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私のHERO  作者: 筆上一啓(フデガミカツヒロ)
11/19

成長

 たくさんの作品の中からご興味を頂きありがとうございます。この作品は1990年代を舞台にしています。作品内のリアリティのため実在する地名、人名、商品名、企業名を利用している場合はございますがストーリー自体はフィクションとなります。実在する人物、及び、商品、企業とは関係ありませんのでご注意をお願い致します。

 3年の2学期後半、彼の怪我も治ったなんでもない日の昼休み歯磨きをするのに手洗い場に行くと偶然彼と隣同士になった。

「よお!」

「珍しいね。ここ(1階手洗い場)で会うの久しぶりじゃない?ちゃんと歯磨きしてるの?」

「なに?その人のお姉ちゃん面したセリフ。毎日、ちゃんと磨いてるよ。いつもは3階の生徒会室前の手洗い場で磨いてるから!」

「なんで、わざわざそんな遠いところで磨いてんの?」

「ほとんど人がいなくて、落ち着くから。」

「わざわざ1階の教室までコップと歯ブラシ戻しに来ないといけないのに?」

「巾着に入れてるから昼休み中持っててもそんなに邪魔じゃなくない?そっちこそ、卒業アルバム委員会でしょっちゅう3階に用事あるのに混む1階で歯磨きする方が時間勿体なくない?」

「う~ん、考えてみる。」

 後ろが込み合っているので話すのもそこそこに歯を磨く。口を漱いだところで後ろから三園さんが声を掛けてくる。

「二人すごいね。歯磨きのタイミングが全く一緒だった!息ピッタリだね!!」

 何を言っているのだろうと尋ねてみると、私たちの歯磨きのタイミングが磨き始めてから磨く順番、長さが口を漱ぐまで全く一緒だったと言うのだ。さらに奥歯を磨く時の首を少し傾げる仕草なども全く一緒で驚いたんだそうだ。

 それもそのはず。私たちは保育園の時から一緒で同じ先生に歯磨きを指導されてきたのだからタイミングが一緒になることに何の不思議もない。

 そう言えば、保育園のころも同じような事を言われていたんだった。保育園の年中さんだったころ、私と彼は別々の教室だったのだけれども一緒に写っている写真が結構多かった。その為、年少からずっと一緒の教室だと思っていた。本当は彼か私がお互いの教室に乱入していただけだった。それが許されて写真に収められていたのは、お遊戯の時間に二人が息ピッタリに踊ると周りの子たちも釣られて楽しそうに踊り出すからだ。まず、彼と私にお遊戯の振り付けを教えると後は二人がみんなを引っ張ってお遊戯の振り付けを憶えさせてくれるので先生もすごく助かっていたらしく、二人をうまく利用していたみたいだった。そんなことが保育園時代の連絡帳に書いてあったのを憶えている。

「そんなことないよ。」

「そんなことないよ。」

 三園さんへのリアクションに彼と声が揃ってしまう。それにまた気を良くした三園さんにからかわれてしまう。それを軽く受け流すと私たちは後ろの生徒に手洗い場の順番を譲る。教室に向かう途中、ふと彼を見上げる。

「ねえ、また背ぇ伸びた?」

 細やかな違いだけど、彼を見上げる首の角度が違ってきているのに気付いた。

「ん?秋の身体測定の時は168㎝だったかな?」

「もうちょっとあるんじゃない?測りに行こっか?」

 彼は面倒くさいと断るが、タイミングよく沖田君が現れて私に賛同してくれる。面白いこと好きの沖田君がただ身長を測りに行くことだけに何の面白味を見つけて彼を連れ出すのを手伝ってくれたのかは分からない。ただ、沖田君のおかげで彼と今日も関わることが出来たことに感謝した。

 1年の時と同じように保健室に行くとまずは沖田君の伸長を測る。いつも猫背の沖田君が身長体重計に乗ると背を伸ばす。背を伸ばすと意外と身長が高いことに驚かされる。私では目盛が見えないので彼に見てもらう。

