものも関係なくただ面白くないと妬む生徒は男女関わらずいる。

 そして、あの英語教諭も一部の生徒の中では人気があった。下品で下劣で私は好きになれないがその下品で下劣な冗談が好きな人種もいる。そういった人から見れば彼が事あるごとに英語教諭に楯突くのは気分の良いものではなかっただろうし、しかもその人物が『HERO』と呼ばれていればさらに面白くなかったことだろう。

 彼が嫌がらせを受けるだけの理由はいくらでもあった。でも、それを気にさせなかったのは何を隠そう関谷さんのお陰だろう。彼から1年前に聞いた関谷さんに惚れた理由がそれだ。煙たがられている彼を「私の知っている君だけが本物の君だよ」という言葉に救われたと言っていた。だから今度も関谷さんの支えでこんな状況に陥っても彼は今まで学校に来続けていたはずだ。

 関谷さんの方も彼の事を心配しているかと思ったが意外にも大丈夫そうだった。はじめのうちの学校に全く来なくなった時期は花粉症の時のように時々呆けてはうつろな表情を見せていたが彼が少しでも学校に来るようになるとそんな表情は見せなくなった。彼に会おうと思えば図書室に行けばいつでも会えるのもあった。彼女は図書委員の仕事がない日でも図書室に行って彼とお話をしていた。掃除も彼女は図書室だったのでそのまま二人で並んで箒で床を掃きながら会話を続けていた。

 そして相も変わらず彼の面白い話を私に伝えてきた。

 例えば図書室に『三国志』と『銀河英雄伝説』という長編ファンタジーが両方とも全巻そろっていたらしい。『三国志』は中国の歴史書に基づいた歴史小説ファンタジーだが『銀河英雄伝説』は『三国志』に似ているが歴史小説風SFファンタジーだ。この2作品はともに登場人物が大変多く、話も登場人物ごとに描かれるので時間列がちょくちょく前後するらしかった。

 彼はこの2作品を同時に読み始めたらしく中盤くらいに差し掛かってそれぞれの登場人物と時系列が分からなくなって前の巻に戻って読み直すこともしばしばあって読み終わるまでに逆にそうとうな時間を要したようだった。

「二度と2作品同時に読むような真似はしないよ。」

 と彼が面白おかしく話してくれたことをそのまま面白おかしく伝えてくれた。

 そんな感じで彼も彼女も大丈夫そうだったので私も一安心したところで私も自分の事に集中した。いつの間にか彼の事もあまり気にすることもなくなってき始めているうちに私たちは3年生になった。


 そしてそれと同時に私のナイトは私の前から完全に姿を消した。

 校外の全国模試では相変わらず彼は上位成績をキープしていた。しかし、教科書からテスト範囲が決まる校内の期末テストなどでは図書室の自主学習では範囲が合わなかったりで成績を著しく落としていた。結果、出席日数はギリギリ足りたようだったが一部の体育など科目で単位を認められず留年が決まっていた。

 英語教諭は彼以外の生徒にも同様の嫌がらせを行っており、数名の生徒が彼と同様に不登校に追い込まれていたことが発覚して前の年をもって学校を去ることになった。そのことを先生たちは彼にも先立って伝え学校に残るようと伝えたが「妹と同じ学年になるのはお互いに気まずいから」という理由で転校を選んだ。

 そして、その話を三船君や尾道君から聞いた。

 その時同時に聞いたのが彼の中学生時代の進路希望の問題だった。彼は元々この学校に進学するつもりは毛頭なくて工業高校で電子科学を学びたかったのだ。この隣町の工業高校にその科はあったが学校自体の偏差値が低く先生たちの反対にあった。もう少し偏差値が高いところで同じ科目が学べるのは県外だったためそちらは両親からの反対にあい叶わなかった。

 彼は偏差値の事は気にしておらず、むしろそこで主席をとることで大学の推薦を取るつもりだったらしい。しかし、それをどれだけ伝えても大人たちは納得してくれなかった。彼は何度も進路相談室に呼ばれ3者面談も何回も行われ最期まで自分の意思を伝えたがついに願書提出の時期になってその最期の進路相談の3者面談でようやくこの高校の名前を書いた。

