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私のHERO  作者: 筆上一啓(フデガミカツヒロ)
17/19

修学旅行

 たくさんの作品の中からご興味を頂きありがとうございます。この作品は1990年代を舞台にしています。作品内のリアリティのため実在する地名、人名、商品名、企業名を利用している場合はございますがストーリー自体はフィクションとなります。実在する人物、及び、商品、企業とは関係ありませんのでご注意をお願い致します。

2年生の最大のイベントと言っても過言ではない修学旅行が近づいてきた。この時再び彼と関わる機会が増えた。彼も私も修学旅行の班長に選ばれていた。修学旅行に行く前から自由行動の計画書の提出やそれに関わる班の意見のまとめなど班長会議は行われていた。修学旅行中は男女別のホテルや別の棟になり先に男子をホテルに入れて男女がホテル内で会えないようにされていたので、修学旅行の宿泊先で男女が一緒なのは入浴前の班長会議のみだった。そこで私は関谷さんとの、彼は戸摩君との橋渡し役となってお互い最終日のディズニーランドの計画を立てていた。私は班の全員が彼氏彼女を作っていたので最終日は戸摩君とのデートを楽しむことができそうだった。班の全員に集合時間と集合場所だけ確認したら後は恋人と好きに過ごしてもらうことができた。しかし、彼の方は数名の男子が彼女ができず班で行動することになりそうだった。彼は私に関谷さん宛の手紙を毎日渡してきた。内容は見ていないけどそれを受け取って読む関谷さんの顔は都度一喜一憂していたので嬉しいことも悲しいこともあったのだと思う。

 3日目の立山アルペンルートを長野県側から抜けた日だった。彼は入浴前の班長会議にジャージ姿で現れた。しかも、頗る顔色が悪い。

 話を聞くと途中休憩のために立ち寄った休憩所で夏にもかかわらず雪が積もっていた。そこで九州から来た私たちにとってはこれほどの積雪の後は珍しく、みんな歳を忘れて休憩時間に雪合戦など雪遊びにいそしんでいた。その時彼を含めた数人が川の上に積もった雪を踏んだらしく川に落ちたらしいのだ。雪解け水で冷たい川に落ちたことでその数名は体調をみんな崩して、彼も班長にも関わらずその後バス待機となったらしいのだ。その後その数名だけ先にホテルに移されて風邪を他の生徒にうつしてはいけないと養護用に準備された先生たちの近くの部屋に男女混合で休まされているらしかった。

 班長会議が終わるとそれを関谷さんに伝えた。彼女はすぐに部屋を飛び出して私から聞いた先生たちの部屋に向かった。彼の見舞いをするために養護用の部屋を聞きに行った。しかし、その甲斐虚しく「風邪がうつってはいけないから」と追い払われたらしい。来たことだけは伝えておくと言われたが彼女は満足している様子ではなかった。彼女は彼が花粉症で休んでいた時のようにみんなとにこやかに話している合間に時々呆けるような感じで虚ろな表情を見せていた。それが私の心にも刺さり痛々しくあった。

 しばらくして遅い時間に彼と数名の男女が浴場から向かってくるのに出くわした。彼らはゆっくり温泉につかり体を温めるように言われてみんなと時間をずらして入浴していたらしい。彼に話しかけて関谷さんが見舞いに向かってくれていたことがちゃんと伝わっていたのを知った。彼から「心配をかけてごめん。大丈夫だから修学旅行が終わったらゆっくり話そう。」と伝えるように言伝を受けた。それを彼女に伝えると嬉しそうにしながら、

「じゃあ、養護室はこっち(女子生徒用の棟)側なんだね。会えるかなぁ?」

 と私が考えもしなかった推理をして部屋を出てうろうろしていて、先生に注意されて部屋に戻らされるまで戻ってこなかった。彼女の推理による部屋の捜索は間違ってないないだろうけど体調不良の生徒を不要不急で部屋の外に出すのを許可しないだろうし、養護員の先生も同室なのだから彼に会いたい気持ちは分かるが会えるはずもなかった。

 そんな健気な彼女を見るのがとても心苦しかった。私は彼のことを彼女に伝えることで彼女を苦しめたのではないかと後悔した。


次の日には彼も体調を戻して自分の班に戻りディズニーランドでの1日を過ごして最終日を迎えた。九州に台風が接近しているということもあり午後に予定されてた上野公園の自由行動はキャンセルになって急遽帰ることになったことを除けば大した問題も起こらず無事に修学旅行を終えることができた。