「171㎝だね。」

「オレ、猫背だから見た目は低く見られるんだよね。」

 二人は他愛のない話をしている。私は彼に早く身長体重計に乗るように勧める。彼は身長体重計に乗る前に制服の上着を脱いで私に渡す。その制服の上着があまりの重さに落としてしまう。「ずちゃ」と鉛でも落としたかのような重い音が床を叩く。

「きゃっ!」

 私は驚いて思わず声を上げる。

「あははははは、ピッコロのマントみてぇ~!」

 そう言って沖田君が大爆笑している。

「そう言えば、悟飯もマントを受け取ろうとして落としたっけ?」

 どうやらドラゴンボールZのワンシーンと似ていたようだ。言われてみると私の家でも特に見たい番組が無い時は見るともなくドラゴンボールがTVで映っていてそんなシーンがあったような気もする。それでなんとなく気付くとこが出来た。沖田君はこうなることを知っていたんだろう。彼もそれを分かって私をからかう様に上着を渡したんだろうと思う。

「もう!何のためにこんなことしてんの!」

 軽くキレている私に彼は別段機嫌を取る様子もなく答える。

「部活辞めても、筋肉が衰えない様に鍛えてるんだよ。」

 そう言いながら彼は両手首に付いた鉛入りのリストバンドを外す。そこまでかと思ったら足首にも同じく鉛入りのリストバンドを付けていてそれを外す。床にそれらを投げるたびに「ガチャンッ!」と金属音が響いた。沖田君はさらに、

「マジで、ピッコロみてぇ!」

 と言ってさらに笑っている。その間に彼の上着を拾い上げて内ポケットを探ると振ると砂が擦れるような音がするホッカイロの様な袋がたくさん出てきた。ただ、ホッカイロと違ってやたらと重い。試しに一つ落とすと先ほどの「ずちゃ」と鈍い音がする。それを見て沖田君はさらに笑い転げる。一方、私はあきれてものが言えない。

「ねぇ、まさかそれ付けたまま体育とか持久走大会の練習とかしてないよね?」

「あっ、バレた?」

「ばっかじゃない!怪我治ったばっかしなのに、そんなことしてまた怪我したらどうすんの?!」

 決して口にはしないけど、怪我するたび密かに心配しているこっちの身にもなってほしい。彼は珍しく少し反省したのか「あはは」と笑ってごまかしている。きっといつものように反省していなければ「大丈夫だよ。」とか言って何かしら理屈っぽいことを言っていたに違いない。

 彼はようやく身長体重計に乗る。

「171㎝!」

 今度も私には目盛が見えないので沖田君が見てくれる。

「おお!怪我している間に3㎝も伸びてる!!」

 彼は驚いているようだった。ちなみに体重は55㎏だった。相変わらず痩せている。痩せすぎている。前に聞いたが怪我をしている間も怪我に響かないところの筋トレは続けていたようだった。体重をもっと増やしたいと言っている割にはいつもストイックに鍛えている意味が分からない。

「生意気なんだよ!」

 私は彼のおなかを「グー」殴る。本当は彼が「うっ!」って言って腰を折ったところで「このぐらいがちょうどいい。」と言って彼の頭に手でも置こうかと思っていたけど、現実はそうは上手くいかなかった。彼の固い腹筋に私の拳の方が「ポキッ」と音を立てて、彼に「大丈夫?」と気に掛けられてしまった。

「どこまで伸びる気よ!最近、あんたを見るたび首が疲れるんだけど!」

 私は相も変わらず彼に悪態をつく。

「180㎝くらいかな?」

「はっ、身長高くして女の子にモテたいとかサイテーだし!」

「そうじゃないけど、バスケがしたいから180は欲しいよね。」

 確かに彼にはそんな色気のために身長が欲しいと言う人間ではなかった。だけど、彼は本人が思っている以上にモテているのだ。実際に彼はこれまで2回は告白されているのを知っている。当然、彼はそんな話を私にはしてきたことはないけど、周りの情報網で知っている。彼は人をその気にさせるのがうまいと言うか誰にでも優しすぎると言うか、ちょっとしたさり気無い彼の優しさに触れてその気にさせられてしまうのだ。後はその悪戯好きの御茶目な性格とひょうきんで少しおしゃべりが過ぎるところが無ければもっとモテていたかもしれない。私としてはこれ以上彼が遠い存在になるのは何と無く嫌だった。