「第2第3希望はないのか?」

 と彼の担任が彼の気持ちも汲まず問ったものだから、

「第2も第3もあるわけないじゃないですか!そこしか認めようとしなかったくせに!!!」

 と怒って進路相談室を飛び出したらしい。

 だから彼にとってこの高校にそもそも来た意味は何もなかったのだ。それでも彼が受験を必死に頑張ったのは三船君や尾道君など合格が難しい親友が頑張っているのに自分が行く気もないから適当にやって受かるというのは彼の正義に反するらしく彼らと同じ、いやそれ以上に勉強を頑張って彼らを引っ張り上げようという気持ちからだったらしい。

 それを聞いて成田さんが不合格だった時に尾道君が、

「オレみたいな自分のエゴだけで受けたやつが受かってるのに、なんで夢のあるリナちゃんが落ちるんだよ!オレが落ちれば良かったんだ!!!」

 と言ったのに対して彼が怒って尾道君を殴った理由が分かった。彼は行きたくもない学校に行こうとしている自分より目標があってその高校を目指していた成田さんにその席を譲りたいと尾道君より強く思っていた。しかしそれを口にしたら今まで一緒に頑張ってきた尾道君や三船君を裏切ることになるからそれを口にしなかったのだ。

 彼は、

「理名に謝りたい・・・。」

 と学校を去る時に三船君に言ったらしい。彼は入学後も自分が不釣り合いのところにいて成田さんに受かってほしかった気持ちを引きずっていたようだった。彼のもう一人の幼馴染の女の子、彼が引っ越した先での幼馴染の女の子。何の感情もない方がおかしいのかもしれない。

 ふと思い出す。中学2年の夏休み、1年の時のクラス会費が余っていたからという理由で1年の時のクラスメイトで保護者も併せてキャンプをする機会があった。肝試しのくじ引きで彼は成田さんと一緒になりその後花火をみんなでするときも二人は一緒だった。仲良く肩を並べて座り込み線香花火を眺める姿はともすれば恋人同士のようにも見えた。

 しかし、二人はともて恋愛感情があるようには見えなかった。男女の仲を超えて一つの信頼関係があるようには見えた。だから私は二人に恋愛感情がないのを察して二人きりでいても安心していて嫉妬などはしてはいなかった。

 ただ、男女の意識がないにせよそれ以上の感情や信頼、思いやりがお互いにあったのだろう。だから彼は成田さんの事を引きずり続けたのだろう。


 ただ、私は彼が許せなかった。薄情だと思った。恨んだ。妬んだ。そしてその悪意が私を縛り付けてその後の私の人生で彼の事を引きずらせた。

 みんなは彼が転校するとこを2年生の3学期には知っていた。私だけが知らなかった。私だけが3年生になって暫くして彼がいないことに気が付いた。関谷さんがあれほど通っていた図書室に行かなくなった。戸摩君も彼を私たちの教室に引っ張て来なくなった。三船君や尾道君とも下校する様子もない。彼を取り巻く友人たちの周りに彼の姿を見かけないのに気付くのに少し時間がかかった。ふとした拍子に関谷さんに聞くと難なく教えてくれた。彼は3年生に編入できる東京の高校に転入したと・・・。驚いて三船君や尾道君に聞いたら先述の内容を教えてくれた。そして愕然とした。

 そして彼の周りの友人たちに聞くとみんな知っていた。戸摩君も成田さんまでも知っていた。それが私には悔しかった。なぜ私だけには伝えてくれなかったんだと・・・。

「一番に知らされてるかと思った。」

 みんな口を揃えてそう言った。彼の普段の行動からだとみんなは一番に私に報告や相談をしているものだろうと思っていた。私が不満をぶつけると、

「一番心配させたくない相手だったんじゃないかな?」

 とこれまたみんな口を揃えて同じようなことを言った。

 それでもだ!15年間一緒にいて別れの挨拶もなかったのは納得がいかなかった。

 