 しかし、これは学校全体での話で個人別ではそうでもなかったようだ。彼と同じく川に落ちた生徒の中に体調がひどく悪化し近くの病院に運ばれた生徒がいて病院での検査の結果、初期の鼻癌であることが判明し、そのまま九州に返され即入院になった生徒もいたようだ。これも彼に聞いた話だけど、4日目のディズニーランドでの班行動は彼が知らない間に班のみんなが彼氏彼女を作っていてせっかくのディズニーランドの行動が一人になってしまったというのだ。彼はすぐに関谷さんを探すことにしたが広いランド内で彼女を探し出すことはできずにその日を終えてしまったというのだ。彼が同じ学校の生徒を見つけるたびに関谷さんの居場所を聞いて回ったがわからず途方に暮れていると「一緒に回ろう」と他のクラスの恋人出来なかった組に誘われて失意の中彼らと行動を共にしていたらしい。

 そんな話を自虐的にも面白おかしく話す彼に私や戸摩君、関谷さん、莉乃さんで笑っていると彼は関谷さんにディズニーランドのお土産袋を渡した。

「開けていい?」

 と帰宅まで待てないといった雰囲気で彼女は彼に尋ねる。

「いいよ。」

 と彼が言うと関谷さんは嬉しそうのその袋から包みを出してそれを広げる。その10㎝四方ほどの包みの中から出てきたのは「K・S」と彼女のイニシャルが入った鍵の形をしたキーホルダーだった。それを見ると彼女はとてもうれしそうに笑って、

「私からも・・・はい!」

 と言って同じ大きさのお土産袋を彼に渡した。彼も同じように、

「開けていい?」

 と聞くとOKの返事をもらって包みを取り出す。その包みも彼のプレゼントと同じ大きさだった。もしかしたらと思ったが予想通りだった。包みを開けるとそこには彼のイニシャルが入ったカギ型のキーホルダーが入っていた。彼は同じことを考えて同じものをお互いにプレゼントされたことがよほど嬉しかったらしく表情が緩んで仕方ない。

 私は二人をからかうつもりではなかったのだけれどふとある都市伝説を思い出してその場で話し始める。

「そういえば知ってる?そのカギ型のキーホルダー、お互いのイニシャルが入ったものを贈りあったカップルは将来結ばれるんだって!」

 なんの根拠もない女の子が好きそうな都市伝説というかおまじないというか、消しゴムに名前を書いて使い切るくらいの信ぴょう性しかない話だ。

 しかし、その場は盛り上がる。莉乃さんも戸摩君も彼らを囃し立てる。二人は恥ずかしがって顔を真っ赤にする。

「ちょっとまって!恥ずかしいから一回返して!!!」

 と無理なお願いを彼は関谷さんにする。

「ダメ。一回もらったものは返せないよ。」

 関谷さんは恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにしている。その様子をみてさらにその場が盛り上がる。彼はとうとう観念してプレゼントの回収をあきらめる。その後、関谷さんに誘われるようにして二人は仲良く下校していった。

 残った3人がほほえましくそれを見送りしばらく二人の話で盛り上がっていると戸摩君が急にキーホルダーの話に戻す。

「ところであのキーホルダーのうわさ本当なの?」

「さあ、わたしも聞いたことがあるだけだから知らないけど・・・。」

 正直に女子の間のうわさで修学旅行の前に聞いたことがあるだけと伝える。

「一緒に回っていたのにあんなの見かけなかったよね?」

 続けて彼が質問してくる。確かにその通りでそのうわさを知って将来結ばれたいと思うカップルが一生懸命ランド内を探していた話も聞いたし、修学旅行前のそのうわさを聞いた時も探すといっていた女子は多かった。

「ショップ内では見かけなかったね。どこかアトラクションの近くでしか売ってなかったのかな?」

 彼の問いに私は答える。

「ねえ、そのうわさ知っててなんで探そうとしなかったの?」

 彼のもっともだけと残酷な質問が私を苦しめる。

「忘れていたのもあるけど、わたしおまじないとかあまり信じないから。叶ったためしないし・・・。」

 そう言うと彼は納得したようだった。そう、おまじないなんて心やすめで叶いっこなんかないのは十分知っている。それで叶うんだったら中学生の時の彼の消しゴムに書いた私の名前は何だったんだという話になる。

「先輩たちも一生懸命探してもなかなか見つからなかったからお互いに見つけて贈りあったら結ばれるなんて話になったんじゃない?」

 莉乃さんの最もらしい推測でその場が治まる。

「いいなぁ。もし、今度二人で行ったら一緒に見つけよう。」

 戸摩君の唐突の提案に私は顔を赤くする。遠巻きにプロポーズのようなことを言うからだ。

「もう!」

 と言って私は恥ずかしさのあまり彼を叩く。クスクスと莉乃さんは笑って場がさらに盛り上がってきていたが列車の時刻が近づいてきたので彼と莉乃さんに別れを告げて私も下校する。彼も正門までは一緒に来てくれたがそこからは道が違うので別れる。もう見えなくなっている関谷さんと彼を帰った方向を目で追い『うらやましいなぁ。私も家まで送ってもらいたいなぁ・・・』なんて思っていた。