「せんせぇ、バスケがしたいです・・・。」

 立膝を突いて沖田君がスラムダンクの名シーンをマネしている。彼の「バスケがしたい」の言葉を受けての冗談だ。いつもながら沖田君のこの機転の速さと笑いのセンスは称賛に値する。彼とのコンビで何度笑わらせられたか分からない。いや、彼らと3人で先生たちに悪戯を仕掛けて周りのみんなを何回笑わせたか数えきれない。私たち3人は保育園からの友人でお互いに馬が合っていた。まあ、彼は途中で転園して5年生で再会してからだけど、それでもそれまでの時間を取り戻すのに時間なんていらないほど3人そろってからは無敵だった。

 彼は急に座り込むと指を震わせながら、缶ジュースが開けられない仕草をする。

「三井だったら俺はこのシーンの方が好きだなぁ。」

 どうやらこれもスラムダンクのワンシーンの様だ。

「あははははは、分かるけどそれはマニアック!」

 沖田君は分かるようで笑っている。私はよく分かっていないのにその雰囲気が楽しくて一緒になって笑う。だけど、彼の演技が迫真に迫っていたので冗談では無くて本当にそのシーンが忘れられないのだろうと思う。彼はこの年怪我で部活に参加できずに悔しい思いをしてきていたから、そんなやるせない気持ちをそのシーンに重ねていたんだと思う。

「ねえ、それミサンガ?」

 一通りやり終えて満足したのか制服の上着を着ようとした彼のYシャツの袖の隙間からオレンジや赤、黄色と言った暖色系でまとめられたミサンガが見えた。

「ああ、かっちゃんと九州大会前にお互いに頑張ろうって買って交換した奴だよ。」

 何の問題もないと言いたげな感じでさらっと彼は応える。かっちゃんとは『八塚(やつか 勝也(かつや』くんのことでありきたりなニックネームだが小さいことから『かっちゃん』の愛称で親しまれている男子のことだ。

「いや、お前モテるから女の子じゃないの?」

 いつもなら私のセリフだけど、沖田君の方から突っ込みが入る。

「そうそう、また部活で他の学校の女の子と仲良くなってんじゃないの!」

 私も沖田君に負けじと突っ込みを入れる。

「いや、本当にかっちゃんだって!」

「じゃあ、かっちゃんの腕にもミサンガついてるんだね?」

「いや、かっちゃんのミサンガは大会の後に切れたみたい。」

「ほら、やっぱり女の子じゃん!」

 私の追及は止まらない。

「はあ〜、どう言ったら信じてくれるかなぁ?」

「正直に女の子から貰ったって言ったら信じてあげる!」

「選択肢がないじゃん・・・。」

「あはは、観念しな!」

「・・・いい加減からかうの辞めてくれない?」

 彼のギブアップとも取れる発言にここまでにしてあげる。余りやりすぎると彼も怒ってしまう。私はそろそろ保険医の先生の眼鏡の奥の眼光も怖くなってきたので保健室を去ろうとする。

「ねえ、身長測らないの?」

 沖田君が私に語りかける。私から誘っておいて、私だけ測らないのも確かにおかしい気はするけど・・・、

「小学生から変わっていないから測らないんでしょ?」

 私の後ろに立っていた彼が私の頭を気安く「ぽんぽん」と叩きながら私の一番のコンプレックスを突いてくる。

「もう!気にしてるんだから言わないでよ!!」

 頭に置かれた手を払いのけると私は有りっ丈の力で彼の横腹を殴りにかかった。

「ボキッ!!」

 すごい音がして私の拳に痛みが走る。すっかり忘れていた。上着を着た彼は今、内ポケットに砂袋のようなものを仕込んだ歩くサンドバッグだと言う事を・・・。

「すごい音したけど大丈夫?」

 情けないことに彼に本気で心配されてしまう。

「誰のせいだよ!」

 私は彼に八つ当たりをして保健室を飛び出した。部屋を飛び出して彼が追ってこないことが分かると、走るのを辞める。私はふと2年前にも同じようなことがあったことを思い出してお互いに心の方は成長していないことを実感する。彼は相も変わらず女心を微塵も理解してはくれないし、私は私でいつまでも小学生の男の子の恋の様に素直になれず、彼をからかったり悪態をついてばかりだ。

