序章『私のHERO』
この小説を見つけて頂き、そして、興味を持っていただきありがとうございます。
序章は高校2年生の春が舞台です。時代は1990年代中期。ラストと序章の入り口に矛盾があると後で言われそうですが、それはラストのあとがきで語ります。
小説は初心者に近いです。高校時代に文芸部の妹に作品数が少ないと無理やり手伝わされて書いた以来です。そして、過去に役者をやっていたせいか句読点などが読みに合わせて多い傾向にあるのですがそこら辺はご愛敬をwww
そろそろ私のナイト君がこの教室にも来る時間だ。飄々としていて、すれ違う知り合いには全員に笑顔で答えて、自分のクラスの2組から一旦1組に行って、この8組まで毎日のように昼休みと放課後を使って全てのクラスの友人たちに顔を出している。
「よお!」
「よっ!あっ、それ昨日発売のジャンプ?読んでいい?」
「いいよ。あっ、でも電車に乗る前には返して!オレもさっき貰ってまだ読んでないから!」
そう言って渡された漫画を私は読み始める。彼は8組の友人たちと話し始める。彼のポケットからはすごい種類のガムや飴が出てくる。そして友人たちと交換しながら少しだけ交換したそれらを口にする。彼曰く、1組から9組まで友人みんなにあってお菓子を交換するうちにお菓子は増えるし、漫画も貰えるらしい。お菓子は自分では余り食べないらしい。家政科棟の友人に会いに行くとその日の調理実習のお菓子やらなんやら貰えるらしくて、そこでおなか一杯になってしまうらしい。
10分ほどで彼は次の教室に向おうとする。
「ねえ、わたしは6時半の電車で帰るけど、何時に帰るの?」
「いつも通り8時かな?」
「ジャンプどこに行けば返せる?」
「じゃあ、今日は教室で宿題しておくから2組に来てくれればいいよ。」
「分かった。じゃあね。」
そう言って彼に手を振る。彼は私たちに手を振ると教室を出る。9組はスポーツ特待クラスで私たち普通学科より1時間早く授業を終えて部活をしている。9組には彼の小学生からの親友の三船君がいて休み時間に会いに来ている。彼はこの後、家政科棟で家政科の友人と家庭科の先生たちとお茶のみをして、その後、陸上部かサッカー部かハンドボール部かソフトボール同好会かバスケット同好会で汗を流すか自分の教室に戻って宿題を学校で終わらせる。彼が学校を出るのは7時半、全ての部活が終わったころにまた、部活をしている友人たちと帰る。電車の中でも他校の友人たちと語り合っている。とにかく友人がとても多く、ひとりひとりを大切にしている。私は彼のこの行動を『巡回警備』と勝手に呼んでいる。
しかし、彼がそんな行動をしているのには訳がある。中学時代、彼は新体操部だった。2年でレギュラーを獲得して九州大会にも出て、部活にすべてを捧げていた。この学校には新体操部はなかったけど器械体操部はあった、そこで体操を続けるつもりだったらしいけど、入学した前の年を最後に廃部になっていた。彼は体操部再興を目指して1年の時に学年中を回って部員を集めようとしたらしい。結局、人数も揃わず顧問も見つからず断念せざるをえなかったらしいのだけど、その時の行動で全てのクラスに友人が出来て、体が鈍らない様にといくつかの部活に非正式部員として参加し、さらに友人を増やし今に至っているのだ。
そして、彼はこの学校の有名人になった。たぶん、部員集めのデモンストレーションのつもりだったのだろうけど、1年の1学期、校内の奉仕作業の時に野球とサッカーと陸上部のあるあの広いグランドの端から端までバック転をしたのだ。上学年にも見られ、先生にも見られ、あっという間にその名前が校内に広がった。
そして、春の球技大会でも普段体育に全く本気を出していない彼がサッカーの試合のレフトフォアードにいた。本当はバスケットの試合に出ていた(クラスは違ったけど私もバスケの方にいた)んだけど、人数が足りなくなって助っ人で入ったんだとか。彼が中学までの体育でサッカーをまじめにしていたところを見たことは無かった。小学校の時、キーパーを任された時に目立ちたがり屋の男子たちが得点になるシュートはするけどディフェンスに全く参加しないことに腹を立てて、ゴールキックのセルフパスからの長距離ドリブルで相手チームをごぼう抜きし、味方(目立ちたがり男子)のパスの声も無視し、シュートを決めてしまった。それに気を良くしない男子たちに責められてから彼はまじめに体育の授業に参加しなくなっていたと聞いている。元々小学2年生の頃から彼は空手もしていたし、本来運動神経は良い方だったんだと思うのだけれどもそんな素振りは一切見せていなかった。
彼はこの球技大会のサッカーの試合でディフェンスを掻い潜り、左足でシュートを決めた。得点には繋がらなかったが次のチャンスでは右でシュートした。相手を翻弄するクロスドミナンスっぷりを発揮すると観客を沸かせたのだった(これ以降サッカー部をはじめ様々な部活に誘われるも体操部再興を理由に断り、体が鈍らない様にと練習だけに参加するようになった)。この時、私はバスケの試合中だったから見てはいなかったんだけど彼が私だけのHEROでなくなってしまったことが誇らしくも寂しくもあった。
序章を最後まで読んでいただきありがとうございます。もちろん、これだけでは面白さも伝わらないでしょうし、内容的にも物足りないでしょう。3節まで同時に投稿するつもりですので気になった方は続きを読んで頂くと大変光栄です。