 

 次の日も修学旅行の話で盛り上がった。彼が川に落ちたときの話も結構面白かった。まるでバラエティー番組のように急に床が抜けて落ちるように数人の生徒が地表から突如姿を消したというのだ。気が付いたら真っ暗だし、寒いし、濡れているしと散々だったのに面白おかしく話すのだ。靴が濡れて履けなくなったからお土産屋さんで買ったサンダルで1日過ごした話も面白かった。

 彼のクラスの委員長で班長でもあった金丸愛伽カナマルマナカさんとバスで一番前の席で二人で居眠りをしてしまいバスの揺れで偶然二人が人の字になって寄り添いあった瞬間をバスガイドさんと数人の女子生徒に写真にとられて変な噂が流れた話もしてくれた。それも彼わ面白おかしく話すのである。

「清水寺で鉄下駄触らせて浮気できないようにしておいて浮気するわけないのに!」

と少し怒り気味で話す。彼曰く、金丸さんと寄り添って寝ているところを写真に撮ったバスガイドさんが京都の清水寺で男子の一人に鉄下駄を触るように促したのだ。それに乗って彼が鉄下駄に触ると、

「ふふふ、触りましたね・・・。その鉄下駄に触った男性は浮気ができなくなるといわれています。」

とバスガイドさんに言われたらしい。

「ええっ!って浮気っていけないことなんだから別に悪くないんじゃない?!」

と彼は一瞬驚いてから正論を述べるとバスガイドさんは「それもそうですねぇ」と笑うもクラスの男子たちに彼は「ご愁傷様www」と声をかけ続けられたらしい。

再びディズニーランドで関谷さんを探しているときの話で途中ショップで一人で行動する校長先生と遭遇して、班のために彼女とのディズニーランドの行動を諦めたのに班のみんなに裏切られて当日一人になったことを愚痴ったら苦笑しながらも同情したようで一緒に軽食をしていろんな話をしたことなどを話してくれた。

都度面白くて笑えたのだが彼が金丸さんとの話をした時には関谷さんが不機嫌になっていないかと不安になって様子をうかがってみたが一緒になって大笑いしていた。彼が屈託なく話す姿に後ろめたい気持ちがないことを察しているのだろう。しかし、それでもよほど信頼していなければこうやって笑ってはいられないだろう。彼女は彼のいないところで彼の心配をするときは普段からは想像できないほど暗い顔をするのをこれまでにも見てきているから彼女と彼の信頼関係は本物だと思わされた。

 信頼関係といえば修学旅行中にもこんなことがあった。

 彼は私たち女子の寝室である3等客室(雑魚寝の部屋)のBルームに文化部の女の子たちに手を引っ張られて連れてこられた。そのグループの中で彼は彼女たちに頼まれては『名探偵コナン』の『コナン君』や『スラムダンク』の『宮城リョータ』など頼まれたイラストを次々と描いて(描かされて?)いた。

 私と関谷さんはそのグループの斜め後ろの島にいた。彼がこちらを気にする様子もなく女子たちに囲まれながら延々とリクエストに応えるのに関谷さんより先に私のほうが我慢の限界を先に越してしまった。

「彼女が近くにいるのに一言も声をかけないとかありえなくない?!」

 怒っている私に関谷さんはニコニコしながら答えた。

「彼は人気者だからねぇ。それでいて誰にでも優しいからしょうがないよね。」

「でも・・・。」

 となおも怒っている私に関谷さんは続ける。

「私は彼が私といる時間を作ってくれるだけでうれしいよ。その時間を大切に思ってくれているのもすごく嬉しいんだよ。」

 と代わりに怒ってくれていると察してくれたようで窘められる。そのあまりの健気さに彼女がものすごく愛おしく思えて思わず抱き着いてしまった。

「なに?なぁに?」

と彼女。

「関谷さんがかわいいから抱きしめたくなっちゃった。」

「お互いに浮気だねぇ。」

そう言って彼女は私たちの談話に話を戻しにこやかに、そして彼によく似て面白おかしくいろんな話をしてくれた。その話に都度大笑いしながら彼女の様子を伺うも花粉症の時のような不安げな呆けた表情は一切見せなかったので彼女の中でこのことは許せているのだろうと思った。

 最期まで読んで頂きありがとうございます。「いいね」感想など頂けると今後の制作の励みになりますのでよろしければお願いいたします。

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