 彼は中学に入ってからの3年間で色々変わった。自分の事を「ボク」と言っていたのが「俺」と言うようになった。ただカッコつけているだけで時々「ボク」と言うところが可愛かったりもする。身長は20㎝以上伸びた。体重もちょっとだけ増えた。元々空手をしていたから腹筋とかはあったけど、肩幅がついてきてがっちりとしてきた。女の子みたいな顔と声も男の子らしくなってきた。なかなか出来なかったバック転もレギュラーになれば団体競技のセンターでしなやかできれいなバック転をするようになった。私にからかわれてばかりだったのに、いつの間にか言い返したりやり返してくるようになった。

 一方で心の方は全然変わっていなかった。もしかしたら私にだけなのかもしれないけど女として意識されている実感は一度もなかった。小学生の頃、彼が何の意味があるのか若菜ちゃんとお互いにほっぺをつまみあい「ムニムニ」と揉んで遊んでいるところに私が加わったせいで彼は中学にもなって、気安く私に触れてくる。ちょっと油断した隙にほっぺを摘ままれて「ムニムニ」と揉まれた。身長差がついてくるとしょっちゅう頭を「ポンポン」とされた。

 1年の時なんか、中学にもなって未だにスカート捲りとかを繰り返す男子が移動教室の時に私のスカートを捲ってきたことがある。両手で教科書などの教材を抱えていたので盛大に捲られてしまい「きゃっ!」と声と共にしゃがみこんだ。慌てて誰かに見られなかったか周りを見渡す。その男子は悪戯が目的だから後ろからやってきて悪戯が成功したら、スカートの中身は確認することなく逃げ去っていた。振り返った真後ろには沖田君と彼がいた。

「見た?!」

 沖田君は、

「ちょうど違う方を見ていて見てない。くぅ~、惜しいことしたなぁ。」

 と気を使ってくれているのに対して彼は、

「アンダースコートだった。」

 とのうのうと答えた。

「なにしっかり見てんの!」

「いや、スカート捲り対策しっかりしてるなぁって感心しちゃってwww」

 怒っている私に気遣いもなく飄々と答える。

「ってか、なんでアンダースコートって知ってるの?普通、男子は知らないから『見せパン』とか言うのに!このスケベ!!」

「いやいや、それをアンダースコートって教えてくれたのそっちだし!『見せパン』とか言ってる男子の方が馬鹿なんじゃない?それに、ウチは妹二人いて両親が自営業で共働きだから洗濯の手伝いでしょっちゅう見てるし、女の子のパンツぐらい見ても何も思わないよ。」

 そりゃ、『見せパン』とか言ってからかってくる男子の方が馬鹿かもしれない。洗濯物で見慣れているかもしれない。けど、それと今の状況を一緒にしてほしくは無い。私はフォローしてほしいのに女心の分からない彼は私が怒るようなことしか言わない。

「バカ!!!」

 そう言うと私は次の教室に走り出した。

 まだまだ、似たような話はいっぱいある。それこそ3年分ある。彼は私の体型も3年間からかい続けた。私の方がほんのちょっとお姉さんなのにいつも妹みたいに頭ポンポンしたり、ほっぺをぷにぷにしたり、胸のこと馬鹿にしたり、身長のこと馬鹿にしたり、そのくせパンツ(ホントはアンダースコート)みても水着見てもまじまじと胸の大きさ確認しておいて「興味がない」っていつも言いやがって!!!私は一世一代の仕返しを思いつて実行することにした。

 最期まで読んで頂きありがとうございます。「いいね」感想など頂けると今後の制作の励みになりますのでよろしければお願いいたします。

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