 関谷さんはある日普段にも増してニコニコしていた。聞けば彼から手紙が届いたというのだ。別れる時の約束で毎月手紙を書く約束をして最初の1通目が届いたというのだ。そして彼は関谷さん以外にも数名仲の良かった生徒に手紙を送っていた。私には何もなかった。それも悔しかった。

 夏休みにはこっちに帰ってきてみんなと会っていた。私には顔も出さなかった。

 私だけが彼に捨てられたような気持になり彼を恨み妬み続けた。しかし、いつまでも彼に縛られるのも嫌になって彼を忘れるよう努力した。

 幸いそれは戸摩君もいてくれたお陰で難なくできた。しかし、彼の存在感は居なくなった後でも強烈で度々話題に上がった。高校の同窓会ですら彼の話題が上がった。それくらい彼は大きな影響を私に限らず周りに与えていたのだった。

 同窓会では彼が俳優を目指していることが話題になっていた。一度エキストラでテレビに出ているのを見かけた友人が彼に連絡をすると、

「セリフもないし実際の映像を見たら米粒大の大きさでしか映ってなかったから恥ずかしくて誰にも言ってなかったのによく気付いたね。」

 と言われたらしい。その友人は、

「高校の時から存在感は逸脱していたからね(笑)。ちっさく映っていても存在感だけでわかったよ!」

 と彼を揶揄した。その話を聞いてあっちでもこっちでも彼の話題となり、

「ここにいないのに存在感だけはすごい在るね。」

 と私の横に急に関谷さんが来て呟いた。

 彼女は昔と同じようにニコニコして彼の昔話をした。

「今でも連絡取りあってるの?」

 と私が聞いたらバツが悪そうな顔をして、

「私が筆不精だから大学入試前に『勉強の邪魔しちゃいけないから手紙辞めた方がいいかな?』って手紙が来て『そうだね』って返してから大学受かっても私が連絡先教えるの忘れちゃってたから自然消滅しちゃった(笑)。」

 と笑いながら答えてくれた。

「そうなんだぁ・・・。」

 どう答えていいか分からず曖昧に相槌を打つと、

「わたし変わり者だから彼みたいにわたしに付き合ってくれる人なかなかいないんだよ。逃がした魚は大きいなぁ・・・。」

 と言ってお道化て見せた。それに苦笑いしていると、

「お互いね?」

 と言ってきた。

「えっ?どういう意味?!」

 と尋ね返すも彼女は「ふふふふふ」と笑いながら私の横から離れていった。そして振り返ると、

「きっとあなたなら彼にもう一度会えるはずだから、今度会ったときは逃がしちゃ駄目だよ。」

 と言って小さく手を振って他のグループの会話の中に飛び込んでいった。私は彼女が何を考えているのか問うタイミングを外して呆然としていた。

 そうこうしているうちに他のグループに話しかけられいつの間にか関谷さんの言葉を忘れてしまっていた。彼の話題が立ち上がり「仲が良かったよね」「今どうしてるか知らなの?」と聞かれるたびに「知らない」とか「そんなことない」と彼の話題を避けた。

 彼のことを忘れようと思いつつもそう思うことで彼に縛られていることに気付いた。彼のことが話題になるたびに忘れたつもりになっていて意識してその話題から離れようとする自分がいた。私はそんな彼の存在が嫌になり最期の別れもなかったことも恨んで彼のことを嫌いになることで彼に縛られ続けていた。

 

 彼の最期の裏切り者は私だった・・・。






「・・・以上!あれ?お父さん怒ってる?怒らないって言ったのに?」

 と私は旦那を揶揄う。娘はもっと聞きたそうに駄々をこねる。

「怒ってないよ!第一、怒らないとは言ってないよ!!!」

 明らかに不機嫌な旦那に私はなだめるように言う。

「私の運命の王子さまはお父さん、君だよ。だから昔の話なんて気にしないでいいよ。」

「でも、その彼の気持ちわかるなぁ・・・。」

 と旦那は誤魔化すように自分のことから話題を逸らそうとする。

「ほおら、お父さんちゃんと前を向いて運転して!」

「はいはい・・・。」

 そう言って私は『私のHERO』の話題を強制的に終わらせる。彼の話になったのは数時間前の出来事がきっかけだった。


 その日は自宅から少し離れた大型商業施設にこの春幼稚園に入園する私の一人娘の学用品を買い揃えに来ていた。一通り必要なものを揃えて帰る前に晩御飯の材料を買いに併設されている大型スーパーに入った。そこで懐かしいメロディーが流れてくる。

「♪

   もう彼女は何処にもいない

   朝早く目覚ましが鳴っても

   そう いつも彼女と暮らしてきたよ

   ケンカしたり 仲直りしたり


   ずっと 夢を見て安心してた

   僕は Day Dream believer

   そんで 彼女はクイーン



   でも それは遠い遠い思い出

   日が暮れてテーブルに座っても

   Ah 今は彼女写真の中で

   優しい目で僕に微笑む


   ずっと 夢を見て幸せだったな

   僕は Day Dream believer

   そんで 彼女はクイーン


   Ah Ah Ah Ah, Ah Ah Ah Ah.


   ずっと夢を見て安心してた

   僕は Day Dream believer

   そんで彼女はクイーン


   ずっと夢を見させてくれてありがとう

   僕は Day Dream believer

   そんで彼女がクイーン

                         ・・・♪

「この曲よく聞くよね。関連会社のコンビニでも流れてるし何かの映画とかビールか何かのCMでも使われてたよね?」

 と鼻歌交じりに歌いながら旦那に尋ねた。

「なんかずっと昔から聞いてるような気がするけどいつの曲なんだろうね?」

 と言って旦那はすぐさまスマホを取り出すと検索し始めた。暫くして、

「へぇ、これを知ったら聞こえ方変わるなぁ・・・。」

 勝手に自分の世界に入った旦那をほったらかして娘と食材を選んでいたらそんなことを言ってきた。

「この曲は『デイドリーム ビリーバー』って曲で・・・。」

「曲名くらいは知ってるよ!『夢見がちな僕』って意味でしょ!!もう携帯禁止!!!」

「まあまあ、いい話だから聞いて・・・。」

 私の注意も無視して旦那は検索結果を告げる。

 この曲はザ・タイマーズのゼリーこと忌野清志郎さんのカバーソングで1989年発表の曲。ずっと母親だと思っていた人が死に際で清志郎さんが3歳の時に本当の母親は亡くなっていること。姉妹の子だったから継母になったことを告げられた。そしてこの曲は今はもう会えない二人の母親に対して唄った曲ということ。

 旦那は涙目になりながら説明し、歌詞を読み上げてくれた。そうして改めて歌詞を聞くと母親に対する思いが伝わってきて涙腺が緩むのを感じた。私も母親の女手一つで育てられてきた。母親への想いは普通の人より大きいからだ。そして、忌野清志郎さんの気持ちに共鳴していたからだ。

 私はそれまでこの曲を聞いては過去の彼氏を懐かしく想ったり、ついヤツを思い出して嫌な気分になったりしていたがこの曲が今はいない恋人ではなく母親を想っての曲だとしって「忌野清志郎さんごめんなさい!」と心の中で懺悔した。そう、この曲を歌った忌野清志郎さんももうこの世にはいない。

「ねぇ、この曲原曲は英語でしょ。そっちはどんな歌詞なの?調べたついでに調べてよ?!」

 何となく昔彼の歌っていた歌詞が気になって聞いてみた。

「よく知ってるね。この元の曲は1967年の曲だよ?」

「あぁ~、昔仲のいい友達に『ビートルズ』とか『カーペンターズ』とか古い洋楽が好きな人がいてね。時々洋楽の歌詞の方を口ずさんでたんだよ。心地好い曲だなぁと思ってたんだけどどんな歌詞だか忘れて気になっちゃったんだよ。」

 と相手が男ということは伏せて正直に答える。

「ふーん、いい趣味してるね。その人。」

 そう言って検索結果ででた洋楽の方の歌詞と和訳のあるホームページを旦那は開いて見せてくれた。そうして若干の違和感を感じた。

「あれ?『The six o’clock alarm(6時の目覚ましが鳴るよ)』じゃなくて『wake!Wake!She said to me』じゃなかったっけ?」

 と思って初めて彼がこの曲を歌った時のことをかすかに思い出していた。ただ、このくらいは私の記憶違いかもしれないと思ったがその後の歌詞を見て彼の替え歌だったことに気付いた。一番の歌詞なんかはひげもそらず寝ぼけ続けていたような歌詞だったし、2番の歌詞も『dollar(お金)』ではなく『time(時間)』と歌っていた気がする。

 そして、あの歌が私に対して唄われていたことを決定づける歌詞が目に飛び込んできた。2番の冒頭『You once thought of me,As white knight on a steed(前に僕にこう言ったね 白馬の騎士様のようだって)』と言うところだ。彼は保育園の時のことは憶えていないと言っていたが本当は憶えていたんだ。帰り道で暴行事件の時に言った『騎士』という言葉は偶然ではなかった。彼はずっと私を守るためにいてくれてたんだ。

「なにも去り際まで昔の少女漫画に出てきそうな騎士様のようにいなくならなくてもいいのに・・・。」

 と思うと自然と涙が溢れてきた。改めて忌野清志郎さんの歌詞も頭の中に流れてきた。『ケンカしたり仲直りしたり』、『ずっと夢を見て安心してた』、『ずっと夢を見て幸せだったな』『優しい目で僕を見ている』・・・。

 彼のあの笑顔を思い出す。何もかも忘れて安心させてくれる言葉のない『もう大丈夫だよ』『問題ないよ』『安心しなよ』『もう泣くことないよ』『僕がいるよ』と語る笑顔を思い出しでさらに涙がこみ上げてくる。

 滾々と湧き出る石清水のように止め処なく流れる涙を見て旦那と一人娘は驚いて、心配そうな顔をしている。

 娘は私の顔を覗き込み、

「お母さん、大丈夫?どこかイタイの?」

 と悲しそうな眼をして聞いてくる。旦那もまるで自分が泣かせてしまったかのように急にオロオロして、

「ど、どうしたの?」

 と尋ねてきた。

 私は涙を止める努力もせず、でも無理に笑顔を作りながら二人に伝える。


「教えてあげてもいいけどヤキモチ焼くなよ?!」

 私だけの『騎士様』、私の『HERO』の話を・・・。

 本当に最後の最期まで読んで頂きありがとうございます。「いいね」感想など頂けると今後の作品作りの励みになりますのでよろしければお願いいたします。


 序章の前書きに違和感を覚えると思うのでラストで解説しますと書いていたのでそのことについて書きます。

 主人公が家族に彼(『私のHERO』)の話をしている内容は実際には1話(序章の次の話)からになります。序章は主人公の女性が彼のことを想いだすきっかけになった大型商業施設のBGMを聞く前にまるでそれを促すかのように、前兆のようにその日の朝みた夢です。彼女自体は夢の内容を覚えていません。今の家族に満足しているからです。それでも何か虫の知らせのようなものとしてこの序章が彼女の夢として書かせて頂き、物語の導入とさせて頂きました。

 普通に書けば20年前に流行った携帯小説と同じような内容ですので(実際にはかなりその流れを意識して書いていましたが・・・)色々な伏線をはり、最後のどんでん返しをどうするかに当たり最初にこの結末方法を思いついたためこのような形を取りました。

 そして、作品内に出てくるたくさんの曲名、そしてアーティスト名を使わせていただいたことをここでお詫び申し上げます。なろうは無料ですので商業利用ではありませんが版権に触れるか怪しいところです。ラストにもあるように曲を聴くことで思い出すこと、新たに知ること、新たな感動など日常によくあることだと思います。サブテーマとして『歌の力』みたいなのも書きたかったためです。携帯小説ではよくあった手法ですねwww

 洋楽の翻訳に関してはストーリーに合わせるために自分の解釈で訳したものになりますのでその点も理解して頂ければ幸いです。


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